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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 二つの世界を繋ぐモノ
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第12話 与えられた役割、その先に・・・

「お待たせしたね。レンガくん」

エギルは、こちらにそう呼び掛けると、後ろに並び立っている人物に道を開けるように横に逸れた。

そこに、一人の女性が姿を現した。


「初めましてレンガさん。私はガラティアと言います。これから、よろしく」


こちらもその挨拶に習い、短く紹介を済ませる。


しかし、この人選は少し意外だった・・・。


護衛という話だったので、てっきり武骨な男を想像していたからだ。

だが、実際に目の前に立っているのは、自分と同じ位の年齢の女性。

短く揃えられた赤い髪に、屈強とはほど遠い細い線の身体。

大した戦闘力がない自分が言うのもあれだが、少し心配になってしまう。


「彼女は、元王国の騎士団に所属していた事もあるから、戦闘についてはお墨付きだから安心してくれ」


エギルは、こちらのそんな考えを見通した様に言葉を繋げた。

それならば、心配する事はなさそうだ。

先程の考えを改める。

それに、女性を選抜してくれたのは、こちらが女性が多い事を気遣っての事なのだろう。


「良かったら、これから二人で酒場にでも行って、色々話をしてみてくれないかな? 私も少しやらなければいけないこともあってね。それに、老害が居ては話辛い事もあるだろう」


エギルは笑いながら、促してきた。

その提案に、どうしたものかと少し戸惑っていると。


「わかりました。では、少し外しますね。レンガさんもそれで大丈夫ですか?」


間髪入れずにガラティアが返答を返して、こちらに問いかけて来る。

その問いに、半ば反射的に頷いてしまう。

そして、ガラティアと共に、エギルの部屋を後にした。



扉の閉まる音を聞いてから。


「これで、上手くいけば良いのだが・・・。」


その場に残されたエギルは小さく呟いた。




エギルの部屋から出てから、適当な酒場に入り、ガラティアと対面で席に腰を下ろしていた。

ガラティアはアルコールを頼む様なので、自分も同じものを頼む。

すると、ガラティアが口を開いた。


「レンガさんは、何故解放軍に入ろうと思ったの?」


いきなり、ストレートな質問が飛び出してきた。

でも、それは自然な事なのかもしれない。

解放軍の人間からすれば、ここ最近起きている様々な問題の中心にいる人物こそが自分なのかもしれない。

突如現れた異物・・・。

警戒されているのは、寧ろこっちなのだろう。


「厳密には、まだ入ってはいない筈です・・・。自分達の身を守る為に、エギルさんに連れて来てもらったという感じになるのかもしれないですね」


そのなんとも、宙ぶらりんの言葉に、我ながら恥ずかしくなってしまう。

しかし、何もわからないままに、何処かの勢力に所属してしまう事には、現状では躊躇していた。

勿論、王国のやり方に賛同することは出来ないが。


でも、先日のハリーとのやり取りが引っ掛かっていた。

ヒトと亜人のバランス・・・。

それは、自分が考えていた以上に複雑な問題なのだということを・・・。


「そう・・・。では、何故、あなたはわざわざ王国に反旗を翻す様な事に荷担したの?」


ガラティアは想像以上にズバズバ来る人だなと、思った。

その表情こそ柔らかいものの、質問の内容は物凄くストレートだ。

でも、悪気があってのものでは、なさそうだった。

真面目な人なのだろう。


「それは、王国のしている事が、許せなかったからですかね。正直、あのまま王国で暮らすという事も、考えましたが・・・。目を瞑って生活する事には耐えられそうにありませんでしたから」


「なるほどね・・・。それについては、すごく共感出来るわね」


ガラティアは呟きながら、瞳をを閉じて微かに微笑んで見せた。

その様子から、彼女も王国で何かがあったのだろうか・・・。


「・・・ガラティアさんは何で解放軍に入ったんですか?」


元々、王国の騎士団にいたとの事だ。

そんな人がわざわざ解放軍に移るということは、それなりの事情があると考える。


「そうだね・・・。今度は私の番だね」


そう言って、軽くため息を漏らした。


「今、王国では、多くの亜人を捕縛する事に躍起になっているというのは知っているかな?」


「何となく、そんな雰囲気は感じられますね・・・。」


ユノや養殖場の一件でその事は明らかだった。


「私も王国に身を置いていた時は、そういった作戦に不本意ながらも赴いていたの・・・。」


ガラティアはその表情に少し陰りを見せ始める。


「騎士団に主に言い渡させた命令は、まだ野生で生活している亜人を捕縛する事だったんだ・・・。今だ、集落などを構えて王国から離れて生活している亜人たちは数多く存在するからね」


