第22話 世界を結ぶモノ
「それは・・・どういう意味なのかな?」
ダニーは俺の発した、言葉の意味が掴めないといった様子で尋ねてくる。
まぁ、ダニーとユノにはその事は話していないのだから、当然の反応だろう。
知っているドミヤですら、今一わかっていない様子だ。
自分自身も、そんな皆の様子を見て、幾つかの疑問が沸き上がってくる。
そもそも、この世界と自分の世界を、イコールで結ぶのは、些か変である・・・。
先ず、全域の地図を確認した訳ではないから、確証はないが、地形が違うのが一つ。
それに決定的なのが、月の近くに浮かんでいるもう一つの星の存在だ。
あんなモノは間違いなくなかった・・・。
しかし、目の前に自分の世界と同じ言語が、存在しているのもまた事実だ・・・。
「旦那?」
すっかり考え込んでしまっていた自分に、ドミヤが顔を覗き込んできた。
「あ、ごめん・・・。少し、混乱してて・・・」
この二人なら、別に自分の経歴を話しても良いだろう。
ユノに関しては、言うのをすっかり忘れていただけだったが。
「少し順を追って話しますーー」
そして、簡潔に二人にこれまでの事を話した。
ユノはいつも通りあまりリアクションがなかったが、ダニーは終始真剣な眼差しで聞いていた。
「すごく興味深い話だが・・・今一、信じられないというのが、正直な感想だね・・・」
まぁ、そんなもんだろう・・・。
普通では絶対考えられない事なのだから。
「しかし、君が古代文字を読み取り、未知の道具を簡単に使って見せた・・・これもまた事実だからね・・・」
ダニー曰く、この世界にこの言語を読めるヒトは存在していないらしい。
遺跡が見つけられる事もほとんどない上、中に入れた事など、今までになかったとの事だ。
「では、君は遥か過去の世界から来た・・・と言う事になるのかな?」
「それは、まだわかりません・・・。それに、色々とこの世界との矛盾も多いので、自分自身もまだ断定しきれていないです・・・」
「何か、話がぐちゃぐちゃしてるでさが・・・取り合えず、旦那はその古代の物について詳しいって事なんでさね?」
「まぁ、簡潔に言うと、そんな感じだな・・・」
「じゃあ、取り合えず、中を調べ見るでさよ。なにか、わかるかもしれないでさ」
そうだった。
すっかり取り乱してしまって、その事を忘れていた。
こんな所で、考えているよりも、内部を調べるのが一番早い。
珍しく、ドミヤの能天気な提案が的を得ているのが少し悔しいが・・・。
そして、4人並び立って、先程の扉を潜って中へ入ってみる。
中にもう一つ先程と同じような、バルブ付きの扉があり、それもまた解放する。
中は真っ暗だ、そう思った瞬間。
パッと眩しい程の明かりと点いた。
「うわ!! 何でさ!?」
「!! ど、どういう事なんだ?!」
「うっ! 眩しい・・・」
3人はそれぞれに驚きの感想を漏らした。
この世界には照明なんて物は存在しないから、無理もない。
よく知っている自分自身ですら、突然の事で少し驚いてしまった。
天井を見ると、電灯が幾つか並んでいる。
電気が生きてる筈はないのだが、どういう事なのか。
ここは、シェルターだった事を思いだし、緊急用の予備電気が辛うじて生きていたのかと考える事にする。
中の広さは30畳程のそこそこの広さがあった。
崩れた落ちた段ボールの箱などが、至る所に散らばり、壁際には、一台の軍用バギーが置かれている。
しかし、中に在るものは清潔そのもので、まるで、最近まで使われていたのではないか、という程だ。
完全無菌の密封空間で保管で保管されていた、とかなのだろうか・・・。
そんな事が可能かどうかは、わからないが。
「な、何で、この部屋はこんなに明るいんでさ!?」
「これは、電灯って言って・・・そうだな。こちらの世界で言うロウソクみたいなもんだよ」
「・・・これは、驚いたよ・・・。」
そう言って、ダニーは、天井の電灯を興味深々に眺めている。
俺は、驚く面々を他所に、取り合えず、散らばっている段ボールを一つ開封してみる。
中には、非常食と書かれた缶詰類が出てくる。
他の箱も改めてみるが、衣類や毛布等が入っているだけだ。
もっと、何か情報を得られるものはないかと見回して見ると。
部屋の奥、崩れた段ボールに隠れる様にある、何かのモニターを見つけた。
直ぐ様、それに近づき、邪魔な段ボールを退かしていく。
やがて、そこに姿を表したのは、モニター付きの端末機器だった。
すると、いつも間にか、横に並び立っていたダニーが尋ねてくる。
「それは、なんだい?」
ダニーは眼鏡を直しながら、興味深げにモニターをのぞき込んでいる。
「わかりません・・・。でも、これから何かの情報が得られるかもしれません・・・」
その機器はキーボードこそ備え付けられていたが、見た事のない不思議な形をしていた。
どうにか、起動出来ないものかと、適当なボタンを順番に押していく。
アナログ人間だった事が、こんな所で仇となるとは・・・。
「旦那でも、使い方がわからない道具なんでさか?」
「・・・。これは、ちょっと見た事のない物なんだ・・・」
近代機器に疎かった自分を恥ずかしく感じながら、何となく返答を濁す。
すると、突然、端末からキュルキュルと小さな機械音が鳴り始めた。
