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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第3章 闇に紛れるモノ
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第30話 獣人の村

「メディ! シーデ! ご飯よ~!」


二人の母であるペルーサは家の扉から、顔を出して、村の広場で遊んでいる娘たちに声を掛けた。


「は~い! 今行く~!!」

「・・・うん。」


二人の娘たちは、一旦遊びを切り上げると、他の子供たちの輪から離れ、家へと向かう。

そして、家に入ると、母に向かい合う椅子へと腰を下ろした。


「はい! どうぞ!」


そう言って、母は二人の前に食事を並べた。

その食事は、小さな皿に半分程の米と、拳程の小さな大きさの鶏肉が一つ、それだけだった。

いくら子供が食べるとはいえ、その量は明らかに少く見える。


姉のメディは、その置かれた食事を見て、思わず不満を溢した。


「え~~! またこれだけなの!? これじゃあ、全然足んないよ~。」

「ごめんね・・・。でも、今はこの食事と決められているの。だから、我慢して頂戴。」


母はすまないそうに、笑いながら謝った。しかし、それでも納得がいかないと、メディはブツブツと文句を溢し続けた。

すると、横に大人しく座っている妹のシーデが、メディの前に自分の皿を滑らせた。


「・・・お姉ちゃん、私のも食べる?」

「えッ!! いいの!?」


メディは妹の思わぬ提案に目を輝かせた。しかし、母はそれを制する様に大きく声を上げる。


「何言ってる!! ダメよ! シーデは自分の分をちゃんと食べなさい!!」


そう言って、母は机に身を乗り出し、シーデの皿を元の位置に戻した。


「ちぇ・・・。いいじゃん!! シーデがいいって言ってるんだからさ~。」

「もう! 文句ばっか言ってないで、早く食べなさい! じゃなきゃ、あんたの分だけ下げちゃうわよ」


母は、今だ、文句を言う姉に言い放つ。

メディは、そんな母の言葉に恐怖を感じて、一目散に自分の食事を食べ始めた。シーデはそれを横目で見てから、ゆっくりと食事を食べ始める。

母は、二人の娘たちが食べる姿を微笑ましく思いながら、自分の食事に手を付け始めた。



ここは、王国の西に位置する獣人の小さな村、ヌオ村である。この村は、20人程の獣人たちが、王国の管理下も元、暮らしている。


しかし、それは決して王国に保護されているわけでは無く。どちらかと言えば監視されている様なものであった。

王国の兵士が常に、いるわけではなかったが、生活、食事までが全て管理されている。


週に一度は、兵士たちが訪問し、狩りの収穫の納品、それに毎日の食事のメニューと量を事細かに伝えていく。

食材については、王国側が全て用意するのであったが、その量は、彼らが一週間、狩りで捕まえた動物の肉と比例して決められる。

しかし、それは、建前上の事で、実際、収穫に比例しているかは定かでは無い。

これほど、徹底的な管理体制の理由は一重に、ヒトが獣人の驚異的な身体能力を恐れての事だった。



「じゃあ、お母さん! 私は、また外に行ってくるね~!」


メディは食事を綺麗に平らげると、ご機嫌で外へと飛び出して行った。母はその背中に声を掛けると、同じく食事を終えたシーデを見る。


「あれ? あんたは行かないの?」

「私は・・・いい。」


シーデは短く目の黄色い髪を揺らしながら、フルフルと首を振った。母は娘のその様子に、怪訝な表情を見せる。


「いいって・・・あんた。だって、友達を待たせてるんでしょ?」

「ううん。あれは、みんなお姉ちゃんの友達だから・・・。私はそこに入れてもらってるだけ・・・。」


シーデのそんな返答に、母は小さく肩を落とした。


「まぁいいわ。じゃあ、ちょっと留守番をお願いね。お母さんは、これから村の人達と狩りに出掛けてくるから」

「うん。いってらっしゃい」


そう言うと、母は簡単に身支度を整えてから、外へと向かった。そして、何かを思い出したようにシーデに振り返る。


「シーデ、もっと笑いなさい。明るく笑ってさえいれば、きっと毎日が楽しくなるから」

「・・・うん」


母の言葉にシーデは静かに目を伏せた。


「じゃあ、シーデ、いってくるね!」


母はそんなシーデに、笑顔でそう言ってから、家を後にした。

家に一人きりになったシーデは、椅子を一つ持って、それを窓際へと持って行く。


そして、窓枠に両手を組み、その椅子に座った。その窓からは丁度、広場を一望する事が出来た。


今、広場には姉と何人かの子供達が元気に駆け回っている。シーデの視線はそれを何となく追いかけていた。



・・・何で私は、こんななんだろう・・・。


私は大きな溜め息を漏らす。

お母さんはいつも、ああ言うけど、そんな事、私には出来ない・・・。

そして、再び大きな溜め息が、誰もいない家に響き渡る。



