第15話 見つかった地下遺跡
「お待たせしたね」
男はそう言うと手にしている紙をカウンターの上に広げた。
それは、王国周辺の地図であった。
「ダニーが出掛ける前に、何かの時の為に目的地を聞いておいて良かったですよ。今回の遠征は、長くなるかもって言ってたんでね。ここが、そうです」
男はそう言って、王国の北東の土地を指で指し示した。
「本当は、こんな事はホイホイ教える訳にはいかないんだがね・・・。王国の貴族さんの急用だし、それに何よりドミヤも一緒だから特別にな」
そして、男はこちらに軽く笑いかけて見せた。
俺は貴族を演じる為に、無表情に少し頷いて見せる。
隣のドミヤは笑いながら礼の言葉を口にしていた。
そこで、男に少し質問を投げ掛けてみる。
「ダニーは、そこにどんな命で赴いているんだ?」
すると、男は顎の髭をクシャクシャと触りながら、何かを思い出す様に唸った。
「うーん・・・。確か、地下に謎の空洞が見つかったとか、何とか言っていた気がしますね・・・」
地下の空洞?
何かの調査なのだろうか?
そこで、少し突っ込んだ話題を振ってみる事してみる。
「遺跡の調査か何かか?」
男はその問いに、あっ、と何かを思い出した様に声を上げた。
「そうだ! 思い出しやした! 採掘場から、古代の物と思われる遺跡が見つかったから、その調査の第一人者でって話でしたよ。まぁ、所謂、ただの歴史の調査ですね」
それは恐らく、ハリーが言っていた、古代の文明と言うものなのだろう。
だとすると、ただの歴史の調査などと軽いモノではないと、睨んでいい筈だ・・・。
そこに、行けば古代文明についても何かがわかるかもしれない。
「旦那様、どうしますでさか? こちらに行ってみますでさか?」
ドミヤが自分に丁寧に話している事に、かなりの違和感を感じつつも、それに無言に頷いて見せる。
「おやっさん。この地図と同じものはないでさか?」
「あーいいよ! それを持って行っちまって! また今度ゆっくり話そうやドミヤ!」
男はそう言うと、手の甲をブンブンと振ってから豪快に笑った。
この人は乱暴そうな見た目とは、裏腹にとても優しい人なのだと思った。
そんな人を騙している事に、少し罪悪感を感じてしまう・・・。
「じゃあ、おやっさん! ありがとでさ! 助かったでさよ! また来るででさね~」
ドミヤの挨拶に続いて、最後に少しだけ頭を下げてから、ユノを連れて工房を後にした。
そして、すぐに宿へ帰還して、一目散に服を着替えた。
「ふ~。やっと、落ち着けるな・・・」
そんな大した時間ではなかったが、凄まじい疲労感があった。
着替えると、そのままベッドに転がった。
「お疲れさまでさ。あいは割と楽しかったでさよ。ぷぷ・・・」
また、あの格好の事をぶり返して来そうな雰囲気を感じて、話題を変える。
「ユノは大丈夫か? 疲れてないか?」
「私は、大丈夫。少しお腹が減ったくらい・・・」
ユノは先程と同じ格好のまま、椅子に腰かけていた。
「ユノは着替えなくてもいいのか?」
「うん。このままでいい・・・」
そんなやり取りに、ドミヤが割って入ってきた。
「何をそんなに着替えさせようとしてるんでさ? 旦那・・・下心があるんじゃないでさか?」
ドミヤがジト目をこちらに向けながら、とんでもない事を言い出した。
「ばっ!! 違うよ! 着替えるタイミングを見失ってるのかと思って言っただけだよ!」
「怪しいでさね~。旦那はいつも、これだけの女に囲まれてるのに、何もしようとしない所が、逆に怪しいんでさよね~ムッツリな匂いを感じるでさ」
「誰がムッツリだ! それに、その言い方だと何かされたい様な物言いにも聞こえるぞ? ねぇ、ドミヤさん」
ドミヤの挑発には乗らずに、逆にこっちも反撃を試みてみる。
「なっっ!! 何を言ってるでさ!! そんな訳あ、あるわけないでさ!! この変態男!! セクハラでさ!!」
耳まで真っ赤になって騒ぎ立てているドミヤを、大笑いしながら見ていると、ユノが小さな声で呼び掛けてきた。
「どうした? ユノ?」
「うん・・・。レンガ、下心って何?」
この状況でとんでもない質問が飛んできた・・・。
すると、ドミヤが。
「ユノ、下心って言うのはでさねーー」
「いいから! ユノに変な事を教えるなって!」
トントンッ!
すると、突然ドアをノックする音が聞こえた。
しまった・・・騒ぎすぎたか?
隣の部屋の人が苦情でも言いに来たのかもしれない。
「ちっ! 良いところで邪魔が入ったででさね・・・」
ドミヤの悪たれを聞きながら、腰を上げてドアへと歩を進めた。
そして、ドアの前で対面しているであろう人物に声を掛けてみる。
「はい。どちら様でしょうか?」
すると、ドア越しに小さな男の声が聞こえた。
「レンガさんですね? 私はエギル様から申し付けられた者です」
それは、恐らくエギルが出発時に言っていた、王国に潜伏している解放軍の者で間違いないのだろう。
男に返答を返しながら、ドアを開いた。
そこには、フードを深々と被った男が一人立っていた。
「昨日、ガラティア様の一行も村を発ったとの事です。明日には、王国に着くかと思います」
「そうなんですね。態々、報告ありがとうございます」
しかし、どうやって連絡を取り合っているのだろうか?
