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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 二つの世界を繋ぐモノ
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第24話 無力

私は、話について行けずにいた。

突然、この場に現れた一人の女のヒト。

その女性と、少し怖い雰囲気で話すレンガ。

そして、机に置かれている板に、写し出されたヒト達。


それが何なのかはわからない。

でも、その絵の中で次々に死んでいくヒト達は、見ていてとても怖かった。


やがて、女のヒトは消え、部屋は再び暗闇に包まれた。

そして、少し暗闇に慣れてきた私の目に写ったのは、微動だにせず、固まっているレンガの背中であった。

その背中は、先程までの怒った様な雰囲気はなく、ただ物悲しいといったものが感じられた。


誰も、何も言葉を発しない。

私は、レンガが気になって、一歩を踏み出そうとする。

しかし、その時、微かな音が私の耳を震わせた。


何かが上げる咆哮、無数のヒトの悲鳴、そんな音達が洞窟を通じて私の耳へ届いて来る。

レンガもドミヤもその音には気がついてはいない。

まだ、離れた所で起きている出来事の様だ。


私は、その事をすぐに告げる為、レンガに何かを語りかけているドミヤの言葉を遮りつつ、声を上げた。


「聞いて。洞窟の入り口で何かが起きている」


三人は驚いた表情を此方へ向けてくる。


「はぁ? 何かってなんでさよ?」


そう言ってながらも、ドミヤは耳をすませる仕草を見せる。


「詳しくはわからない。でも、何か大きな生物が外の馬車が襲っているんだと思う」


それを聞いて、ダニーの顔色が急速に変わる。


「な、何だって!? 馬車は負傷兵ばかりなんだぞ!? すぐに戻らないと!!」


ダニーは慌てた様子で、撤収を促して来る。

しかし、私の耳へ届いていた音の様子に変化が起きた。


ヒトの悲鳴は完全に消え、洞窟内部に激しい振動を起こしながら、凄まじい速度で近づいて来る音。


「だめ。もう、手遅れみたい・・・。更にその生物は真っ直ぐ此方へ向かって来ている」


「そうみたいでさ。あいも少し聞こえて来たでさ。旦那、これは、少し不味いでさよ・・・。」


その言葉を聞いて、レンガは武器を手にして、歩みを進めたが、それをドミヤが制した。


「・・・なんだよ? ドミヤ?」


「あいが行くでさ。この狭い場所じゃ、旦那では攻撃を捌ききれないでさ・・・。」


ドミヤはレンガの目をしっかりと射抜きながら言った。

しかし、レンガも簡単には引かなかった。


「な、何言ってんだよ! おまえ一人でどうにかなる訳ないだろ!」


私には、ドミヤの言っている意味は理解出来る。

普通のヒト種であるレンガの身体能力では、強大な生物を相手に正面から闘う事は無理だからだ。

攻撃を捌く事はもちろん、耐える事すら難しい。


恐らく、レンガ自身もその事は、わかっている様子。

でも、だからといって、ドミヤを単機で行かせる事を、簡単に承認なんて出来ないみたい。