シーデには子供の友達がいなかった。

いつも、その事に姉が気を利かせて、シーデを連れ出し、一緒に遊ぶ事はあるものの、シーデはいつの間にか輪から外れ、一人、外から傍観している、というが、ほとんど。

しかし、決してシーデが皆に煙たがられている訳ではなく、シーデが自ら輪から離れていくという様子だった。


彼女のこの消極さは、無意識に心に劣等感を植え付けている事が要因であった。


姉は村でも、明るく元気が取り柄の少女だ。それに比べ、シーデは大人しく、無口な少女。

そして、極めつけは、二人の運動能力にあった。


シーデの運動能力はよく言っても、中の下。それに対して、姉は時には大人を上回る程の、身体能力を持っていた。

子供の世界というのは、運動神経がいい者がヒーローになると言う定番のルールがある。それはこの村の中でも変わらなかった。


太陽の様に輝く姉メディに対して、その光の影に埋もれていく妹シーデ。そんな状態が、彼女から更に積極性を奪っていったのだった。


でも、だからと言って、姉を嫌っているというわけではなく。寧ろ、いつもこんな自分に気を回してくれる姉に対して申し訳ない気持ちがいっぱいだった。


今も姉は、目の前の広場を誰よりも早く駆け抜けている。

お姉ちゃんはすごいな・・・。


そんな事を考えながら、食後の眠気と共に、ゆっくりと眠りに落ちていった。




それから数日後。

村にはいつもの王国の兵士が訪れ、村人は全員、広場に集まっていた。


「オラッ! 今週分をさっさとそこに集めろッ!!」


その場を取り仕切っている部隊長が、乱暴な声を上げる。

この村へやってくる兵のほとんどが、この様な荒くれ者で、少しでも反抗的な姿勢を見せようものなら、平気で暴力に訴えかけてくる。

村人達は、嫌な顔一つせずに、指示通りに狩りで得た食材を集めていく。


「これで、全部だな・・・。じゃあ、今度はあの馬車にこれを全部、積み込め」


こうして、村人が納品の作業を行っている時に、兵士達が各々の自宅のチェックが入る。

この村は、狩猟で使う最低限の武器以外の所持を一切禁止されている。それは、未然に反乱を防ぐ意味が込められていた。

もし、誰かの自宅から、そんな物が見つかりでもしたら、大変な事になる。


「よし、今回はこれで終わりだ。残りの作業はいつも通り、ヘンリーに任せる。俺たちは先に王国へ戻っている」

「はい、了解っす」


部隊長に任命されたヘンリーと呼ばれた兵士を残して、他の兵士は皆、王国へと早々に引き返して行った。


そして、納品物が乗った馬車が見えなくなると、村人の全員が深く息を吐き、今回は何もなかった事に全員が安堵していた。

村人達にとって、週に一度の、この日は気が重くなる日でしかない。しかし、シーデはとっては、この日が少し楽しみでもあった。


「おーい。シーデ、メディ。こっちに来て少し手伝ってくれ~」


二人はヘンリーに呼ばれ、嬉々とした表情で駆け出して行く。


彼は村へやってくる荒っぽい兵士の中で唯一、獣人にも分け隔てなく明るく接する人物だった。そんな彼は、シーデのみならず、他の村人達からの信頼も厚かった。


すると、シーデ達と一緒に荷下ろしを行うヘンリーに、村長が声を掛けた。


「ヘンリー様・・・。今週の分は、どうなのでしょうか?」

「そうっすね・・・。これから、いつも通りに一軒ずつまわって、献立の話はしますが・・・あまり期待しない方がいいかもしれないっすね・・・。」


彼は申し訳なさそうな表情を見せながら、村長に答える。


「いえいえ。ヘンリー様が謝らないで下さい。しかし、この量だと、我々も少し厳しい所がありまして・・・すみません。」

「王国へ戻ったら、自分から少し話はしてみます。でも・・・あまり期待はしないで欲しいっす。」

「ヘンリー様・・・いつも、ありがとうございます」


そう言って、村長はヘンリーに深々と頭を下げた。


「ありがとう、二人とも。じゃあ、僕はこれから、みんな家をまわるから、また後でな」

「はーい!」

「うん」


そして、ヘンリーは最初の家へ、シーデ達は母に連れられて自分の家へと戻って行った。


シーデは自宅へ戻ると、心踊る心境で彼の訪問を待った。

彼女は、ヘンリーによく慣ついていた。


最初の切っ掛けは、数年前に彼が一人、馬車の積み込み作業をしていた時の事だ。

荷物に腰を下ろし、一休みしていたところで、何となく元気に遊ぶ子供達に視線を向けていた。


子供は元気だな。今の俺にも、あの体力を少し分けて欲しいっすね。

そんな事を考えながら、眺めていると、一人の少女に目が止まった。

村を駆け回る子供達の輪から離れ、一人で木に背中を預けて座っている少女。


あの子は何をしているのだろう。

その少女の様子が何となく気になり、ヘンリーは少女の方向へ歩を進めた。


「こんにちわ。こんな所で何してるんっすか?」


シーデはいきなり声を掛けられて、ビクッと身体を震わせた。そして、更にその相手が王国のヒトとわかり、恐怖心が広がっていった。


