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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第3章 闇に紛れるモノ
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第33話 悪夢の始まり

「あれは、何だ?」

王国の西門に備え付けられた見張り台にいた衛兵の一人が、異変に気が付く。

月明かりだけに照らされている暗い平原の先。そこから眩しい程の光が上がっていたのだ。


「本当だ・・・。何だろうな? 山火事がなにかか?」

「まぁ、一応、報告に行ってくるよ・・・。かなり離れた所だろうから、問題は無いとは思うが・・・。」

そう言うと、見張り台の兵は、馬に飛び乗ると王宮へと走り出した。




「隊長ッ! 大変ですぜッッ!!」

王宮内の一室、主にヌオ村の管理を任せられている部隊の部屋に一人の衛兵が飛び込んで来た。


「何だ? こんな夜に・・・騒々しいぞ。」

今は、現隊長ベアと部隊兵、数人が酒を飲み交わしている所だった。ベアは至福の一時を邪魔された事に、少し苛立ち、さも不機嫌な顔を見せた。


「王国から西の方角。恐らくは、ヌオ村と思われる場所から、火の手が上がっているみたいなんですッ!」

「何ッ!?」

男から報告を受けたベアは、音を立ててその場に立ち上がった。しかし、他の兵達はそんな報告に特に何も思わない様子で、グラスを傾け続けている。


「隊長・・・。別にほっといても大丈夫ですよ。焚き火でもやって、ミスっただけですよ。知能が高くても所詮は獣どもですからねー。肉を焼いても、家は焼くなって言うじゃないですか。」

「ハハハ。そりゃ、傑作だ。慌てて、走り回る獣共の姿が目に浮かぶな。」

そんな発言に、ゲラゲラと下品な笑いが飛び交う。


バンッッ!!

だが、そんな部下達に態度に、ベアは強く机を叩いた。


「お前達は、あの村の重要度を何もわかっていないな・・・。今やヌオ村は、王国にとって重要な食力供給源なんだぞ。そんな村で何かあってみろ・・・。我々にも、相当な処罰が言い渡される事になるんだぞ・・・。」

凄むベアの表情と言葉に、その場にいる全員が言葉を失い、息を飲んだ。

そう、今は俺が隊長なのだ・・・。何かあれば、多大な責任を負うのは俺自身。獣人共などは、どうでもいいが・・・。


「わかったら、さっさと支度をして、村へ向かうぞッ! 急げッッ!!」

固まる部下達に叱咤を飛ばすと、ベアも急いで身支度を整え始める。部下達も先程とは血相を変え、バタバタと支度を始める。

大した事で無ければ良いのだが・・・。

だが、そんな想いを抱く、ベアの心境とは裏腹に、王国の西の空は更に明るさを増していくのだった。




部下達と共に馬車に揺られ、王国を出て数時間後。ベアは、前方部分から顔を覗かせた。


「これは・・・やはり、ヌオ村が燃えているで、間違いは無さそうだな・・・。」

「へい・・・。方角的にも、ほぼ間違いないですぜ・・・。」


そんな確信を得ると、ベアは軽く舌打ちをしながら、馬車の後部へと戻る。


「全員、戦闘準備をしろ。それから準備が終えた者から、周囲の警戒に当たれ。」

ベアは後部で座席に控えている部下達に矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「戦闘準備ですかぁ? そんなにヤバイ状態なんですかぇ?」

