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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 二つの世界を繋ぐモノ
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第17話 二人の決意

「なんすか!? それ! サイテーな奴じゃないっすか!!」


話を終えた後の、シーデさん第一声がこれだった。

断片的に話すつもりだった筈が、つい感情が入ってしまって、次々と話してしまった。

本当は、誰かに聞いて欲しかっただけなのかもしれない・・・。


「酷いですね・・・」


「本当っすよ! 女の敵っすよ!! 今度会ったら、あたしがぶっ飛ばしてやるっすよ!」


シーデさんは激昂しながら、尻尾の毛を激しく逆立てていた。

二人が、こう言ってくれるだけで、気持ちが少し軽くなった様な気がした。


「でも・・・そんな相手では、ティア様を接触させる訳には、いきませんね・・・」


そう言って、グレースさんは暗い表情を浮かべる。

でも、話を終えて、私の決意は固まっていた・・・。


「・・・いえ、いいの。いつまでも逃げてばかりはいられないわ・・・。今度こそ私自身で決着をつけるわ。・・・逆に考えれば、これはいい機会なのかもしれないから」


「ティア様・・・。」


「そうっすね! そんな陰険男なんてガツンっとやっちゃうっすよ!! あたし達も全力でサポートするっすから!」


そのシーデさんの明るい言葉が、とても心強かった。

彼女は、私なんかとは違う前向きで真っ直ぐな人なのだと、少し羨ましいとさえ思ってしまう・・・。


トントンッ!


