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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 二つの世界を繋ぐモノ
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第23話 破滅と再生

シェリー口から放たれる予測を大きく逸れた返答に、俺の脳はついていけなくなっていた。

すると、止まった時間を進める様に、ダニーの手が自分の肩に触れた。


「フジワラ君・・・。今一、話に着いていけていないんだけど、良かったら少し説明してくれないかな?」


彼は落ち着きを保ちながら、ゆっくりと促してくる。

その後ろにいるドミヤとユノも心配そうな顔つきで此方を見つめている。

しかし、説明するにしても、此方も完全な混乱状態である・・・。


「わかりました・・・。今、わかっている範囲で少しお話します」


そう言うと、彼はコクリと頷く。

そして、大きく息を吐いてから、自分がこの世界に来た行程、現在の情報では、自分が過去に行方不明扱いになっている事を彼らに伝える。

それを聞いて、彼らもまた、驚きを隠せない様子であった。


「・・・すると、旦那は、物凄く昔のヒトという事になるって事なんでさかね・・・」


ドミヤがいつも通りの、少しバカっぽい感想を述べる。

だが、それについてはまだわからない。

もし、自分の世界とこの世界がイコールで結ばれるならば、何故、ここまで衰退してしまっているのか・・・。

それの答えを導き出す為、もう一度シェリーに質問をぶつけている事にした。


「シェリー・・・俺たち・・・人類はどうなってしまったんだ?」


「それについての明確な過程については、データに残ってはおりません。」


だめか・・・。もっと順を追って質問をしていく必要があるか。

そう考えて、再び口を開く。


「なら・・・俺がまだ、行方不明になる前と、あんたが最後に起動した時とで、人類に何か変化はあったか?」


もし、何かがあるのならば、その空白の60年間の間に何かがあった筈だ。

シェリーは目を閉じ、考える様な仕草を見せてから、話し始めた。


「まず、あなたがいた年代との、人類の大きな変化は、人口の急激な増減があります。その60年余りの間に、地球人口の数は、30分の1程まで減少してしまっています。そしてーー」


30分の1・・・。

その減少量は明らかに普通ではない。

空白の60年の間に、何かがあった事は火を見るより明らかだった。


「待ってくれ! その人口の減少の直接的な理由はなんなんだ!?」


「畏まりました。では、順を追って説明していきます。」


シェリーがそう言うと、モニターの画面が切り替わり、自分が居たであろう日本の風景が映し出される。

人々が、忙しく往来する町並みは平和な日常の光景、いつも通りの風景だった。

しかし、先程知らされた事実とは、余りにかけ離れたその風景は、自分には今やひどく不気味なものの様に映る。


「初まりは、この数年前より続いていた、世界的な物資の不足問題です。その事から、色々な物の値段が高騰し、世界各国が大規模な不況の波に呑まれていきました。」


それはよく知っていた。

自分がいた日本という国もまた、その不況の真っ只中にいたのだ。

しかし、それが人口の破滅的な減少にどう関わったというのか・・・。


「やがて、その状況を打破する為、各国の首脳陣達は、秘密利に話し合い、一つの解決法を提示しました。それが、増えすぎてしまった人口の削減という方法です。」


「なっ! それが何故、解決法になるっていうんだ!?」


「大いに関係があります。ここまで資源が不足してしまった一番の原因は、人口の急激な増加にあります。先の世界対戦以降、人類の人口は急増し続けていました。そして、テクノロジーが進化した事も相まって、更に様々な資源が必要になった事もあります。それは、人類の更なる発展をもたらしました。しかし、地球上の資源には限りがあります。」