「あ・・・いや、あ、あたしは・・・。」

「そんなに、怖がらなくて大丈夫っすよ。ほら、お菓子でも食べるっすよ」


そう言うと、ヘンリーは仕事の合間の糖分補給に持参していたクッキーの様な物を少女に差し出した。

シーデは、少し躊躇したが、ヘンリーの手からそれを受け取った。


「あ、あの・・・ありがとう。」


少女は短くお礼の言葉を口にすると、ゆっくりとクッキーを食べ始めた。


ホントは獣人に、勝手に食べ物を与える事は禁止されていたが、隊長にバレなければ大丈夫だろう。

たかが、クッキー一枚だしね。


「・・・美味しかった・・・。」

「そっかそっか。じゃあ、また内緒で、何かあげるっすね」


少女の微笑む様子を見ているだけで、自分の心は満たされていた。クッキー一枚でこんな気持ちにさせて貰った自分の方がお礼を言いたい気持ちだ。


ヘンリーの家には幼い頃から、獣人のお手伝いがいた。

彼の親は、仕事で家を開ける事が多かった。その為、その獣人が彼にとっての親代わりみたいなところがあった。

その為、大人になり王国に勤める彼は、今でも亜人種に対して偏見を持たない数少ない人物の一人でもだった。


「それで、君はみんなとは、遊ばないっすか?」

「あたしは・・・友達がいないから・・・。」


少女は暗い表情を浮かべて呟いた。

そうか・・・。自分にも、こんな時があった気がした。

今でこそ、明るい性格になったものだが、子供時は友達もあまりいなく、一人遊びが多かったものだ。

そんな時、自分の遊び相手になってくれていたのが、お手伝いの獣人ハーネだった。


ヘンリーはそんな事を思いだし、再び口を開いた。


「じゃあ、俺と友達になるっすよ!」


そう言って、少女に握手を求めて、右手を差し出した。



それから、訪問の度、二人が話す機会は増えていった。

シーデは最初こそ、彼に対してかなりの警戒心を持っていたが、唯一、自分と進んで遊んでくれる彼に対して徐々に心を開いていった。


暫くして、部屋に響くノックの音に、シーデの心臓は高鳴る。


「お邪魔するっすね」


彼が短く挨拶をすると、食材を抱えて入って来た。


「ヘンリー様、いつもありがとうございます。それで、今回は・・・」


机の上に、今回支給された食材を並べているヘンリーに、母はおずおずと尋ねる。


「はい・・・。今回も、前とあまり変わりないっす・・・。どうか、もう少しの間、頑張って下さい・・・」

「そうですか・・・。」

「えぇ~~~! また少ないの~~!」


並べられた食材達を見たメディは、大きく不満の声を上げる。


「ごめんな。メディ、でも、直ぐにいつもの量に戻ると思うっすから」

「すぐって、いつなのよ~~!?」

「それはっすね・・・。」


尚も引かないメディに困った表情を見せるヘンリーを見て、母が割り込んだ。


「こらこら、メディ。ヘンリー様、困ってるじゃない、そのくらいにしときなさい」

「は~い」


メディは母に咎められ、納得がいっていない様子だが口を紡ぐ。


「シーデもごめんな」

「ううん・・・。大丈夫だよ。それより、遊ぼうよ」

「よし、じゃあ、もう少し待ってほしいっす」


彼はシーデと約束をして、母と献立についてあれこれと話し始める。シーデはそんな彼の様子を、ウキウキしながら眺めていた。

すると、そんな様子に気が付いたメディがシーデに声を掛ける。


「あんた、ほんとにヘンリーの事、好きね~。」

「え、うん・・・。お姉ちゃんは嫌いなの?」

「ううん。私も好きよ~。ちょっと軽そうだけど・・・。でも、彼、優しいじゃない?」


部屋の隅では、彼には聞こえない声量で、子供二人の少しませた女子会が開催されている。その議題に上げられているヘンリー本人はそんな事とは露知らず、熱心に仕事に興じていた。


そして、暫くして、二人を呼ぶ声が部屋に響くのを合図に、パタパタと二つの小さな足音が聞こえた。





「リーク隊長、ヘンリーのヤツは、今日もきっと帰りが遅いと思いますぜ」


王国内の兵士の詰め所にある隊長の私室では、獣人の村から戻った者達が軽い宴会を行っていた。まだ、日も高いにも関わらず、空になった酒樽が、そこかしこに転がっている。


「またか・・・。まぁ、アイツがあの獣共を手慣付けてくれてるお陰で、俺たちは、こうやって、楽が出来てるんだけどな」


リークと呼ばれた男は、木のコップを片手に持ちながら、盛大に笑う。


「アイツもほんっとに物好きだよな~! ワケわかんないヤツだよ。ホンットに!」


そんな一人の言葉を聞いて、幾つもの下品な爆笑が部屋を覆う。

すると、その中の一人の男が何かを思い出した様に、リークに声を掛けた。


「そうだ・・・。リーク隊長。面白そうな話を仕入れて来たんですが、ちょいと聞いては貰えないですか?」

「おぉ? 何だ、話してみろよ?」


そう言うと、男は下品な笑みを浮かべたまま、その詳細を話し始めた。




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