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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 二つの世界を繋ぐモノ
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第21話 王国技師ダニー

松明を手に、ダニーと並びながら、暗闇の中をひたすらに進んでいく。

洞窟内の壁は所々、崩れてはいるのものの、大きく損壊している箇所はない。

見た目より、丈夫なのかもしれない。

取り合えず、生き埋めになる様な事態はなさそうで安心する。

道幅も広く、綺麗に一本の傾斜が続いていて、まるで誰かがしっかりと作った通路の様だ。


ただ、黙りと歩くのにも少し飽きてきた為、探り探りダニーに話を切り出して見る事にする。


「ダニーさんは何故、技師になったんですか?」


「ああ、僕かい? そうだな・・・」


ダニーはすぐにその問いに応じる姿勢を見せてくれる。

彼もまた、無言で歩く事に飽きていたのかしれない。


「僕の叔父も王国で技師をしていてね。そこで、僕が幼い頃に、発掘された古代の残骸を色々見せて貰った事があるんだ」


彼の口ぶりからして、昔から色々と見つかる事があるみたいだった。

どうやら、こちらの世界の技師は考古学も兼ねているらしい。


「その未知の道具達を見て思ったんだ・・・。こういったモノ達がしっかり解析されれば、この世界が更に便利な世界になるんじゃないか、ってね」


「なるほどですね・・・。それで、自分もなろうって思ったんですね」


幼少の頃に、強く興味を持ったモノを追いかけるっていうのは、よくある話だ。

逆に幼い頃のトラウマなんかも、歳を重ねても色濃く残る。

子供の時の、記憶ってのは不思議なものだ。


「でも、実際はなってみると、色々違ったよ・・・」


すると、彼の声のトーンが下がり始める。


「殆ど、毎日、人体や生物の実験ばかり・・・。僕が追い求めていた事なんて、何も出来ずに、惨たらしい研究ばかりの日々さ・・・」


恐らく、聖術体の研究に深く関わっているだろう、様子が見てとれた。

だが、それを望んでやっている訳ではないようだ・・・。


「正直、何度も技師を辞めようと思ったよ。でも、それを許してはくれなかった・・・。最近では技師になった事すら、後悔し始めているかな・・・」


「・・・」


これは、話を切り出す絶好のチャンスなのかもしれない。

そんな事を考えていると。


「ああ、なんか、愚痴になってしまってごめんね・・・。フジワラさんはなんで王国の騎士になったんだい?」


絶妙な質問が飛び出した。

今しかない・・・。

念の為に、後ろを歩くドミヤとユノに一瞬、振り返り、視線で合図を送る。


「・・・ダニーさん・・・。実は、私は王国の人間ではないんです・・・」


はっきりと彼にそう告げた。

ダニーは驚いた様子で、その場にピタリと足を止める。


「えっ? 言っている意味がよくわからないんだけど・・・」


明らかに動揺している。

まぁ、こんな洞窟に、正体を偽っていた集団に囲まれているのだから、無理もない。


「ああ、すみません。先に言っておきます。自分達は貴方に危害を加えるつもりはないですから。少し。お話をしたくて、ここまで来ただけです」


「そうしてくれると、ありがたいよ。見た通り僕は貧弱なんでね・・・。荒っぽい事は勘弁して欲しいかな」


彼の不安を拭うための、言葉を掛ける。

しかし、まだかなり警戒している様子だった。

すると、彼は何かに気が付いた素振りを見せると、再び口を開く。


「あれ? でも、君の仲間の一人は聖術体の様だけど・・・。王国以外には絶対に聖術体は存在しない筈だよ?」


そう言って、彼はユノの姿をチラリと確認する。


「彼女は、王国から自分達の元へ来たんです。最近、外の派遣された、聖術体がいたのを、ダニーさんならご存じじゃないですか?」


その質問に彼はあっ、と、声を上げる。


「確かにいたね・・・。まだ、戻ってないって話を僕が王国に発つ前に話したのを、覚えてるよ」


「それなら、話が早いです・・・。彼女の身体を維持するのに、協力して欲しいんです」


ダニーはその言葉を聞くと、考える様に口元に手をやる。


「協力か・・・。具体的に何をしてほしいのかな?」


「今、自分達の手元には、聖水がないんです・・・。そこで、何か彼女の身体を維持する方法はないかと・・・。見たところ、ダニーさんは聖術体についてかなり詳しい方みたいなので・・・」