そんな様子を見て、私は決意を固め、一歩を踏み出す。


「私も、行くから大丈夫。ドミヤの支援は私がする。」


「おい・・・ユノーー」


まだ納得がいかない様子のレンガを遮りながら、ドミヤが声を発する。


「あいとユノが外へ出て闘う、旦那とダニーさんは中で何か突破口でも探すでさ。・・・もう、旦那が口を挟むから、敵さんはすぐそこまで来ちゃってるでさよ・・・。」


「くっ!」


レンガは、いつもの調子でおちょくるドミヤとは対照的に、苦い顔で口を噛み締めていた。

しかし、ドミヤの言葉通り、もう敵はかなり近くまでやって来ている。

私はドミヤと共に、駆け足に部屋の扉へ向かう。


私たちは扉の前に辿り着くと、部屋に残された二人に振り返る。


「たまには、あい達に任せるでさよ!」


「任せて。レンガ」


そう互いに口にしてから、私たちは扉を潜った。








部屋に残された俺は、自分の非力さに奥歯を噛み締めていた。

ドミヤの言っている言葉は痛い程、理解出来た。

前に、村で戦ったマンティコアの時もそうだ。


強大な存在が相手にして、俺に出来るのは、後方から支援のみだ・・・。

ドミヤやシーデの様に、身体能力を生かして闘う事なぞ、もちろん出来ない。

更に、ユノの様に強力な防御手段を持たない自分に出来るのは、極めて安全な場所から攻撃する事。


この様な距離を取りづらい場所では、闘う事は愚か、戦闘の場所にいる事すら出来ない。

逃げる場所がないここでは、彼女達の足手まといになる事は、想像に難しくなかった。


運よく生き残っただけの人類である自分。

そして、今の現状はただの足手まとい・・・。


「・・・くそっ・・・」


思わず、言葉が漏れ出してしまう。


「フジワラさん・・・気にしてはだめだよ。これは仕方のない事だよ。・・・僕らが彼女達に及ばない事は・・・」


そんなダニーが掛けてくれた励ましの声は、やがて、部屋に震わせる轟音にかき消された。





「なんでさ、こいつは・・・。」


今、自分の目の前には、暗闇に紛れる様な黒い鱗を備える漆黒の竜が佇んでいる。

地面に伏せる様な体勢で、低い唸りを上げながら此方を見つめている。

その背中には、竜のシンボルである筈の翼はない。

翼は退化したのか、両腕の外側に小さなヒレの様なものがあり、その先にある指には、従来の竜よりも強大な爪が

伸びている。

こんなタイプの竜は聞いた事がない。


「・・・ユノ、しっかりと下がってるでさ。あんたがやられたら、攻撃手段がなくなっちゃうでさからね・・・。」


ユノは、コクりと頷くと、更にもう一歩後ろに後退する。

彼女の本能もまた、この竜が纏う異質のオーラを感じ取っているみたいだ。

あいは、呼吸を整え、黒き竜が仕掛けてくるであろう一手に、ひたすらに身構える。


そして、黒き竜の赤い瞳が見開いた瞬間、矢の様な早さで右手を突き出してきた。

すんでのところで、その爪を避ける。

その爪は深々と地面に突き刺さり、大量の砂ぼこりと砂利を巻き上げる。


そのがら空きの腕に斧を食らわせてやろうと、力を入れるが、自分の第六感が何かを警告する。

間髪入れずに、地面から再び爪がせり上がって来たのだ。


ブシュ!!


