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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 二つの世界を繋ぐモノ
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第20話 進化の代償

「大丈夫か!? ユノ!?」


火竜の亡骸の傍らで、急に地面に腰を降ろしたユノに、焦りながら駆け寄る。

ユノを下ろして、一時離脱していたドミヤも、同じく駆け寄って来るのが見えた。


「大丈夫・・・。大きな力を使いすぎて、少し疲れただけだから・・・」


肩で息をしながらも、いつも通りの様子で首を左右にブンブンと振って答えてくれた。


「それにしても・・・あんたスゴいんでさね・・・。本当にあっという間に倒しちゃったでさ・・・。ちょっと見直したでさよ」


ドミヤはそう言って、ユノの肩を優しく叩いた。

ユノはそんなドミヤの行動に、少し驚いていたが、直ぐに、ありがとう、と短く答えた。

そんな何気ない光景が、なぜか嬉しく思えた。


しかし、ドミヤの言う通りに、ユノの全力の術の威力は想像を越えていた。

自分とシーデと闘っていた時は、数を放つ為に、相当に弱い術を放っていたのだと、容易に想像がついた。


取り合えず、ユノの介抱はドミヤに任せて、残っている衛兵の方へ向き直る。

無傷なヒトが1人、その人物を庇う様に立っている傷付いた兵長風の男が1人、後は地面にうずくまって呻き声を上げている兵が2人、それだけしか残っていなかった・・・。

少し、遅かったか・・・。


そんな事を考えていると、兵長風の男が此方へ声を発した。


「救援、誠に助かった。私は、兵長のアルゴン。貴公は?」


アルゴンと名乗った男は兵長で合っていた様だ。

口調や振る舞いからして、そこそこの階級の人物だと感じられる。

変なボロが出ない様に、注意しつつ、応じる。


「此方は、王国の極秘の命で、ダニーという技師に取り次ぎの用で派遣された部隊です。・・・名をフジワラと申します」


少し迷って、余り名乗っていない名字を名乗る事にする。

勿論、話した内容は全て嘘である。


「ほう・・・極秘の命か・・・。それは、兵長である私にも話せない類いのものなのか?」


アルゴンはそう言うと、疑惑に満ちた視線を此方へ向けてきた。

まぁ、当然怪しまれるだろう・・・。


「ダニーは私だ。ざっくりと、どんな内容の命なのかな?」


そう言って、アルゴンの後ろに控えていた、細身の眼鏡をかけた男が顔を出した。

歳は自分と同じくらいだろうか、ボサボサの茶色い髪で衛兵達とは、明らかに違う軽装の身なりだ。


「・・・聖術体の事と言えば、わかるでしょうか?」


ダニーの質問に、ユノの名称である単語だけを、短く告げる。

今まで、王国の者達から得た情報から、聖術体についてはそこそこの機密事項の様なので、これで上手くいく筈と踏んでいた。


「!! なるほど・・・。そういう事か・・・。これで、先程の少女の力の謎も解けたよ。アルゴン、彼らは信用しても大丈夫な様ですよ」


どうやら、上手くいったみたいだ・・・。

ダニーがアルゴンの肩に軽く手を置くと、アルゴンは警戒の姿勢を解いた。


「今一、話の内容が見えませんが・・・ダニー様がそう言うのであれば、畏まりました」


そして、ダニーは納得したアルゴンに頷き掛けると、再び此方へ視線を戻す。


「直ぐにでも、そちらの用を伺いたい所だけど・・・先ずは、負傷者の回収などをしてもいいかな?」


「はい。大丈夫です。・・・我々も手伝います」


そう二人に告げると、ドミヤ達も呼んで、遺体の遺留品の回収、生存者を馬車へ運搬などを手伝う。

結局、生存者はダニーとアルゴン以外、たったの3名しかいなかった・・・。

そして、今までアルゴンも毅然としていたが、かなりの深手を負っていた様で、粗方作業が終わると、崩れるように馬車にもたれ掛かった。


「ありがとう。助かったよ」


ダニーはアルゴンに治療を施しながら、そう告げた。


「いえ・・・大丈夫です」


そして、ダニーは少し考える仕草を浮かべた後で、再び此方へ尋ねてくる。


「もし、良かったら・・・遺跡の調査を手伝っては貰えないだろうか? 君たちが来てくれるととても心強そうだ」


何となく、そうなる気がしていた・・・。

この壊滅状態では、とても探索にでる事なんて出来ないのだろう。

どうしたものかと、少し考える。


本来の目的から外れてしまうが。

探索に参加する事で、古代の文明について何かわかるかもしれない・・・。

それに、このダニーという人物をもう少し観察してみたいと思っている部分もある。

ここは、敢えて乗ってみるか・・・。


「わかりました・・・。此方もお供します」


「そうか。助かるよ」


今のところ、悪い人物には見えないが、兵長が様付けで呼んでいる様子から、かなり高い階級の人間と見てよいだろう。

まだ少し、警戒した方がよさそうだ。

すると、ドミヤとユノが崖の方に立って、何かを眺めているのが見えた。


「どうしたんだ? 何か面白いものでもあるのか?」


「あ、旦那、スゴいでさ・・・・。海でさ・・・あい、初めて見たでさ・・・」


そう言われて、二人の視線の先を見ると、広大な海が見えた。

火竜に集中しすぎて、まったく気が付かなかった。

大きな崖の先には何処までも続く、青い海原が広がっていた。


「すごい綺麗・・・」


ユノもその何処までも続く青色の世界に、すっかり心を奪われている様子だ。

そういえば、俺も海を見るのは久しぶりだったな・・・。