「それは聖水なしで、って事だね・・・。残念だけど、今の所、その方法は確立されていないんだ・・・。寧ろ、王国側からすると、それをダシに言う事を聞かせているフシがあるから、その研究すらされていない、っていうのが現状だけどね・・・」


だめか・・・。

王国の技師ならどうにか出来ると、考えていたが、少し考えが甘かった。

深い落胆に、思わずがっくりと頭を垂らしてしまう。


「あーでもーー」


再び、ダニーが小さく声を漏らした。

何かあるのかと、期待せずにはいられなかった。


「僕なら、聖水を製造する事は出来るよ」


ああ、そういう事か・・・。

でも。


「・・・それだと、他の亜人を、って事に、なるんですよね・・・。」


本来、そんな綺麗事を言っている時では、ないのは重々承知している。

しかし、それをやってしまうのは、どうにも気が進まない・・・。

他の方法があれば、そちらを取りたい・・・。


「あーまぁ、そういう方法もあるんだけど、君達がさっき倒した火竜とか大型の動物とかからも、抽出する事が出来るよ・・・」


「えっ! 本当ですか!?」


予想外の提案に思わず大声を上げてしまった。

それなら、さっきの火竜から取ることが出来るって事なのか!


「うん・・・。火竜ならかなり濃密なモノが採取出来るから、血があればそれで大丈夫だと思うよ。それに、たまたま、ここは海辺だから、その場で調合する事も出来るから」


そういえば、海水を調合すると、ハリーが言っていた気がする。

急に運が向いてきた気がする。


「じゃあ、ここを出たら、すぐに火竜の血を取って作るよ」


「ありがとうございます! 良かったなユノ! これでもう大丈夫だぞ!」


直ぐ様、ユノに振り向き、歓喜の声を上げるが。

状況がよく飲み込めていないのか、ポカンとした表情を浮かべている。


「何、ボケっとしてるでさ。あんたの身体を維持する方法が見つかったでさよ!」


言い方は乱暴だが、ドミヤも嬉しそうに笑いながら、ユノの背中をバンバン叩く。


「えっ・・・」


すると、ユノは小さく声を漏らす。

そして、頬を小さな滴が一粒、伝い落ちていった。


「ちょっ! 何、泣いてるでさ!? あいは、そんなに強く叩いてないでさよ! 旦那! あいが泣かした訳じゃないでさからね!」


ドミヤは自分が叩いて泣かしたと、勘違いして大慌てしている。

勿論、そんな事はわかったいる。


「・・・ううん。・・・ドミヤ、違う、から・・・」


ユノはその目を両手で押さえて、嗚咽混じりに囁いた。

ドミヤもそれで、意図を掴めたらしく小さく溜め息を漏らした。

俺は、まだ泣き続けるユノに、短く一言だけ言った。


「良かったな。ユノ」


「・・・うん」


「じゃあ、そうと決まったら、さっさと調査を終わらせて、こんな薄気味悪い所から出るでさよ!」


ドミヤが手を大きく鳴らして、出発を促してくる。

それを合図に、4人は再び歩を進め始める。

ずっと見えなかった活路が開けた事で、自然と足取りも軽くなった気がした。



「君は随分と亜人達と打ち解けているんだね・・・。驚いたよ」


ダニーは歩きながら、横目に声を掛けてくる。

最近、その事をよく言われる気がする。

変な性癖の持ち主だと勘違いされなければ、いいのだが・・・。


「ヒトは、亜人から極度に嫌われている事が多いから、君らの様な関係性は始めてみるケースだよ」


「そうなのかもしれないですね・・・。でも、僕らと何も変わらないですよ。彼女達は」


そう。何も変わらないのだ・・・。

術が使えようが、力が強かろうが、変わらない人間なのだ。

俺は、そう思っている・・・。


「正直・・・君達が、少し羨ましいかな・・・」


そう言って、彼は、自嘲の笑みを浮かべる。

