第13話 思い出の星空
「この人は、これから王国での事を協力してくれる解放軍のガラティアさんだ」
今は、酒場でガラティアと今後の話をまとめ、宿に戻って皆に紹介を済ませている所だ。
急な事になってしまってか、皆少し驚いている様だった。
「なんだ~そういう事だったんすね! 私は、また旦那が女を連れ込んだのかと驚いちゃったっすよ~」
「何がまただよ! 俺にはそんな前科はない筈だぞ!」
シーデのあまりに不名誉な物言いに、思わず声を大にして反論する。
「何言ってるんっすか~ 最初、私はレンガさんに強引に連れ込まれたじゃないっすか~?」
しかし、シーデは負けじとニヤニヤしながら、此方をしっかりと見つめてくる。
そんなやり取りを見て、横に立っているガラティアから冷ややかな視線を浴びせかけられた。
「お、おい! ガラティアさんもいるんだから、誤解を招く様な事言うなって!」
今の付き合いの浅さを考えると、それを本気で信じて仕舞いそうで恐ろしい。
亜人達と行動している理由が、特殊な性癖の持ち主等と思われたらたまったものではない・・・。
「あはは~冗談っすよ~! 今の所は、レンガさんにやらしい事された人はいないっすから、安心してくださいっす!」
何か、まだ少しトゲがある気がするが、まぁいいだろう・・・。
「それで、レンガ様。協力してくれるとは、どういった事をお手伝いしてくれるんですか?」
「ガラティアさんは、王国の騎士団の出身なんだ。それで、王国内も色々詳しい事を生かしてもらって、同行してもらう予定だ」
その言葉に、グレースは静かに頷いた。
「エギルさんからも提案があったんだけど、今の王国内を、大人数の亜人をゾロゾロ連れ歩くのは、とても危険らしい・・・。そこで、2グループに分けて行動するっていうのはどうだろうか?」
「それは、レンガ様かガラティア様に同行者を振り分けるという事でしょうか?」
「そうだ。厳密には、聖水のある聖堂を調査する組と、ダニーという技師を探す組を分けるって感じだな」
もし、これが出来れば大幅な時間短縮にはなる筈だ。
しかし、もし何かあった場合は戦力が減ってしまうという、デメリットもあるが・・・。
「ガラティアさんは、聖堂の内部や警備しているヒトに顔がきくみたいだから、そちらに回ってもらう予定なんだけど、ドミヤは今回来てくれるのか?」
珍しく大人しく聞いているドミヤに、視線を向けた。
「なんでさ。その言い方は! 今回も何も、前回は旦那達があいを勝手にすっぽらかしただけでさ! そのダニーっていう技師は、多分何度か会ったことあるでさよ」
それは、初耳だった。
だが、それならば、かなり話がしやすくなりそうだ。
そして、少し考えてから、再び口を開いた。
「じゃあ、聖堂へはガラティアさん、グレース、シーデ。技師探しは俺、ドミヤ、ユノで行こう」
恐らく、これが一番いい編成な気がする。
ドミヤとユノの仲が少し心配ではあったが・・・。
この編成に、特に反対意見も起きなくて、少しほっとする。
すると、横にいたガラティアさんが囁く様に話し掛けてきた。
「私、少し驚いちゃった。レンガさんと皆の仲を見て・・・」
「・・・スゴい扱いですよね、俺・・・。」
苦笑いしながら、そう返したが、ガラティアはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。すごく信頼されているがわかったわ・・・。私もこの村に来てそこそこに経つけれど、亜人達がヒトにあんな表情を見せているのは初めて見た・・・。」
「そうですかね・・・。ただ、舐められているだけですよ」
実際、グレース以外は、最初から今と変わらない態度だったと思う。
「あなたからは、何か感じるものがあるのよ。きっと・・・。」
そこまで言われると、少し恥ずかしい気持ちなってしまう。
そして、団らんして皆に、何となく視線を巡らせた。
それから、皆で適当な話を楽しんだ後で、ガラティアは自分の家に戻った。
先発部隊である自分たちは、明日、村を経つ為に今日は早くに床へついていた。
しかし、ここ最近狂っていた生活リズムもあって、なかなか寝つけず、外で一服しようと、静かに部屋を後にした。
外は少し肌寒かった。
そういえば、この世界の季節は今なんなのだろう?