元いた世界を思いだし、少し懐かしい気持ちになっていく。


この世界に来てから、まだ3ヵ月程しか立っていない。


しかし、気持ち的には、前の世界での生活はもう、随分、前の事の様に感じられる。

今の、生活にもすっかり慣れてしまった。

人間の環境適応能力も捨てたものじゃないと感じる。


今、自分がこんなサバイバル染みた事している間も、前の世界の知人達は平和な毎日を送っているのだろうか。

朝起き、仕事へ行き、上手いものを食べ、眠りに着く。


単調な日常かもしれないが、そこには確かな平穏があった。

扮装や災害が起きている国もあったが、それも遠くの世界での話、自分の周りは平和そのものだった。

命が危険に晒される事など、そうそうあるものではなかった。

今では、そんな生活もすっかり懐かしい事の様に思える。


だが、だからと言って、今のこの世界が嫌だというわけではない。

この世界にはこの世界の良さがあった。

確かに危険も多く、色々と不自由な世界かもしれない・・・。


しかし、そんな中から生まれる喜びや、楽しさがあった。

それがこの世界で学べた事の、一つでもあった。


確かに、前の世界は科学の発展で快適な世界だった。

しかし、その快適さと引きかけに、小さな喜びや、楽しさを失ってしまった世界だった様に、今は感じる。

実際、人が生きていくのに、そんなに多くのモノは必要ではないのだ。


よく、科学の進歩は、楽をする為に進歩していくと言う。

自分達の種族をより安全に反映させる為に、試行錯誤を繰り返し、快適な空間を作り上げていく。

それは極々、自然な事なのだろう・・・。

動物もまた、進化という名の試行錯誤を重ね、環境に適応していく。

それと同じ様なものだ。


でも、そこで一つ思う事があった。

人間はいきすぎてしまったのではないかと・・・。


限りある資源を貪り続け、結果、自分達の住むこの星にまで影響を与え初めていた。

しかし、それでも止まる事は出来なかった・・・。


今ある、快適な世界を手放す事が、出来なかったからだ。

そんな悪循環がひたすらに続けられて行く・・・自らで作ったブレーキのない暴走列車に乗り続ける如く・・・。



「・・・海は初めてなのかな?」


物思いにふけっていると、横からダニーが顔を出した。

治療を終えたらしく、布で手を拭っている。

彼には、海を前に固まっている自分の様子が、感激でその場に立ち尽くしている風に写ったのかもしれない。


「いえ・・・。久しぶりに見るもので、少し懐かしい気持ちになってしまって・・・」


「こうやって、大自然を前にすると、我々がいかにちっぽけなか痛感させられるね・・・」


「そうですね・・・」


「最近、私はね・・・。今、我々がしている事、やろうとしている事・・・。それは、神への冒涜になり、いつか裁きが下るのではないかと考える事があるんだ・・・。」


「・・・」


恐らく彼は、聖術体関係の実験の事を言っているのだろう。

それは、確かに冒涜になるのかもしれない・・・。


しかし、神の裁きなどというものが下る事などない。

自分の世界の人間達もまた、それと同じか、下手をするとそれよりもっと酷い事を続けている・・・。

しかし、神罰などが下された事などない・・・。


このダニーという男は、ハリーの言葉通り、この男は王国に何かしらの疑念を抱いている様に見えた。

それは、今のこの様子から感じとる事が出来た。

それとも、つかの間の良心の呵責なのか・・・。


「私は、何処かで道を間違えてしまったのかもしれないな・・・。」


「・・・きっと、まだ、戻る事は出来ますよ」


「どうでしょうか・・・。もう、私は深みに嵌まりすぎてしまった。今更、引き返す事は難しいかな・・・」


ダニーはそう呟くと、いきなり、両手で自らの頬を叩いた。


「さぁ! ぼやいてないで、今はお仕事にしましょう! そろそろ行ってもいいかな?」


ダニーの提案を承諾して、いつも間にか、すっかり座り込んで海を眺めている、ドミヤとユノにも声を掛ける。

いつもなら、何かしらぼやくドミヤが珍しく、大人しくそれに従う。

王国の者と行動を共にしているから、色々と反応に困っているのだろう。

まぁ、自分も似た様な心境ではあったが・・・。


「あそこが、遺跡の入り口です」


そう言って、洞窟の入り口を指差す。

どうやら、あの中に遺跡があるらしい。

地下空洞というくらいだから、やはりかなり潜るのだろうか・・・。

先の火竜の件もあってか、些か不安な気持ちになる。


「あれ? 他の兵の方達は来ないのですか?」


洞窟へと歩を進めながら、先程のアルゴン達がいない事に気がつき、ダニーに尋ねる。


「ええ・・・。思いの外、傷が深い様なので、大事を取って馬車で他の負傷者と共に待機してもらっています。どちらにせよ、外部の警護も必要ですしね」


これは、色々話をするチャンスかもしれないと考える。

多少、戦力に不安を覚えている気持ちもあったが・・・。


そして、洞窟の入り口の前に立つ。

かなり大きな洞窟だ。

その大きな口の先に、なだらかな斜面が地下へと永遠と続いている。

勿論、明かり等は一切ない。


「どうぞ」


そう言うと、ダニーは手にしていた松明をこちらへ渡してくる。

それを、受けとると並び立って、暗闇が支配する洞窟の内部へと歩を進めていった。




レンガ達がすり抜けて行った洞窟の通路の壁が、風に吹かれて少し崩れ落ちる。

その崩れ落ちた壁の中には、小さな文字が見える。


<西東京 B3通路>


掠れきった文字でそう書かれていた・・・。




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