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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 二つの世界を繋ぐモノ
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第16話 最悪な再開

長旅を経て、やっと宿へ到着すると、荷物を下ろして、手頃な椅子に腰を掛けた。


「みんな、長旅、お疲れ様。少し、休憩にしましょう」


今回の旅の仲間、エルフのグレースさんと獣人のシーデさんに一息入れるように促した。

二人はそれを肯定すると、グレースさんは私と同じように椅子に腰を下ろし、シーデさんは勢いよくベッドへダイブした。


「いや~疲れたっすね~。馬に乗りっぱなしで、お尻の肉が削ぎ落ちるかと思ったっすよ~」


「そうですね。こんなに長い時間、馬に乗っていたのは初めてでしたものね」


グレースさんは何も言わなかったけど、同じくかなりの疲労があった様だ。

終始お尻が~、と叫んでいたシーデさんとは、裏腹に無言でいた為、気づくことが出来なかったが。


「・・・レンガ様達は、大丈夫ですかね?」


「流石の、レンガさんもあれだけ、釘を刺しておけばダイジョブっすよ。ドミっちもついてる事だし」


「彼らの動向については、潜伏中の解放軍を通じて、報告が入る筈だから、安心して大丈夫よ」


宿に入った事が確認出来次第、誰かがここを訪ねてくる手筈だ。

恐らく、今日の夜にはこの部屋へ、訪問者がやって来るだろう。


しばらく、他愛ない話をした後で、グレースさんが、立ち上がった。


「では、そろそろ、聖堂を見に行きましょうか」


「そうね。そうしましょうか」


私はその提案に応じると、刀袋を肩に掛け、同じように立ち上がる。

すると、ベッドに転がっているシーデさんが、勢いよく手を翳した。


「はいは~い! あたし、その前にお腹を満たしたいっす! もう限界っす!」


「そうね。じゃあ、途中の何処かでお昼にしましょ」


「やった~! また、美味しいものが食べられるっす! 感激っす!」


すると、シーデさんは歓喜の声を上げながら、尻尾をブンブンと振った。

そして、早く早くと急かすシーデさんに押されながら、部屋を後にした。





「いや~やっぱし、王国のご飯は最高っすね~。 大満足っす」


適当な食堂で昼食を済ませると、聖堂への道を、並び立って進んでいた。

しかし、シーデさんの食べっぷりには、終始驚きを隠すことが出来なかった。

軽く4人前は食べたのではないだろうか・・・。


グレースさんは、別段驚くこともなく、静かに食べている事から、それはいつもの事なのだろう。

レンガさんの提案で、エギルさんから多目に、お金を受け取った事の意味が、わかった気がした。


「ガラティア様、聖堂までは後、どれくらいなのですか?」


隣にいるグレースさんが、此方へ問いかけてきた。


「私の事は、ティアって呼んで。皆、そう呼ぶから。聖堂へは、もうすぐよ」


「わかりました。ティア様」


グレースさんは、ゆっくりと頷いて見せた。

本当は、呼び捨てで良かったのだが、レンガさんの事も様付けの所を見ると、変に突っ込む所ではないと判断する。

彼女達とレンガさんに主従の関係の様なものはなさそうだが、グレースさん自身なにか思うところがあるのかもしれない。


「今日は、取り合えず、私が内部を、二人は外周を見て回るだけにしておきましょう。それでいい?」


「了解っす!」


「わかりました」


すると、目の前に巨大な建造物が見えて来る。


「あれが、聖堂よ」


その遠目に見えてきた建造物を指で指し示す。

昔は、ここの警護で何度も訪れていたが、久々に見たそれはひどく懐かしい物に見えた。


「うひゃ~。これはでっかいっすね~!」


「本当。ヒトの手でこんな大きな物を作ることが出来るんですね」


二人はその建物を前にして、各々の感想を漏らしていた。

石の柱をいくつも装飾された外壁に、身の丈の何倍もある大きな入り口。

それに、ヒトを模した巨大な石像が周囲に何体も置かれている。

確かに、ヒトの手でこれを作った事は、凄いことなのだと、私も改めて思ってしまう。


「しかし、随分ヒトが多いんですね。今日もその儀式というのを、行っているんですか?」


「いいえ。儀式をやる時は、逆にこんなにヒトはいないわ。何もない日は、一般解放されていて、一種の観光スポットになっているのよ」


「そうなんっすね。・・・やっぱし、あたし達は入れないって感じなんっすか?」


シーデさんが苦笑いを浮かべつつ、問いかけてきた。


「申し訳ないのだけれど、そうなの。だから、二人は辺りの地形なんかを見て回って欲しいのよ。もし、侵入するならば、恐らく夜になるわ・・・。その時にどこか出入りが出来そうな所とかを探して見て」