少し前まで、暑かった事を考えると秋なのだろうか・・・。
「・・・レンガ様。」
そんな事を考えていると、いつも間にかグレースが後ろに立っていた。
「グレースも寝られなかったのか?」
「はい・・・。」
地面に腰を下ろし、壁に寄りかかっていた隣に、グレースは同じように腰を下ろした。
冷たい夜風が、グレースのブロンドを静かに靡かせる。
「こうやって、夜に二人でいると、イヴァの村の時の事を思い出すな・・・。」
あの時はまだ何もわからずに、まったく余裕がなかったな・・・。
「そうですね。・・・でも、もうずっと前の事の様な気がしますね」
「夜といえば、川原でグレースが桶をひっくり返した事もあったな」
「・・・もう、あれはもう忘れて下さい!」
グレースは、その時の事を思い出した様で、赤くなって膨れていた。
これまで、色んな事があった。
大変な目に合うことばかりだった気もするが・・・。
「・・・グレースには、悪い事しちゃったな。こんな危険目にばかり合わせて」
そう、自分がイヴァの村に現れなければ、今でも平和な日々を送っていたのかもしれないのだ。
火竜の件から始まり、何度も危険な目に合わせ続けている・・・。
「そんな事ないです! 一度だって後悔した事なんてありません。あの日、レンガ様について行って良かったって毎日思ってます・・・」
珍しく大きい声を上げたグレースに少し驚いた。
でも、その言葉で少し心が軽くなった様な気がした。
「沢山の知らなかった世界に見せてくれて、こんな私にも、友達が出来て、毎日がとても楽しいです・・・」
こんないい加減な俺でも、グレースの為に何かすることが、出来たのだろうか・・・。
「グレース・・・。シーデとガラティアさんの事、頼むな」
「・・・はい。レンガ様も、どうか・・・無理だけはしないで下さい」
それから、お互い口を開く事はなかった。
夜風はまだ冷たかったが、左肩から伝わる暖かさがとても心地良かった。
「じゃあ、お先に行ってくる」
馬に股がり、村の入り口で見送りに来ている皆に振り向いた。
ユノは相変わらず目の前に股がっている。
ドミヤは横で別の馬に股がり、同じように皆に振り替えっている。
「レンガさん。また王国内で悪さしたらだめっすよ~!」
「おまえこそ、また捕まるなよ」
シーデはそんなやり取りにゲラゲラと笑っている。
「レンガ様もドミヤちゃんもユノちゃんも気を付けてね・・・」
グレースが心配そうに、こちらを見渡していた。
「ダイジョブでさ、姉さん! 旦那がバカな事しない様にしっかりと見張ってるでさよ!」
「ガラティアさんも二人の事、宜しくお願いします」
そう言って、ガラティアに深々と頭を下げる。
特にシーデに関しては迷惑を掛ける予感しかしなかった。
「任せて。レンガさんの分もしっかり守るから!」
ふと、目の前にいるユノの様子が気にかかった。
「どうした?ユノ?」
背中越しにユノに問いかける。
少し俯き目な姿勢のユノは、少し元気がない様な様子だった。
普段から口数は少ないが、いつもとはどこか様子が違う気がする。
どこか具合でも悪いのか、と心配になってしまう。
「・・・ううん。なんでもない」
「体調が悪いなら、すぐに言えよ?」
うんうん、と何度も頷いている、今の様子から見て大丈夫そうだった。
ただの気のせいだったのだろうか・・・。
「レンガ君、王国内に潜伏している仲間に手紙を送って、何か情報が入ったら連絡する様に言っておくよ」
「すみません。お願いします」
そして、振り返り馬の腹を蹴る。
ゆっくりと走り始める。
ドミヤもそれに続く。
「じゃあ、行ってくるよ!」
「後発のみんなも、頑張るでさよ!」
手を振る皆を残して、王国へと駆け出した。
警戒体制が敷かれているであろう場所へ、赴く事に今一度、気を引き絞め直す。