それは初耳だった・・・。

しかし、それを聞いて一つの疑問が浮かんだ。


「それって、まだ残っている集落を潰していくっていう事なんですよね?」


「? そうなるね・・・。それに何か引っ掛かる事でもあるのかな?」


ガラティアは何が言いたいのか分からないといった様子で、こちらに目をやってくる。


「王国に来る前に、エルフの集落にお世話になった事があったんですが・・・。その時はヒトに対してそこまで過敏に警戒している様子はなかったもので・・・。」


そうなのだ・・・。

イヴァの村に着いた時、警戒も恐れられはしていたが、直接の命の危険を察知している様子まではなかった。


もし、ヒトが亜人の集落を襲うというのであれば、もっと警戒する。

寧ろ、死に物狂いで攻撃して来てもおかしくない筈だ。

しかし、彼らにそんな様子はなかった・・・。


「ああ。そういうことか・・・。」


ガラティアは何かに納得したように頷いた。


「今の様な、徹底的な捕縛が始まったのは、割りと最近の話なのよ。何を境に、そうなったのかまでは、わからないけどね・・・。」


なるほど・・・。

では、イヴァの人達は知らなかったという事なのか。

もし、その王国の動きを知っていたら、自分の命はなかったかもしれない・・・。

何も知らずに死んでいた可能性を考えて、軽く身震いする。


その亜人を極端に集め出した事は、ユノ達の様な個体を作る為だと見て間違いなさそうだ。

やはり、その発端になっているのは、ハリーの言っていた過去の文明が見つかったからなのだろうか。

一体、そこには何があるというのか・・・。



「話を戻すわね・・・。その亜人を捕縛する任務は壮絶なものだったわ・・・。単体の亜人には複数人で、集落には大部隊で・・・。来る日来る日も、泣き叫ぶ亜人達を無理矢理に拘束していったの・・・。」


それは、聞いているだけで、胸焼けを起こす話だった・・・。

力ではヒトに勝る亜人達も、奇襲で、尚且つ数で来られたら、どうにもならないということなのだろう。


「そんな作戦が続く様になってからは、私も部隊の皆も、何度も王国兵を辞めようと考える日々だった・・・。

こんな事をするために、王国騎士になった訳ではなかったから・・・。でも、自分達の暮らしもあったから、皆、簡単に辞める事も出来なかった。そんな時、異変が起き始めたの・・・」


そう言ってから、再び深く息を漏らした。


「部隊の何人かが、亜人をいたぶる事に、喜びを見い出し始める者がで出したのよ・・・。それも、最初の頃に、作戦に猛反対していた様な優しい人たちが次々と、そうなっていった・・・。」


その話に背筋が凍りついた・・・。

何故、そんな豹変を見せたのだ・・・。


ふと、昔、何かで見た本を思い出した。

昔に、監獄で行われた実験。

某大学で始まったその実験は、人が役割を与えられた時の精神状態を観察するというものだ。

学生達を、無作為に看守と囚人を振り分け、監獄での生活が開始された。


最初こそ、ぎこちない看守と囚人という様子だったのだが、それは数日で豹変し出した。

要項にはない暴力、虐待を始める看守が次々とで出したのである。

そして、それは収まる所か、日に日にエスカレートしていき、当初10日間の予定だった実験は僅か6日で中止となったのだ。

更に、中止が決まっても尚、看守側は続ける様に訴え続けたとの事・・・。


しかし、それは、どうする事も出来ない現実から、自分を心を守る防衛手段が行きすぎてしまった結果なのかもしれない・・・。



「・・・私は、怖くなったわ・・・。ここに居たら自分もいずれ、同じようになってしまうんじゃないかと思って・・・。そして、私は逃げる様に、王国の騎士団を除隊したの・・・。」


なんと声を掛ければ良いか、言葉が見つからずただ黙るしかなかった。


「でも、騎士団やめてから毎日、夢でその時の光景を見るようになった・・・。嬉々としていたぶる兵達と、泣き叫ぶ亜人達の光景を・・・。」


ガラティアは震える声で更に続けたが。


「・・・もう大丈夫です。後は、察しがつきました。・・・その、ごめんなさい・・・」


思わず耐えきれなくなり、言葉を遮ってしまった。

それで、エギルと出会って、解放軍に所属したのだろう。

何も出来なかった自分を、戒めるために・・・。


一つわかった事がある。

この人は信用する事が出来そうだということだ。


「・・・ガラティアさん、今回の自分達の目的はエギルさんから聞いていますか?」


「・・・ええ。聖術体の子を延命させる為に、王国に行くのよね」


まだ、表情が回復しきってはいないが、しっかり返答をしてくれた。

そして、ガラティアをしっかりと見据えてから口を開く。


「今、自分達は戦力も知識も足りないんです・・・。是非、こちらから、ガラティアさんに同行をお願いできますか?」



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