二人はその提案に頷いて見せてくれた。

しかし、そう言っては見たものの、ここへ押し入って、更に聖水を奪取するなど、そうそう簡単に出来る事ではない。

それは、過去にここの警備をやっていた為、痛いほどわかってしまう。

そして、私は入り口で付近で、二人と一旦別れ、聖堂内部へと歩を進めた。


内部の様子は、昔と何も変わらなかった。

正面の奥に儀式を行う壇があり、そこへ向かう様に何個もの横椅子が列をなしている。

その椅子は、いつも通りに、沢山の参拝者達で埋まっていた。


昔と変わっていなければ、確か、聖水の貯蔵場所はあの裏ね・・・。


そう思い返して、壇上を見る。

あそこの裏手に広めの空間があり、樽に入った聖水が乱雑に保管されている筈だ。

そこへは、壇の横にある小さなドアから行ける。


次に、警備の人数を確認する為、ぐるりと辺りを見回してみる。

入り口に2人、壇の左右に2人。

見たところそれだけの様だ。

恐らく、裏にまだ数名はいるだろう。

しかし、表には相当な数の見張りが徘徊している。

やはり、この作戦は成功させられる確率は、限りなく0に近いものだと考えてしまう。


すると、当然、誰かに肩を叩かれ、驚いてそちらに振り返った。


「よぉ! ティアじゃないか! 久しぶりだな」


そこには、短い金髪を携えた巨体の男が立っていた。

この男はよく知っている・・・。


「あ、ああ、スネイルね。ひ、久しぶり」


男の名前を呼び起こして、歯切れの悪い返事を返した。

最悪・・・。

私の心は今、そんな言葉で埋め尽くされていた。


ヒトはそこそこに生きてくると、二度と会いたくないと思う相手が一人は存在するものである。

私にとって、彼がそんな人物だった・・・。


彼は、私がまだ、王国の兵に入隊したばかりの時の部隊の中の一人だった。

確か、同期だったと思う。

だが、彼の印象を忘れられないものにしたのは、勿論、そんな事ではない。


私は彼から猛烈に好意を抱かれていた。

それだけならば、別段、嫌う理由にはならないのだが、彼の好意は行き過ぎていたのだ。

まるで、ストーカーの様に四六時中まとわりついて来て、私に友達などに攻撃的な姿勢を見せ続けた。

挙げ句には、寝込みを襲われそうになった事も、何度もあった。

そのお陰で部隊での交遊関係もめちゃくちゃだった・・・。


私のはっきりしない性格も相まって、かなりの期間に渡り、そんな事を繰り返されて来た。

しかし、やがて、私は騎馬隊へ異動となり、そんな地獄の様な期間は終わる事となったのだが・・・。

そんな悪夢の様な男が、再び私の目の前に姿を表した・・・。


最初のコンタクト無視してしまえば、良かったと、今になって猛烈に後悔している自分がいた。


「風の噂で聞いたが、おまえ、王国騎士団をやめたんだって?」


「ええ。そうよ・・・」


早く何処かへ、行って欲しいという願いを込めて淡白な返答を繰り返すが、彼の質問は止まらなかった。


「折角、大出世したのに勿体ないな。何かあったのか?」


「別に何も・・・」


それをあんたに話す気なんかない・・・。


「なんだ、つれないな。俺は今、ここの警備隊長をやってるんだ。今度、何処かへ飲みにでも行こう」


すると、スネイルはポケットから取り出した紙切れに、何かをメモしてこちらを差し出した。

それを、つい反射的に受け取ってしまう。

それには、スネイルの今の家の場所が示してあった。


「じゃあ、いつまでもサボってる訳にはいかないんでな。また今度な」


