第17話 二人の決意
「なんすか!? それ! サイテーな奴じゃないっすか!!」
話を終えた後の、シーデさん第一声がこれだった。
断片的に話すつもりだった筈が、つい感情が入ってしまって、次々と話してしまった。
本当は、誰かに聞いて欲しかっただけなのかもしれない・・・。
「酷いですね・・・」
「本当っすよ! 女の敵っすよ!! 今度会ったら、あたしがぶっ飛ばしてやるっすよ!」
シーデさんは激昂しながら、尻尾の毛を激しく逆立てていた。
二人が、こう言ってくれるだけで、気持ちが少し軽くなった様な気がした。
「でも・・・そんな相手では、ティア様を接触させる訳には、いきませんね・・・」
そう言って、グレースさんは暗い表情を浮かべる。
でも、話を終えて、私の決意は固まっていた・・・。
「・・・いえ、いいの。いつまでも逃げてばかりはいられないわ・・・。今度こそ私自身で決着をつけるわ。・・・逆に考えれば、これはいい機会なのかもしれないから」
「ティア様・・・。」
「そうっすね! そんな陰険男なんてガツンっとやっちゃうっすよ!! あたし達も全力でサポートするっすから!」
そのシーデさんの明るい言葉が、とても心強かった。
彼女は、私なんかとは違う前向きで真っ直ぐな人なのだと、少し羨ましいとさえ思ってしまう・・・。
トントンッ!
すると、突然、部屋をノックする音が聞こえた。
恐らく、解放軍の密偵がやって来たのだろう。
二人にその事を告げて、ドアへと急いだ。
手筈通り、連絡鳥を受け取り、簡単な報告を受けてから、再び部屋を戻る。
「レンガさん達は、遠征に出てしまったダニーを追って、今日の朝、王国を発ったそうよ」
「えっ? そうなんすか? 何か面倒な事になってるんっすね~」
「・・・どこへ行かれたんですか?」
楽観的なシーデさんとは対照的に、グレースさんは少し顔を曇らせていた。
彼らは、信頼されているのね・・・。
「うーん・・・。ここから、北東にある遺跡後みたい。何やら、昔の遺跡が見つかったらしいのよ」
「ほ~。何か、スゴそうっすね。・・・でも、それってトラブルの匂いがプンプンしてる様に思えるのは、あたしだけっすかね・・・。」
「・・・そうですね。私も少し嫌な予感がします・・・。」
この二人の心配の仕方は、それなりの信憑性があってのものの様に見えた。
レンガさんはそんなにも、トラブルメーカーなのだろうか・・・。
「夜は少し冷えるな・・・。」
冷たい夜風に吹かれて、身体が身震いを起こした。
そんな身体を暖めるために、焚き火に少し身を寄せる。
「誰かが、旦那の悪口でも言ってるでさよ」
ドミヤは焚き火で、持参した干し肉を炙りながら、からかう様に、ケタケタと笑って見せる。
「そんな事はないだろ・・・。第一、何か言われる覚えなんかないぞ、俺は」
「大した自身でさね・・・。知らぬは己だけってね~」
そう言って、クスクス、とドミヤは含み笑いを浮かべた。
まったく、失礼な奴だな・・・。
すると、ドミヤは焼き終えた干し肉にかじりつきながら、少し真面目なトーンで尋ねてきた。
「それはそうと、ダニーの部隊に接触してから、どうするんでさ?」
「そうだな・・・。」
隣で、眠りへの舟をこぎ始めたユノを起こさない様に、静かなトーンで話し始める。
「例えば、前に来た追っ手みたいに・・・。そういえば、ドミヤはいなかったな・・・。」
「いちいち、嫌味みたいな言い方しないで欲しいでさ・・・。」
思わぬ失言に膨れるドミヤに、謝りながら話を続ける。
「悪い悪い。で、その時の部隊が、ユノを連れていた主とその取り巻きっていう、少し変わった編成の部隊だったんだ・・・。それに偽装するっていうのはどうだろう?」
「なるほどでさ。旦那がユノの専属の主で、あいが術具の専属メンテ役みたいな感じでさね」
「そうそう。それで、ダニーに内密な話があるって感じで、少し行動を共にする。そして、ダニーの人柄を見て話すタイミングは考えるってのはどうだ?」
「何か、行き当たりばったり感が否めない作戦でさね・・・。」
ドミヤが呆れた様子で小さく溜め息を漏らした。
