第18話 悪夢、再び・・・
翌日、私たちは目覚めると、支度を整えてから、スネイルがいるであろう聖堂へ再び赴いた。
付近に来ると、グレースさんとシーデさんとは一旦別れ、一人、聖堂内へと歩を進める。
自らが、提示した作戦とはいえ、酷く気分が乗らない・・・。
またあの男と、話さなければならないと思うだけで、気持ちが沈み込む。
でも、これは私が、やらなければならない事だ・・・。
これからの作戦に必要な事だということもあるが、何より、今まで色々な事から逃げ続けてきた自分を変える為に、大事な事だと感じる。
あれこれ考えている間に、あっという間に、聖堂の入り口の大扉へ辿り着いてしまう。
大きく深呼吸をしてから、大扉を押し開けた。
今日も聖堂内は大勢のヒトで賑わっていた。
しかし、目当ての男の巨体は、そんな人混みの中でもすぐに見つける事が出来た。
その男の元へ、重い足取りで真っ直ぐに進んでいく。
「こんにちわ・・・。スネイル」
近くに来ても、気がついていないスネイルに、細々とした声で呼び掛ける。
スネイルはすぐに、その声に気が付き、こちらに振り向く。
「おぅ、ティアか。また今日もお祈りに来たのか? それとも、俺に会いにでも来たのか?」
スネイルは、嬉しそうに大声を上げた。
こういう。自信過剰な所も変わっていない・・・。
「え、ええ・・・。今度、少し二人で、お酒でもって思って、予定を聞きに来たの・・・」
「そうかそうか。それは、楽しみだな」
そう言って、スネイルは品定めでもするかの様な視線を送ってくる。
その視線に憎悪感が高まる。
憎悪感を押さえつつ、スネイルの非番の予定を聞き出す事には成功する。
「そうなのね・・・。少し、予定が合いそうにないわね」
「こっちは別に、来週とかでも、構わないがーー」
「いえ、私は用事で少しの間、王国を離れなければならないのよ。困ったわね・・・」
勿論、この流れは計画通りである。
こちらの思惑通りの、ある時間にある場所で、約束を取り付ける事が目的だからだ。
暫く、スネイルに考える仕草を見せてから、再び口を開く。
「もし、出来たら・・・明日の夜、ここで飲むっていうのは出来ないかしら?」
明日の夜、それは彼が夜間の警備の日である。
彼の性格と地位を踏まえれば、これを受けてくるという自信があった。
夜間の警備が、とても暇という事と、彼は真面目とは、ほど遠いヒトと言う事も踏まえての提案だ。
「明日の夜か・・・。」
そう呟いて、彼は少し考えていた。
流石に、少し強引な提案だったか、と思い掛けた時。
「よし、じゃあそうしよう。夜の警備など暇だしな。それになんたって、俺はここのトップだからな! 文句など言われることない」
彼はそう言うと、高らかに笑って見せた。
彼の傲慢すぎる性格は、昔と変わっていない様だ・・・。
「あ、それと、もう一ついいかしら?」
「なんだ?」
「私は、次の朝にそのまま王国を出る予定なのよ。だから、横に馬車を停車させたいからーー」
「わかった。警備を少し減らしておこう。俺の指示で何人か非番にしておく。これでいいか?」
想像以上に理解が早くて助かった。
しかし、女の部分を使って騙している事に、不快感を覚える・・・。
そして、明日の夜、時間を決めてから、私は聖堂を後にした。
外へ、出てから私は、大きく息を吐き出した。
少し、足が震えている気がした。
「どうでしたか?」
そして、二人の元へ戻ると、グレースさんが不安な眼差しで私に尋ねてきた。
「ええ。何とか作戦通りに、約束を取り付けて来たわ。明日の夜にね」
「さっすがっす! ちょっと強引な気がしてたからダメかと思ってたっんすよ~」
シーデさんも安堵に胸を撫で下ろしている様子だった。
どさくさに紛れて、少し毒を吐かれた様な気もしたが・・・。
「彼の傲慢な性格は、まったく変わっていない様だったから・・・。それが逆に助かったわね」
先程の様子から、変わっていない所か、権力を得た分、余計酷くなっている様な気さえする。
しかし、何はともあれ、これで作戦の準備は整える事は出来た。
「じゃあ、取り合えず用も済んだから、ご飯でも食べに行かないっすか?」
シーデさんは、待っていたとばかりに嬉しそうに尻尾を振り回して言った。
本当によく食べる子なんだ・・・。
「もう、シーデちゃん、王国来てからそればっかりじゃないですか・・・」
そんなシーデさんの発言にグレースさんが静かに咎める様に呟いた。
しかし、そんあ言葉とは裏腹にどこか、いつもの事だ、といった様子だ。
その様子から、二人の新密さを感じる事が出来る。