あいは、殆ど本能的に体を捻った。

直撃こそ、避けられたが、振り上げられたその爪は肩を掠め、微量の鮮血を舞い上げていた。


「ドミヤ!」


ユノが声を発すると、同時に翳された掌から、魔法で形成された巨大な鋭い樹が発射される。

黒き竜はその樹を簡単に凪ぎ払い防ぐ。

すると、竜は先程砕いた、岩石を一つ掴む。


「ユノ!! 危ないでさ!!」


ユノに叫びながら、身体は勝手に動いていた。

地面を思いっきり蹴り、ユノの腹部にしがみつく様に飛び付いた。


竜から撃ち出された、岩石は自分の背中の空間を切りながら、遥か後方へ飛んで行く。

ユノと共に地面に転がりながら、その行き先を見て、息を飲んだ。


「旦那!!」


岩石は、先程自分達が出てきた、壁を盛大にぶち破り、激しい砂ぼこりを上げていた。

あいは、無我夢中で旦那達がいるであろう咆哮に声を上げる。


「旦那!! 大丈夫でさ!? 返事するでさ!!」


自分の声が空洞状の洞窟内に響き渡る。


「こっちは大丈夫だ! ドミヤ!」


そんな心配とは裏腹にすぐに、旦那の声が砂ぼこりの中から聞こえてきて、ホッと胸を撫で下ろす。

そして、すぐに竜に向き直り、盛大に睨み付ける。


こいつは、とんでもなく強い・・・。

従来の竜にはない、俊敏な動き、モノを投げつけたりも出来る知能。

明らかに、先程の火竜とは別格だ。

極めつけは、この不利な地形・・・。

これでは、まったく勝てる要素が見つからない。


「どうすればいいでさ・・・。旦那・・・。」


誰にも聞こえない、呟きが漏れ出した。





「ダニーさん! 怪我はないですか?」


砂ぼこりで視界が覆われた部屋で、横にいるダニーに声を掛ける。


「ああ、こっちは大丈夫だよ。それにしても、なにが起きたんだい!?」


軽くむせながら、失笑を浮かべつつ答えた。

徐々に砂ぼこりが落ち着き、視界はクリアに戻っていく。

すると、何が起きたのか、全貌が明らかになった。


先程まであった、部屋の出入り口壁は完全に崩壊していた。

自分達が通ってきた通路が見え、その先にはドミヤ達と大型の生物の影が見えた。


「なんだ・・・あれは・・・」


目を凝らすと、それは影ではなかった。

暗闇に溶け込む様な、漆黒の鱗の生物だ。

そのあまりに、異質な容姿に、思わず鳥肌が立つ。


「あれは・・・黒応竜かもしれない・・・。」


「コクオウリュウ? 知っている生物なんですか?」


その生物の姿を確認したダニーは、聞きなれない名前を口にした。

俺は何かを知っている風の彼に、直ぐ様、説明を求める。


「いや、直接見るのは初めてだよ・・・。大昔、まだ王国の体制が出来上がっていなかった時代に、当時まだ、辺境にあった都を崩壊させたと言う伝承があるんだ。それが、たった一匹の黒応竜だったらしい。もし、あれがその個体ならば、かなりまずいよ・・・。」


聞くと、黒応竜とは、かなり獰猛な気性を持ち、出会う生物を何でも補食してしまう。

戦闘能力も火竜とは比べ物ならない程高く、希に火竜すらも襲い補食する事があるらしい。

しかし、そんな生物が居ても王国への被害が少ないのは、その行動範囲の狭さがあったからとのこと。

俊敏な動きを獲得する為に、翼は退化した事が理由みたいだ。


だが、一度出会って逃げ延びた者は殆どいないらしく。

一度、狙いを定めた獲物は、ひたすらに追いかけ続けると言う、恐ろしい生物。

それが、黒応竜とのことだ。


そんな生物と、しかも、こんな洞窟内で遭遇するなんて、最悪としか言えない。

この世界は、自分に落ち込ませる時間すらも与えてくれないようだ・・・。


「逃げるにしても、あの長い通路を、あれから逃げきるなんて、不可能に近いよ・・・。もう、これで終わりかもしれないね・・・。」


ダニーさんは深く息を吐き、諦めた様に脱力していた。

確かに、それ程、恐れられている生物から、走ってあの距離を逃げ切るなんて不可能に近い。


「せめて、馬でもあれば・・・」


そう言いかけて、あるモノを思い出す。


「ダニーさん、もしかしたら、どうにかなるかもしれないです!」


「えっ!! どういう事だい!?」


「話は後です! 取り合えず、付いてきて下さい!」


今は、悠長に説明している時ではない。

ドミヤとユノが必死に食い止めているが見える。

ダニーさんと二人、部屋の角へ全力で走った。


二人とも、もう少し頑張ってくれ!!


そして、辿り着いた先は部屋の隅に置かれていた軍用バギーの前。

屋根もない、骨組みを剥き出しにした武骨な小型車だ。

この手の、車には乗った事がなかったが、今はそんな事を言っている状況ではない。

躊躇せず、運転席へ飛び乗る。


「フジワラさん! こ、これは一体なんなんですか?!」


そんあ驚きの声を上げるダニーさんには答えず、俺は、祈る思いでハンドルの横に備え付けられている鍵状のモノを回した。

頼む!掛かってくれ!!


キュキュキューーーブォン!!


「!!」


よし! まだ、辛うじて電力が生きている!!

シェルター内に置かれていた軍用バギーは、長い眠りから目覚める。

保存状態が良かったのが、幸をそうしたのか、アイドリング状態は悪くない。

触れている鍵伝いに、懐かしい振動が伝わってくる。


「ダニーさん!! ここに乗ってくれ!!」


助手席を手で叩き、そこへ乗る様に促す。

少し硬めのシートに腰を下ろしながら、軽くアクセルを踏んでみる。


ブォン!!!


「フ、フジワラ君!!こ、これは一体?!」


助手席へ少し怯えた様子で、ダニーは乗り込んでくる。

俺は、ダニーの問いに笑い返すと、ハンドルとクラッチレバーを力強く握る。


「馬よりも、もっと素敵な乗り物ですよ! しっかり捕まってて下さいよ!!」




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