「仕方ないだろ・・・。実際、行き当たりばったりなんだから・・・」
本来、王国を出る事すら想定していなかったのだ。
こんな状況では緻密な作戦なんて立てようがない・・・。
それに、グレースがいない今、迂闊な戦闘は何としても避けたい。
「まぁ、そうでさね・・・。旦那、先に言っておくでさが、くれぐれも先走った事はしないでほしいでさよ・・・」
「わかってるよ・・・。慎重派な俺に何を言ってるんだよ・・・」
そんな自信満々の言葉を返した筈なのだが。
静かな森には、ドミヤの大きな溜め息が響き渡っていた。
私は、明かりのない部屋の天井をただ見つめていた。
身体は疲れていた筈だが、なかなか寝付くこと出来なかった・・・。
消灯する前に、グレースさんとシーデさんと話し合い、今後の作戦の方向性を定めた。
まず、私がスネイルと接触、夜に聖堂で会う約束を取り付ける。
そして、隙を突いてスネイルの意識を奪い、その隙に聖水を奪い出し、王国から脱出する。
少し強引な作戦ではあるが、現状これくらいしか望みがありそうな作戦はなかった・・・。
恐らく、私がスネイルと二人で会うとなれば、間違いなく見張りの数を減らす筈だ・・・。
その為に、まずは彼の勤務の日に、約束を取り付ける必要があった。
彼との約束を取り付けることは、そう難しくはないだろう。
この作戦の一番の難所は、彼の意識を奪うという事で間違いない・・・。
彼の、戦闘力は王国からも高く評価される程だからだ。
彼は、昔から部隊で問題ばかり起こしていた。
仲間への暴力、異性とのトラブル・・・。
それは数えたらキリがない・・・。
普通ならば、すぐに懲罰、除隊されてもおかしくないのだが。
彼が咎められる事はなかった・・・。
彼の、圧倒的な才能と力に、誰もが、口を瞑るしかない状態だったのだ。
そして、今や彼は、王国の重要施設の一つ、聖堂の警備隊長にまで上り詰めている。
私は、そんな男に立ち向かおうとしている・・・。
でも、私もこれまでずっと遊んでいた訳ではない。
もう、昔の私とは違う! 今、ならばきっと・・・。
しかし、そんな考えとは裏腹に、どす黒い不安が次々と沸き上がって来る。
そして、その感情に耐える様に、いつの間にか、膝を抱え込み、胎児に様に身体を丸めていた。
時を同じくして、この部屋にはもう一人、眠りに着けずにいるものがいた・・・。
「・・・。」
グレースは薄く瞳を明けながら、窓越しに夜空を見つめていた。
レンガ様達、今頃どうしているのかしら・・・。
私は、ここの所、そんな事ばかり考えていた。
今、離れているレンガ様、皆の事が心配・・・いや、違う。
これは、ただ私が不安なだけであった・・・。
これまで、様々な困難があっても、レンガ様が居てくれたから乗りきる事が出来た。
そして、今までの出来事が頭を掠めていく。
火竜の襲撃、騎士団に捕まった事、大蛇との遭遇、養殖場での戦闘、夜中での森の戦闘・・・。
私は、いつも何も出来なかった・・・。
ただ、うようさようしているだけで、レンガ様が適切な指示を与えてくれなければ、ただの足手まとい・・・。
驚異的な身体能力で、前線で戦うドミヤちゃんとシーデちゃんには、嫉妬心すら抱いていた。
更に、同じエルフであるユノちゃんには、私の様な普通以下のエルフでは、術力も遠く及ばないのが現実・・・。
いよいよ、お払い箱になってしまうのではないかと、考え始めていた。
そして、あの解放軍の村で、今回の遠征の編成を聞かされた時、私は遂に愛想を尽かされたのだと感じた・・・。
でも、その夜・・・。
レンガ様と外で話をして、皆を頼むと言われた。
その言葉が、私にはとても嬉しかった。
まだ、私の事なんかを信頼し、必要としてくれているのだと、感じる事が出来たから・・・。
でも、今度こそ何も出来なかったら・・・。
全てを失ってしまうのかもしれない・・・。
私の両親・・・故郷の様に・・・。
私は強くなりたい・・・。
もう、何も失いたくないから・・・。
そして、私はレンガ様から貰った腕輪を握りしめて、キツく瞳を閉じた・・・。