スネイルはそう言うと、手を挙げながらその場から去っていった。

思わず、舌打ちが漏れた。

感情に任せて、その紙切れをその場に投げ捨ててやろうかと思ったが。

奴がここの警備隊長である以上、これも大事な情報の一つになると考え、必死にその感情を静めた。

そして、ガックリと項垂れながら聖堂を後にした。



「あっ! ティアさん、遅かったっすね~」


「良かった、何もなくて。あまりに遅いから何かあったのかと心配しちゃいましたよ」


外へ出ると、こちらを見つけたグレースさんとシーデさんが早足に駆け寄って来た。

残念ながら、何かはあったんですけどね・・・。


「どうしたんです? 何か元気がない様ですけど・・・」


グレースさんが心配そうに除きこんできた。


「あ、いえ。大丈夫よ。それより、今日は一旦宿へ戻りましょ」


二人は怪訝な顔を浮かべつつも、すぐに同意してくれた。

もう、今は一刻も早くこの場から離れたい気持ちでいっぱいだった・・・。



そして、宿へ戻ると帰りの道中で購入した、ウィスキーをグラスに注ぎ、それを一口流し込んだ。

それで、ようやく気持ちが落ち着き始めてくる。

しかし、これでは、まるでアルコール依存症だと思う・・・。


「それで、外の様子はどうだった?」


落ち込む気持ちを切り替えて、部屋で寛ぐ二人に声を掛けてみる。

帰りの道中では、ヒト目があるからと言って、お互いの報告についての話題は避けていたのだ。


「外部から穏便に侵入するのは無理そうっすね。窓を割れば入る事は出来そうっすけど」


「はい、見張りもかなりの数がいました。でも、夜ならどうでしょうか・・・」


やはりそうか・・・。

恐らく、それは夜でもかなりの数がいる筈だ。

昔から、そうだった。


「あそこは、王国にとって聖なる土地として崇められている場所なの。だから、それだけ警備も固くなっているのよ。それは夜でも変わらないの・・・」


それを聞いて、グレースさんは深く落胆していた。


「中の様子はどうだったんっすか?」


「内部も昔と変わらずに厳重な警備だったわ。聖水の貯蔵場所変わってはいなさそうだったけどね」


「何か・・・突破口の様なものはありましたか?」


グレースさんが、おずおずと口を開いた。


「正直、なにも思い付かなかったわ・・・。」


そして、部屋には3人の溜め息が木霊する。

しばらくしてから、少し迷ってから、再び口を開いた。


「でも・・・」


その音にグレースさんが顔を上げた。


「一つ、聖堂の警備隊長が私の、知っている人物だったの・・・」


そう口にして再び、あいつの顔を甦って、胃が痛くなる心境だった。


「お! それは、何かの突破口になるんじゃないっすか!?」


シーデさんが歓喜の声を上げた。

普通なら、それは喜ばしい出来事なのだが、私は酷く気落ちしていた。


「・・・あの、ティア様はその方と、何かあったんですよね? それで・・・戻ってから様子が変だったんですよね?」


グレースさんが、こちらを見ながら、ゆっくりと言った。


「え? そうなんすか? そいつに何かされたんすか?!」


少し考えてから、決めた。

彼女達に、断片的にでも話す事を・・・。


「ええ・・・。少しだけ、私の話を聞いてくれるかしら・・・」


二人は、ゆっくりと頷いて見せてくれた。

そして、私は話し始めた。

私と彼の過去の柵たちを・・・。




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