何とか、起動させる事が出来たのかもしれない。
しばらくすると、モニターに英数字が高速で流れていく。
そして、画面が一度、暗転すると、今度は端末機器が激しく光を放ち始めた。
「わわっ! 今度はなんでさ!?」
突然の異変にドミヤが思わず声を上げる。
しかし、今度は何がどうなっているのか、自分にもわからない。
すると、光が顛末の横に焦点すると、そこに、人型を形成していく。
やがて、それは一人のスーツ姿の女性を形成する。
「・・・す、すごい・・・。まるで、神の所業だ・・・」
横のダニーの息を飲む音が聞こえる。
勿論、自分には、これが神の所業では無い事はわかっている。
しかし、自分が居た世界より、明らかに科学が発展しているって事だけはわかった。
そして、ホログラムの女性はゆっくりと瞳を開けた。
「おはようございます。この度は、情報端末AIシェリーのご利用ありがとうございます」
そのホログラムのシェリーは、機械的な口調で端的な挨拶をした。
AI・・・人工知能と名乗っていると言う事は、言葉での応対ができるのだろうか。
何から、聞けば良いものか、と考えていると。
「・・・あ、あなたは、こ、古代人なんですか?」
ダニーが驚きの表情を浮かべながら、おずおずと声を発した。
「いいえ。私は日本で作られた情報管理システムAI、シェリーです」
「何言ってるのか、まったくわからないでさ・・・」
まぁ、それは無理もない。
文明のレベルが違いすぎるのだ・・・。
この世界のヒトでこんな物を理解出来る人間は恐らくいないだろう。
「ちょっと、自分に話をさせて貰っていいですか?」
この探索の一任者であるダニーに、一応、了承を貰っておく。
彼は、今だ、目を白黒させながらも、ゆっくり頷いてくれた。
「今は、何年なんですか?」
聞きたい事は、山ほどあるが、取り合えずこれが無難だろう。
順を追って色々聞いていこう。
「・・・ネットワークに接続できない為、現在の年号は不明です。データ上、私が最後に起動したのは、2070年7月31日 17:37 です」
この世界にネットワークがある筈はない。
先ずは、この世界と元の世界の関係性を知りたい・・・。
しかし、どう聞けばいいものか・・・。
少し、考えて、ある事に気が付いて、鞄を常備しているカバンを漁る。
「旦那、急にどうしたんでさ?」
「俺の世界にはな、個人の身元を証明する便利な物があるんだよ・・・」
そう言って、まだ一応持っていた財布から、免許証を取り出し、それをシェリーに掲げる。
まさか、この世界で運転免許証を出す日が来るとは、思ってもみなかった・・・。
「この人物の所存を教えてくれないか?」
勿論、この免許証は自分の物である。
もし、この世界と元の世界との繋がりがあるのならば、自分の個人情報が残っている筈だ。
「畏まりました。少々、お待ち下さい」
シェリーがそう言うと、暗転していたモニターに、再び忙しく英数字が流れ始める。
そして、画面が切り替わる。
「あ、レンガだ・・・」
ユノの言葉通りに、モニターには自分の顔写真と氏名、生年月日等が表示された。
「そちらの画面をスクロールして、ご覧ください」
シェリーがモニターを示して言った。
言われた通り、画面を指でスクロールして読み進める。
<2017年 7月23日に自宅近くのコンビニエンスストアを出て以降、自宅へ戻った事は確認されているが、その後の、所在は不明。自宅には内から鍵が掛けられており、荒らされた形跡もない。財布や携帯等の常備物が確認出来なかった為、自ら外出したものと思われる。何らかの事件に巻き込まれたものとして捜査が続けられたが、その後、何も情報が掴めなく、2024年 7月24日に捜査は打ち切られ、正式に死亡と認定された。>
「・・・。」
「どうしたんでさ? 旦那・・・?」
「大丈夫かい? フジワラさん、あまり顔色が良くないみたいだよ・・・」
画面へと伸ばしていた自分のその手は、小刻みに震えていた。
そこに記載されていた、自分の情報はあの日・・・最後にあの世界にいた事柄と完全に一致していた・・・。
死亡と認定か・・・。
忽然と姿を消せばそうなっているのはわかってはいたが、いざ、文字にされてしまうといい気分はしないもんだ。
そして、この情報が意味するものは一つだ。
この世界と前の世界は繋がっている、という可能性・・・。
しかし・・・。
「・・・シェリー、あの月に横にある惑星は何なんだ!?」
「あれは、惑星では御座いません」
「!? でも、確かに星があるじゃないか!?」
シェリーのばっさりと切り捨てる様な返答に、思わず声を荒げてしまう。
「あれは、緊急移住の為、某国が建造を進めていた、未完成の大型コロニーです」
何だよ・・・。
緊急移住ってどういう事だよ・・・。
シェリーの口から発せられた言葉は、自分には理解不能なものだった。
「旦那、大丈夫でさ? 少し落ち着くでさ・・・」
そう言って、ドミヤは優しく背中をさすってくる。
一瞬、感情に任せて、その手を振り払おうと、してしまったが、寸での所で踏みとどまる。
「・・・」
今、取り乱しても、仕方ない・・・。
でも、もし・・・。
この世界と元の世界が繋がるのならば。
俺の居た世界はどうなってしまったっていうんだ・・・。