その説明を聞いて、納得せざる得なかった。

それは、自分も最近考えていた事と、余りに酷使していたから・・・。


「・・・しかし、人口の削減なんて、意図的に出来る事な・・・。」


そう言い掛けて思わず口を紡いだ。

シェリーの冷たい視線が自分の瞳を射抜く。


「それは、世界的な戦争を起こすという手段です。人類は古来より、その様な手段を用いて、資源、人口を上手くコントロールして来たのです。」


「馬鹿な!! そんな事をする訳ない!!」


思わず、シェリーに感情的に激しく言葉をぶつける。

その方法・・・それはシェリーが話し始める前に気がついていた・・・。

しかし、それを認めたくないという、無意識の感覚が言葉を発していた。


「レンガ・・・大丈夫?」


いつの間にか、横に来ていたユノが袖の端を摘まんで、チョンチョンと引っ張っていた。

その顔は少し怯えている様に見えた。


「ごめん、ユノ・・・。大きい声を出して・・・」


すると、隣にいた、ドミヤとダニーを見ると、その視線はモニターへ釘付けになっていた。


「これは・・・何でさ・・・」


自分もそのモニターへ目をやると、そこには、先程とは違う映像が流れていた・・・。


街の上空を飛び交う戦闘機、それに応戦する様に並ぶ戦車の群れ、至るところで上がる爆発、燃え盛る人々・・・そして、空高く立ち上るキノコ雲・・・。


そんな目を覆いたくなる様な映像が、ただ、淡々と流れていた・・・。


「これは・・・何かの生物・・・いや、武器なのか・・・」


ダニーが小声で言葉を漏らす。

しかし、その問いに答える余裕なんてなかった・・・。

自分のよく知る町並み、人々が次々と破壊されていく様を目の当たりにして、ただその場に固まる事しか出来なかった・・・。


「最初は小国の小さなテロが起き、やがて、その戦火は世界中に広がって行きました。我々が居た日本という国もまた、例外ではありませんでした。」


「その・・・切っ掛けになったテロもまた、仕組まれて起こった事だっていうのか・・・」


「勿論、そうです。」


シェリーは、此方の心中なんて知らないとでも言う様に、バッサリと肯定した。

思わずまた、激昂してしまいそうになるのを、押さえつける為に、痛い程に拳を握り混む。

そして、目を背ける様に、モニターからシェリーに視線を移す。


「・・・でも、おかしいじゃないか。本当にあんたが言う様に、これが、計画して起こされた事なら、人類が衰退する程、減少したっていうのは少し変じゃないか?」


そう、少し腑に落ちななかった。

この様な戦争を起こして、人類を的正数に調整したいというならば、それが原因で崩壊の道筋を辿ったいうのは違和感を感じる。


「いえ、この事柄もまた、一つの切っ掛けに過ぎない事なのです。」


「・・・は? これが、まだ切っ掛けだっていうのか?」


シェリーの口からはとんでもない事が告げられた。

それは、これからまだ何かが起こるとでもいう様な・・・。


「そうです。人類はこの戦争を経て、世界の人口を半数ほどの減らす事に成功しました。そして、終戦に向け、世界は動き始めました。しかし、突如、各地で異常な異変が起こり始めました。」


「何が、起きたっていんだ・・・。」


もはや、次々に突きつけられる、現実場馴れし過ぎた出来事に、思考が失われていた。

自分がいた世界、少しいびつではあったが、平和だった世界・・・。

そこで起きたまるで、映画の中の様な破滅的な出来事・・・。

未だに、信じられない。


「世界の各地で、噴火、地震、暴風等、様々な自然現象が多発しました。それにより、残されていた大都市は破壊され、発電所等に施設も次々に停止していきました。」


そのシェリーの表情から、その自然現象は短期間で断続的に起こっていたと感じ取れる。

まるで、地球が人類に牙を向いてきたとでも言う様に・・・。


「そして、確かな終戦を迎える事もないまま戦争は終わり、人々は今日を生き抜く事に必死になるという暗黒の時代が訪れました。数少ない食料、資源を奪い合う波乱の世界に・・・。」