まさか、電話があるわけはないだろうし・・・。
すると、男は小さな篭を、此方へ手渡してきた。
「これを、部屋の窓へ、備え付けて下さい」
その篭の中には一匹の小さな鳥が入っていた。
その後の、男の説明からして、それは所謂、伝書鳩と同じものだった。
連絡がある際は、足に手紙を括り着けて飛ばしてくれとの事だ。
「では、私はこれで・・・。」
男がそう言って、去ろうとするのを引き留めた。
「自分達は明日、王国の北東へ技師に会いに行く予定なんです。この事を、ガラティアさん達へ伝えて貰えますか?」
「かしこまりました。では、王国に入り次第、お伝えしておきます」
そして、男はこちらへ一礼すると、その場を去って行った。
エギルさんの手回しの早さに感謝した。
男が去った事を確認して、ドアを閉め、篭を持って部屋へと戻る。
「えらく長かったでさね? なんでさ? それ・・・」
そう言って、ドミヤが自分が手にしている篭を覗き混んだ。
「解放軍の人だった。これは、連絡手段だってさ」
「ああ、そう言うことでさね。連絡鳥でさね」
ドミヤは鳥の連絡手段を知っている様だった。
この世界では割とメジャーな手段なのかもしれない。
ユノもドミヤの後ろから、恐る恐る覗き混んでいた。
「大丈夫だよ、ユノ。怖い生き物じゃないから」
これから、部屋にいることになるであろう、小さな仲間の不信感を拭っておく。
「・・・これは、美味しいの?」
どうやら、色々順序立ててユノに説明する必要がありそうであった・・・。
翌朝、再び王国の外へ赴くべく、馬に跨がっていた。
「旦那、ほんとにその格好でいいんでさか?」
ドミヤがニヤついた表情を浮かべて、こちらを覗き混んで来る。
「これで、大丈夫だろ? それに、よくよく考えれば、このコートを着けていれば、王国の騎士団に見える筈だろ」
そう言ってから、着ているコートを叩いて見せる。
このコートは元々、騎馬隊のリーダーから拝借した物なのだ。
これを着ている事で、かなりそれらしく見える筈だ。
「ちっ。バレたでさか・・・。」
「・・・何か言ったか?」
「何でもないでさ・・・」
そう言って、ドミヤはつまらなさそうに、そっぽを向いた。
取り合えず、必要になりそうな物は昨日のうちに買い足しておいた。
今回はグレースがいない為、治療道具を少し多目に買い、後、道中の食料と携帯型の筒型の望遠鏡も買っておいた。
ダニーの一行は恐らく遠征の部隊が組まれている筈だ。
勿論、素性を偽って、穏便に接触するつもりだったが、万が一という事もありえる。
グレースの治癒術がない以上、戦闘は何としても避けたい所ではあるが・・・。
そして、いつも通りユノが目の前にチョコンと跨がる。
もうこの光景もお馴染みになってしまった様な気がする。
しかし、前回の村の出発時もそうだったのだが、今も、心なしかユノに元気がない様な気がした。
「ユノ、体調は大丈夫か?」
「うん・・・。大丈夫」
聞いてはみるものの、前と同じ様な返答が返ってくるだけだった。
少し心配ではあったが、体調を崩しているのではないようだ。
「ほらっ! 旦那、行くでさよ!」
「わかった。行こう」
ドミヤに促されて、馬の腰を蹴って王国の外へと飛び出した。
晴れ渡った青空の下を、2頭の馬が滑走して行く。
しばらく、馬に揺られていると、ユノが小さく話し掛けてきた。
「・・・ねぇ、レンガ・・・」
「なんだ? ユノ」
「みんな・・・私の為に大変な事をしてくれているんだよね?」
「うーん、まぁ、そうなるな。でも気にしなくて大丈夫だぞ。嫌々やってやつはいないんだからさ」
暫く、間が空いてから、ユノは再び口を開いた。
「ねぇ、レンガ・・・。私は、こんな時、どうすれば・・・いいの?」
ここ最近のユノの、元気のない理由がわかった気がした。
みんなに罪悪感を感じていたが、それをどうしていいのかわからなかったのか・・・。
「じゃあ、次みんなに会ったら、笑顔でありがと、って言えばいいさ」
「・・・そっか。わかった」
そして、再び風を切る音だけになった。
すると、ユノは突然、此方へ振り返ると。
「・・・レンガ。ありがと・・・」
微笑みながら、短くそう言った。
それは、今まで見たことのないくらいの、澄んだ笑顔な気がした。
「いいよ。よし、じゃあ頑張るぞ! ユノ!」
「うん!」
そして、ユノは再び正面に向き直った。
蹄で土を巻き上げながら、2頭の馬は更に速度を上げて突き進んでいった。