「わからん。しかし、ヌオ村で何かがあった事には間違いは無さそうだ。もしかしたら、火竜の襲撃の可能性もあり得る・・・。」


そんなベアの放った言葉に、部隊内でどよめきが起こった。


「えあッ!? 火竜ですってッッ? 冗談じゃ無いですぜッ!? そんな危ない場所に俺達だけで、行こうってんですかッ!?」

「まだ、そうと決まった訳では無い。只の例えだ・・・。それに、火竜がこんな王国の近くまで来る事は無いだろうから、大丈夫だろう。」


「はぁー・・・。全く驚かせないで下さいよ・・・。隊長も人が悪いぜ、全く・・・。」


ベアの言葉通り、火竜が王国の近くまで来る事は滅多に無い事なのだ。火竜にも縄張りの様なものがあるらしく、基本的には決まった土地にしかその姿を見せる事はない。


だが、ベアには、何か言い知れぬ嫌な予感がしてならなかった・・・。


火竜は無いとしても、何かしらの問題が起きている可能性は高い。では、一体何があったというのか・・・。


あのヌオ村の獣人は、従順な者が多く統率の図れた村だ。村人の反乱があったとは考え辛い。

恐らく、野盗か、別種族の襲撃が考えられるか・・・。どの道、面倒な事には変わりは無いな・・・。

そんな考えから、思わず深い溜め息が漏れ出してしまう。



暫くして、馬車は村の入り口付近に差し掛かった。そこで、馬車はゆっくりと動きを止める。


「全員、警戒しつつ、馬車から降りろ!」

ベアのその合図を聞いて、皆、恐る恐る馬車から、降り始める。最後に降りたベアは、剣を構えながら、周囲を確かめる。

近くに動くものの気配は無い。夜の静かな鳥の声と、パチパチと燃える音のみが聞こえてくるだけだ。


「やはり、村が燃えていたのだな・・・。」

前方に見えるのは、すっかりと形を変えた村の姿だった。家屋は次々と燃え上がり、大量の煙が夜空に立ち上っている。

しかし、異様なのは、村人の姿が全く見たらない事だった。


「全員まだ、警戒を解くな。このままの陣形で村へと入るぞ。」

全員が背中合わせに円陣を組む様な体勢のまま、村の広場へと侵入して行く。

しかし、広場に辿り着いても、物音一つする事は無かった。



「・・・誰もいやしないじゃないですか? こりゃ、コイツ等、火でも放って夜逃げでもしたんじゃないですか?」

「ああ、有り得るな。そんな村はよくあるって聞くぜ・・・。でも、王国の外周部に出て、火竜共の餌になるってのが、大半らしいぜ。バカみてぇだな・・・。」


何も起こらない安心感から、徐々に部下達の口からいつもの軽口が溢れ始める。


だが、ベアはどうも腑に落ちなかった。

確かに、部下達が言う様に、夜逃げの可能性もあり得る。しかし、この村は現在はかなりの高待遇を受けている村だ。危険を侵してまで、この土地を離れるメリットは薄い筈・・・。