そんな彼の表情を見て、思わず言ってしまった。


「ダニーさんも、俺らと一緒に来ますか?」


ダニーは、短くえっ、と漏らして、驚きの表情を浮かべる。


「すごく嬉しい提案だけど、僕は・・・亜人の人達とは一番、一緒に居てはいけない人間だと思うから・・・」


「そんな事ないですよ。現に今、ユノの事を救ってくれたんですし」


まぁ。色々と複雑な事情があるのだと思うが。

彼は、決して悪い人間ではないと、今では確信出来る。

普通ならば、王国の人間でもない自分達に、無償で手を貸したりはしてくれない筈だから。


「私は、ダニーにすごく、感謝してる・・・」


「あいも別に気にしないでさよ。もし、一緒に来たら、色々と技師の話で盛り上がれそうでさし」


ダニーは口を開けたまま、ユノとドミヤを交互に見てから、眼鏡を直して正面に向き直った。


「・・・ありがとう。少し前向きに検討させてもらうよ・・・」





そして、暫く、無言で歩いていると。

道が二股の別れている箇所に辿り着いた。


「確か、ここを右に行けとの報告を受けているよ。もうすぐ着く筈だ」


更に暫く、進むとそこは、行き止まりになっていた。


「あれ? ダニーさん行き止まりですよ」


思わず、立ち止まり、横のダニーに声を掛けるが、彼はそのまま、行き止まりの壁に近寄って行く。


「いや、ここで大丈夫だよ」


そう言って、彼が壁の近くをウロウロと見回しながら、壁を手で撫でる様に、払っていく。

土誇りを立てながら、土や砂利等が、次々と地面に落ちていく。


「!!!!」


俺は、その壁にあったあるものが、一瞬、目に飛び込んできて、その場に固まった。


「うわ!スゴい埃でさ。旦那、そんなとこに突っ立ってると、埃だらけになるでさよ」


後ろのドミヤがコートの端をグイグイと引っ張る。

でも、今はそんな事を考える余裕もなかった・・・。


「西東京・・・シェルター・・・」


そこには、そう書かれていた・・・。

自分が、20年以上も慣れ親しんだ文字で・・・。


「はぁ? 何の呪文でさ? それは・・・」


ドミヤの呆れた様な、溜め息が後ろから聞こえた。

ダニーは今だ、壁を忙しそうに調べて、何かメモを取っている。

俺もその壁へ歩を進める。


「あっ! 旦那、邪魔したらダメでさよ!」


ドミヤがまるで、子供をあやす様な口ぶりで言った。

でも、今は何も言う事が出来なかった。


「ああ、フジワラさん。いやー、色々見てるんだけど、これが何なのかさっぱりだよ・・・。見た事もない材質なのはわかるんだけどね」


そう言って、頭をポリポリと掻いて、恥ずかしそうに笑った。

でも自分には、これが何なのか、既にわかっていた。


「ダニーさん・・・。自分にはわかります。そこの文字も・・・これが何なのかも・・・」


「えっ! 君、この文字が読めるのかい!?」


ただその問いに頷いて、壁の端に備え付けられている手動バルブ付きのドアに歩を進め、そのバルブを両手で握る。


「旦那! 何やってるでさ!? 壊したりしたら、大変でさよ!」


「大丈夫だ! ちょっと見ててくれ・・・」


そう言って、思いっきり力を込める。

相当、劣化している様で、簡単には回らない。

更に、力を込めると、ガコッ、と音を上げ、徐々にバルブが回っていく。

3人は自分を見て、驚き固まっている。


やがて、バルブを回し切ると、扉を開けようと力を込めて引っ張る。

すると、ゆっくりと、扉が開かれた。


「君は・・・何故、これが扉で、更に開き方まで知っているんだい・・・?」


呆然としている皆に、ゆっくりと告げた。


「これは・・・俺の居た世界の物と・・・同じ物なんだ・・・」




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