その光景を想像して思わず、息を飲む。

機能しない国、飢えに蝕まれ暴徒と化した人々・・・。

まるで、地獄の様な世界である。


「そして、更に畳み掛けるかの様に、地球全体の大気が急激に冷えだし、地球は静かに氷河期へと以降していきました。」


その言葉を聞いて、背中に冷たいものが上がっていく。

そんな危機的状態で更に、氷河期だって・・・。

しかし、確か、小規模な氷河期は近いうちに来ると、言うのは噂されているのは聞いたことがあった。


「それは・・・小さな氷河期、だったのか?」


シェリーに問いかけるその声が少し掠れた。


「いえ、残念ながら過去類を見ない程の、大規模のものでした。」


その答えは、聞かずともわかっていた気がする・・・。

そんな状態で迎えた大規模な氷河期、その先どうなったかは、もう想像がついた・・・。


「わかった。ありがとう・・・。もうわかったよ・・・。」


もう、それ以上聞きたくなかった。

恐らく、月に周辺にあるコロニーは、その様な流れを受けて、急ぎ作られたが完成待たず、破棄された残骸なのだろう。


モニターを見ると、いつの間にか画面が切り替わっている。

沢山のビルが一面、白に包まれた、何も動くことのない静寂に包まれた世界に・・・。


「・・・旦那・・・。」


ドミヤに心配そうな口調で、小さく呼び掛けられる。

しかし、口が上手く開かなかった。


「・・・話を聞いていて、何となくわかったけど、フジワラ君はこの旧文明の生き残りで確定みたいだね・・・。」


旧文明・・・。

この話が本当ならば、恐らくそうなる。

今や、この世界では絶滅した人類という生物の唯一の生き残りということになる。

なんだそりゃ・・・。


余りに、荒唐無稽な状態に可笑しさが込み上げてくる。


「・・・シェリー、今、この世界に人類は残っていないのか・・・?」


そんな事わかる筈がないと、頭ではわかっていても、思わず口にしてしまう。


「わかりません。しかし、私を起動した際に、あなた方を生体スキャンさせて頂いてわかった事は、後ろの三人の方々は人類とは異なった生物の様と言うことです。」


ドミヤとユノは違うとしても、ダニーも違う種という事は、この世界のヒト=人類という事もないだろう。

俺は、この世界に存在していない、完全な異質な個体という事になる・・・。


すると、突然、シェリーは視線をドミヤ達の方へ移した。


「あなた方に質問があります。今、この世界はあなた方の種が統治している、でよろしいんですか?」


その突然の問いかけに、ドミヤは困った様子を見せたが、ダニーはその質問を瞬時に理解した様にすぐに返答した。


「そうですね。今は、私達の様なヒト種、亜人種が、主に繁栄していると思ってもらって大丈夫です」


「ヒト種と亜人種・・・。確証はありませんが、もしかしたら、あなた方の種は人類が一度滅び、再生し、再び環境に適応していった姿なのかもしれません。」


「じゃあ何か、一度滅んだ後、都合良く、似た種が繁栄したとでも言うってのか?」


俺は、平然と語るシェリーのその発言に、思わず口を挟まずにはいられなかった。

多分、まだ心の何処かで人類が滅んだという事を受け止められないのだろう・・・。


「そうです。生物、自然は同じ事を繰り返します。この星の人類を滅ぼし、再生させたのも、またこの星の意思なのかもしれませんから。」


シェリーのその発言に少し驚く。

AIである彼女が、そんな非科学的な言葉を口にしたからだ。


「機械である筈のあなたが、随分と抽象的な事をいうんだな・・・」


思わず、皮肉めいた口調になってしまう。


「そうですね、本来おかしい事なのかもしれません・・・。しかし、私が最後に確認していた出来事は、今までの人類の常識を覆す事の連続でした。」


「・・・どういう意味だ?」


「度重なる天災の数々、それは、今まで人類が積み重ねてデータを無視するかの様な勢いでした。」


「なんだそりゃ・・・」


そんな事は昔からそうだった筈だ。

自然災害を完全に予知する事など出来なかった。

それは、自分の理解を越えた事が起きてしまった事への、言い訳にしか聞こえなかった。


「その時、世界中の学者達が挙って言っていた言葉があります。」


もういい・・・聞きたくない。

どうせ、責任を押し付け合う様な言葉。

誰が悪いとか、これが間違っていたとかそんな事なのだろう。


しかし、シェリーから出た言葉は予想とは大きく異なった。


「これはまるで、人類が滅びの道を辿るこの現象には、意図的なものを感じる。自然が、星が、人類に牙を向いているとしか思えない、と」


なにをバカな・・・。


「じゃあ、何か? 地球自体の意思で人類を攻撃したとでも言うのか? 言い訳にしても余りにバカバカしすぎる」


「それを実証する術は我々にはありませんでした。しかし、現在、この世界は、多くの時間が過ぎ去り、生物、文化、地形すらも変化してしまったと推測されます。その地に、なんの要因なのかはわかりませんが、あなたは立っています。」


「・・・」


結局、具体的な事は何もわからないままだった。

恐らく、自分の居た世界とこの世界は結ばれている・・・。

それは間違いなさそうだ。


しかし、そんな遠い未来の地へ、自分が何の目的で来てしまったかは、何もわからない。

シェリーの言う通りならば、自然に淘汰され、滅びた人類・・・その種である自分が何故・・・。


俺は何も言葉が出ず、ただ立ち尽くしていた。

すると、シェリーが何かを告げる様に、静かに口を開いた。


「残念ながら、この部屋の予備電力も間もなく切れます。私から藤原様にお伝えできる情報も以上となります。この地に残された人類の歴史、文化をどうするかは、藤原様に託される事になりましょう。藤原様の命運を祈りつつ、このセッションを終了致します。」


「ちょっ! 待て!」


まだ聞きたい事は山程ある筈だ。

しかし、シェリーは電力の終わりを感じ、その事を矢継ぎ早に告げるだけだった。


「ご利用、有り難う御座いました」


もうこちらの引き留める言葉も届かない。

シェリーが丁寧にお辞儀をすると同時に、その姿は溶ける様に消えていく。

そして、その姿が完全に消えた時、部屋は暗闇と静寂が支配した。

急に訪れた闇に、ドミヤ達の驚いた様な声が聞こえた。


俺は、シェリーが先程まで居たであろう場所へ、手を伸ばしたまま、固まる事しか出来なかった。


先程までの、文明の息吹が突然消え去った暗黒の空間。

それは、人類が忽然と姿を消した世界の情景とかぶる様な気がして、凄く嫌な気分だった・・・。




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