「隊長、これからどうしますか? 一応、手分けして村を見て回りますか?」

「そうだな・・・。」


ベアは部下の提案を受け入れると、2人組を3分隊に分け、個々に村を捜索を始めるよう、指示を出した。

もう、村に着いてから、そこそこの時間も経つ。今さら、襲撃者が現れる可能性も低いだろう・・・。



そして、他の分隊の部下達とは一旦別れ、ベア達の分隊は村の中央、村長の家があった方角に足を進める。

激しく燃え上がる村長宅の脇を抜け、裏手に回って行く。相変わらず、何者の気配も無い。獣人の姿も無いままだ。


「隊長・・・。俺なんか、酔いがまわり過ぎて、少し気持ち悪くなって来ちまいましたよ・・・。」

「我慢しろ・・・。俺だって酒がまだ、残って居ていい気分では無いんだ・・・。」


ベアは、どこまでも真剣見の欠ける部下の軽口に溜め息を溢しつつ、村の様子を小まめに確認して行く。

それにしても、未だに人影一つ見当たらない・・・。これは、一体・・・。


そんな燃える家屋を見て回る、ベアの背後の森の木の一つ。その大木に、大量の血が付着している事に彼は、まだ気が付か無い・・・。




「全く・・・隊長の臆病さ加減には、参るな・・・。」

「そういうコリス、お前だって、火竜の話の時はビビりまくってじゃねーかよ?」


愚痴を溢す仲間をからかう様に、男は言葉を浴びせかける。この分隊は現在、シーデの家の裏手を捜索中の分隊だ。


「何だとッ!? テメェだって口をパクパクして、ビビりまくってじゃねーかよッ!」

「ハハハッ! そうだったか? よく覚えてねーなッ。」

「しかし、こんな夜に面倒くせー事になっちまったな。やってらんねーよ。全く・・・。よっと・・・。」


コリスはそう言うと、手頃な所にあった石に腰を降ろした。そして、剣を地面に突き立てると、大きく伸びをする。


「おいおい・・・。サボってるの、見つかると隊長に大目玉食らうぞ。」

「大丈夫さ。隊長なら、今は一人、熱心に捜索中だよ。見つかりゃしねーよ。」

「まぁ、それもそうだな・・・。」


そう言うと、男は一人、燃える家屋の裏手に向かって一人歩き始めた。


「おい・・・。どこ行くんだよ? お前も、勤勉さんにでもなるつもりか?」

「まさか・・・。便所だよ。馬車に乗ってる時から、ずっとしたかったんだよ。」


そう言うと、男は家屋の影に消えて行った。


「全く、最悪な日だよ、ホントに・・・。」

一人残されたコリスは、文句を溢し続けていた。


「今日は、この後、飲み屋のジュリちゃんに会いに行く予定だったのによ・・・。丸潰れだぜ、全く・・・。 クソ獣人共め。次の検査の時は、適当に因縁でもつけて痛ぶってやるしかないな、こりゃ。」

すると、未だ、文句を並べ立てているコリスの耳に、物音が聞こえて来た。



ガシャンッッ!