すると、突然、部屋をノックする音が聞こえた。

恐らく、解放軍の密偵がやって来たのだろう。

二人にその事を告げて、ドアへと急いだ。



手筈通り、連絡鳥を受け取り、簡単な報告を受けてから、再び部屋を戻る。


「レンガさん達は、遠征に出てしまったダニーを追って、今日の朝、王国を発ったそうよ」


「えっ? そうなんすか? 何か面倒な事になってるんっすね~」


「・・・どこへ行かれたんですか?」


楽観的なシーデさんとは対照的に、グレースさんは少し顔を曇らせていた。

彼らは、信頼されているのね・・・。


「うーん・・・。ここから、北東にある遺跡後みたい。何やら、昔の遺跡が見つかったらしいのよ」


「ほ~。何か、スゴそうっすね。・・・でも、それってトラブルの匂いがプンプンしてる様に思えるのは、あたしだけっすかね・・・。」


「・・・そうですね。私も少し嫌な予感がします・・・。」


この二人の心配の仕方は、それなりの信憑性があってのものの様に見えた。

レンガさんはそんなにも、トラブルメーカーなのだろうか・・・。





「夜は少し冷えるな・・・。」


冷たい夜風に吹かれて、身体が身震いを起こした。

そんな身体を暖めるために、焚き火に少し身を寄せる。


「誰かが、旦那の悪口でも言ってるでさよ」


ドミヤは焚き火で、持参した干し肉を炙りながら、からかう様に、ケタケタと笑って見せる。


「そんな事はないだろ・・・。第一、何か言われる覚えなんかないぞ、俺は」


「大した自身でさね・・・。知らぬは己だけってね~」


そう言って、クスクス、とドミヤは含み笑いを浮かべた。

まったく、失礼な奴だな・・・。

すると、ドミヤは焼き終えた干し肉にかじりつきながら、少し真面目なトーンで尋ねてきた。


「それはそうと、ダニーの部隊に接触してから、どうするんでさ?」


「そうだな・・・。」


隣で、眠りへの舟をこぎ始めたユノを起こさない様に、静かなトーンで話し始める。


「例えば、前に来た追っ手みたいに・・・。そういえば、ドミヤはいなかったな・・・。」


「いちいち、嫌味みたいな言い方しないで欲しいでさ・・・。」


思わぬ失言に膨れるドミヤに、謝りながら話を続ける。


「悪い悪い。で、その時の部隊が、ユノを連れていた主とその取り巻きっていう、少し変わった編成の部隊だったんだ・・・。それに偽装するっていうのはどうだろう?」


「なるほどでさ。旦那がユノの専属の主で、あいが術具の専属メンテ役みたいな感じでさね」


「そうそう。それで、ダニーに内密な話があるって感じで、少し行動を共にする。そして、ダニーの人柄を見て話すタイミングは考えるってのはどうだ?」


「何か、行き当たりばったり感が否めない作戦でさね・・・。」


ドミヤが呆れた様子で小さく溜め息を漏らした。


「仕方ないだろ・・・。実際、行き当たりばったりなんだから・・・」


本来、王国を出る事すら想定していなかったのだ。

こんな状況では緻密な作戦なんて立てようがない・・・。

それに、グレースがいない今、迂闊な戦闘は何としても避けたい。


「まぁ、そうでさね・・・。旦那、先に言っておくでさが、くれぐれも先走った事はしないでほしいでさよ・・・」


「わかってるよ・・・。慎重派な俺に何を言ってるんだよ・・・」


そんな自信満々の言葉を返した筈なのだが。

静かな森には、ドミヤの大きな溜め息が響き渡っていた。






私は、明かりのない部屋の天井をただ見つめていた。

身体は疲れていた筈だが、なかなか寝付くこと出来なかった・・・。

消灯する前に、グレースさんとシーデさんと話し合い、今後の作戦の方向性を定めた。


まず、私がスネイルと接触、夜に聖堂で会う約束を取り付ける。

そして、隙を突いてスネイルの意識を奪い、その隙に聖水を奪い出し、王国から脱出する。

少し強引な作戦ではあるが、現状これくらいしか望みがありそうな作戦はなかった・・・。


恐らく、私がスネイルと二人で会うとなれば、間違いなく見張りの数を減らす筈だ・・・。

その為に、まずは彼の勤務の日に、約束を取り付ける必要があった。


彼との約束を取り付けることは、そう難しくはないだろう。

この作戦の一番の難所は、彼の意識を奪うという事で間違いない・・・。

彼の、戦闘力は王国からも高く評価される程だからだ。


彼は、昔から部隊で問題ばかり起こしていた。

仲間への暴力、異性とのトラブル・・・。

それは数えたらキリがない・・・。


普通ならば、すぐに懲罰、除隊されてもおかしくないのだが。

彼が咎められる事はなかった・・・。

彼の、圧倒的な才能と力に、誰もが、口を瞑るしかない状態だったのだ。


そして、今や彼は、王国の重要施設の一つ、聖堂の警備隊長にまで上り詰めている。

私は、そんな男に立ち向かおうとしている・・・。

でも、私もこれまでずっと遊んでいた訳ではない。

もう、昔の私とは違う! 今、ならばきっと・・・。


しかし、そんな考えとは裏腹に、どす黒い不安が次々と沸き上がって来る。

そして、その感情に耐える様に、いつの間にか、膝を抱え込み、胎児に様に身体を丸めていた。





時を同じくして、この部屋にはもう一人、眠りに着けずにいるものがいた・・・。


「・・・。」


グレースは薄く瞳を明けながら、窓越しに夜空を見つめていた。

レンガ様達、今頃どうしているのかしら・・・。


私は、ここの所、そんな事ばかり考えていた。

今、離れているレンガ様、皆の事が心配・・・いや、違う。

これは、ただ私が不安なだけであった・・・。


これまで、様々な困難があっても、レンガ様が居てくれたから乗りきる事が出来た。

そして、今までの出来事が頭を掠めていく。


火竜の襲撃、騎士団に捕まった事、大蛇との遭遇、養殖場での戦闘、夜中での森の戦闘・・・。

私は、いつも何も出来なかった・・・。


ただ、うようさようしているだけで、レンガ様が適切な指示を与えてくれなければ、ただの足手まとい・・・。

驚異的な身体能力で、前線で戦うドミヤちゃんとシーデちゃんには、嫉妬心すら抱いていた。

更に、同じエルフであるユノちゃんには、私の様な普通以下のエルフでは、術力も遠く及ばないのが現実・・・。

いよいよ、お払い箱になってしまうのではないかと、考え始めていた。


そして、あの解放軍の村で、今回の遠征の編成を聞かされた時、私は遂に愛想を尽かされたのだと感じた・・・。


でも、その夜・・・。

レンガ様と外で話をして、皆を頼むと言われた。

その言葉が、私にはとても嬉しかった。

まだ、私の事なんかを信頼し、必要としてくれているのだと、感じる事が出来たから・・・。


でも、今度こそ何も出来なかったら・・・。

全てを失ってしまうのかもしれない・・・。


私の両親・・・故郷の様に・・・。

私は強くなりたい・・・。

もう、何も失いたくないから・・・。


そして、私はレンガ様から貰った腕輪を握りしめて、キツく瞳を閉じた・・・。



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