「いえ、行きましょう。私も丁度、喉が乾いた所だったから」
しかし、私もその提案には賛成だ。
とりあえず、不安の種が解消され、忘れていた空腹感も顔を出していた。
それに、少し、気持ちを落ち着かせたいところでもあったから・・・。
「どうでさ?! 旦那、何か見えるでさか?」
ドミヤは森の茂みに身を隠しながら、筒型の単眼鏡を覗きこんでいる自分を、急かす様に言葉を発した。
緊迫状態の中、矢継ぎ早に放たれるドミヤの言葉に、少し苛立ちを感じる。
「うるさいな。ちょっと待ってくれ・・・」
少し乱暴な返答に、ドミヤはブツブツ文句を言いながらも口を紡いだ。
何故、現在、この様な状態にあるかというと、それは少し前の出来事だった。
そろそろ、目的の場所に着く頃かなと思い、馬を走らせていると、遠方から激しい轟音が聞こえたのである。
自分の記憶に間違いがなければ、それは火竜の咆哮に酷使している様に思えた。
直ぐ様、ドミヤとユノに馬から降りるように指示を飛ばし、身を隠しながら辺りを見回した。
すると、前方の上空に薄く煙が立ち登っているのが、見えたのだった。
そして、状況を把握する為、辺りが見渡せそうな高所に移動し、今に至るわけだ。
すると、単眼鏡である物を捉えたのと同時に、隣のドミヤが再び、絞るように声を発した。
「旦那・・・微かにヒトの声が聞こえるでさ・・・」
今、自分の視線の先には、ドミヤの言葉を明確なものにする光景が広がっていた。
燃え上がる大地、咆哮を上げる火竜、陣形を組んで応戦する衛兵達・・・。
最悪だ・・・。
恐らく、あの部隊がダニーの部隊と見て間違いないだろう。
「・・・ダニーの部隊と火竜が闘っているみたいだ・・・」
暗くゆっくりとした口調で、今得た情報を二人に告げる。
その言葉を聞いて二人は、驚きに目を見開いていた。
「・・・はは、火竜でさか・・・これは不味いでさね・・・」
ドミヤは乾いた笑いを漏らしながら、肩を落としている。
落胆したい気持ちは自分も同じであった・・・。
まさか、また火竜と遭遇する事になるとは・・・。
こちらは、まだ見つかっていないのだが、目的の人物があそこにいる以上、スルーする訳にもいかない。
それでは、ここへ何をしに来たのか、わからなくなってしまう。
遠目に見えた火竜は前の個体よりも、かなり小ぶりの様ではあった。
しかし、一瞬見えた戦況は、お世辞にも良いものではなかった。
殆んど、壊滅状態と言っても過言ではないだろう。
この状況、どうするべきなのか・・・。
ふと、脳裏にイヴァの村での惨劇が過って行く。
全てを焼き尽くしていく紅蓮の炎。その巨体に為す術もなく押し潰されていく人々。
駄目だ・・・とてもじゃないが、簡単にどうにかなる相手ではない。
それにあの様子では、ダニーも既に無事ではないかもしれない・・・。
ここは、一旦、王国に戻るべきだ。
そう考えていた時。
「レンガ、それを貸して」
突然、ユノが手にしていた単眼鏡をゆっくりと奪っていった。
そして、先程、自分が見ていた方角へ向けて覗き込んでいる。
興味本意で見たいのだろうか。
そんなユノから視線を逸らし、ドミヤにゆっくりと口を開いた。
「・・・仕方ない。一旦、退こう・・・。あそこに飛び込むのは危険すぎる・・・」
「それじゃあ、ここへ来た意味が、と言いたいとこでさが・・・それがいいでさ。火竜を相手にするのは危険すぎるでさ・・・。姉さんもいないでさし」
そうなのだ、グレースがいないという事は、深傷を負う事がそのまま死に直結する可能性が高い。
小さいとはいえ、火竜相手に無傷で勝利する事など、不可能に近いだろう・・・。
そう考えて、まだ横で単眼鏡を見ているユノを促そうと、肩へ手を伸ばすと。
「レンガ、あれくらいなら、私がどうにか出来る・・・」
思いがけないユノの発言に、伸ばした手が止まった。
どうにか出来るだって?
ドミヤはその言葉に唖然とした表情を浮かべていた。
恐らく、自分も同じ様な顔をしている事だろう。
「どうにか出来るって・・・あれは火竜だぞ? わかってるのかユノ?」
「うん。よく知ってる」
「こんな時に、下らない冗談はやめるでさよ・・・。あんたみたいな、ちっこいのがどうにか出来るわけないでさよ・・・」
ドミヤは呆れ顔でため息を漏らしたが、ユノは首を左右にブンブンと振った。
しかし、ユノは冗談言う性格ではない事はわかっている。
何か、意図があるのだろうか・・・。
そんな事を考えていると、ユノがゆっくりと口を開いた。
「だって、私は前まで、あれと闘うという事が生かされている目的だったから・・・」