男の消えた方向で何かが、崩れる音がした。


「おいおい・・・。何を、暴れてんだよ、アイツは・・・。オーイッ!! 勝手な事すると、それこそ隊長に怒られるぞッ!」

しかし、何の返答も返っては来ない。コリスは大きく溜め息を吐くと、面倒くさそうに腰を上げ、音のした方向へと足を進める。


「オイッ! 下らない冗談はいい加減にしろよ?」

そう愚痴を溢しながら、コリスは家屋の曲がり角に差し掛かる。


「また、俺をビビらせようとしてもーー」

角を曲がった瞬間。

コリスは全身を凍りつかせた。

そこには・・・。全身を大量の返り血を浴びたまま、満面の笑みを浮かべる一匹の獣が、すぐ目の前に幽鬼の如く、佇んでいた・・・。

その手には、先程まで仲間の男が持っていた剣が・・・。そして、その柄には、持ち主だった男の腕だけが果実の様にぶら下がっていた・・・。




「隊長・・・。そろそろ、一度、戻りませんか?」

「お前は、さっきからそればっかりだな・・・。まぁでも、仕方ない。一度、戻るか・・・。これだけ、調べても何も見つからないからな・・・。」


また明日に、もう一度、調べに来るしかないか・・・。その時には火も、もう消えている筈だ。


「なら、隊長。その前に、ちょっと小便してもいいですか?」

「わかったよ・・・。さっさと済ませろよ」


ベアの言葉を受け取ると、男は森の木を目指して、走り出した。


全く・・・。子供じゃあるまいし・・・。

そして、ベアはまた溜め息を漏らした。

すると、次の瞬間。


「うわッッ!!」

先程の走って行った男の叫び声が、耳に届いた。


「どうしたッ!?」

その声を聞くと、直ぐ様、剣を構えながら、男の元へ走り出す。すると、男は大木の前で情けない体勢で座り込んでいた。


「何があったッ!?」

「た、た、隊長・・・。こ、これ・・・。」


男が指を指した方向、大木に目をやる。そこには・・・大量の血液が飛び散った木々があった。


「な、何だこれはーー」

そう言い掛けた時。


「ギャアァァァァッッ!!」

静寂を切り裂く様に、悲痛な男の叫びが響き渡った。

ベアも、へたり込んだままの男も肩をビクッと震わせる。


「た、たた、隊長ッ!?」

「いいから、早く起きろッッ!! 行くぞッッ!!」


ベアは、腰を抜かし欠けている男の腕を乱暴に掴むと、引きずる様に広場を目指す。

再び、村長の家屋の脇を通り抜け、一目散に広場に出た。


「隊長ッッ!!」

そこには、ベアより一足先に広場に戻っていた分隊がいた。彼らはベアの姿を確認すると、早足に走り寄って来る。


「さっきの叫び声はなんですかッ!?」

「わからないッ! お前達の方は異常は無かったのかッ!?」


見たところ、彼等は怪我などは一切していない。とすると・・・。


「コリス達の分隊ですかね・・・。」

「ああ、そうだな・・・。ここに、二人の姿が無い以上、そう考えるしか無い・・・。」


そう言うと、ベアは彼等が向かった家屋の方向を見る。今は、もう何の声も聞こえず、パチパチと木材の燃える音だけが聞こえるだけだった。


「よし・・・。全員で行くぞ。俺は正面を、お前らは左右の警戒をするんだ。」

「わ、わかりました・・・。」


ベア達はコリス分隊が進んでいった家屋の脇道へとゆっくりと進み始める。そして、脇道に差し掛かると、皆、緊張が高まっていく。

敵の姿が見えないというのは、非常に恐ろしい事だ。ベア達には今、自分達を狙っている相手が何で、それが何人いるかすらわからない状況。これ程、怖い事は無い・・・。


すると、仲間の一人が、何かを発見する。


「隊長、あれは・・・。」

男が指差した方向、家屋の曲がり角付近に、何かが落ちている。ベアは警戒心を緩めることも無く、ゆっくりとそれに近づいた。


「これは・・・。コリスの剣だな・・・。」

そう呟き、その剣へ手を伸ばすと、ある事に気が付いた。剣の少し前方に、大量の血の池が広がっていた・・・。


「うッッ! な、何だこれは・・・。」

その血はまだ新しく、十中八九、この剣の持ち主、コリスのものと見て間違いない。そして、この血の量・・・。彼はもう・・・。


「隊長・・・。コリスの奴は・・・。」

不安な声を漏らした部下に返答をしようとした時。


「うわッッ!!!! た、隊長ッ!! これ・・・。」

何かを見つけて腰を抜かした部下の一人の視線先に目を向けると・・・。


「うっッ!!」

ベアは目にした光景に思わず、口許を押さえた。

そこにあったもの。それは・・・一件の家屋の中、そこで盛大に焼かれているモノ達だった。

幾つもの身体が、まるで人形の様に折り重なり、その殆どは既に炭化している。

そこの山の一番上には、まだ焼け始めたばかりの・・・恐らく、部下2人のモノと思われる遺体も、あった・・・。

更にその異常さは、その数だ。一つや二つ等では無い。そこに転がっているヒトの数は、優に20人を越えている。


「た、隊長ッッ!! こ、ここはヤバイですぜッ!! 直ぐにここから離れましょうッ!!」

「そ、そうだな・・・。ここは、一旦退こう。」


ベアもその意見には、賛成だった。この遺体の数からして、恐らくはここで燃やされているのは、この村の獣人達と見て間違いない。

これだけの数の獣人を殺す者・・・。そんな者を相手に自分達四人でどうにかなるとは、とても思えない。

ここは、一旦、王国へ退くのが、最善手だ。


もう、皆、警戒など完全に忘れ、我先にと広場へと駆け出す。そして、そのまま、馬車が置いてきた。村の外まで駆け抜けた。

そこで、起きていた更なる異変に、ベア達は愕然とした。


「隊長・・・。これは、一体なんですか・・・。」

部下の一人が魂の抜けた様な声を上げた。だが、それも仕方なかった。

自分達が乗ってきた馬車もが、激しく炎を上げていたのだ・・・。


「こんなの、悪い冗談ですよね・・・。」

今のあまりに絶望的な状態に、誰も返す言葉が見つからなかった。

ベア達は今、見えない襲撃者に狙われている状態の中、逃げる足すらも失ったのだ・・・。


彼等の悪夢の夜はまだ、終わりそうに無かった・・・。




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