第9話 誓いの墓標
うろ覚えの帰り道を、傷が痛む身体でしばらく進み、やっとのことで、見覚えのある道に出る事が出来た。
すると、少し遠目に三人の姿が見えた。
そこを目指して進むと、シーデがいち早くこちらに気が付き、ぞろぞろとこちらへ駆けて来た。
その中でいち早く、ユノが目の前に止まる。
「良かった、レンガ」
それに返答しようとした時、ユノが唐突に腰に腕を回して力を入れた。
「いつぅっっ!!」
締め付けられた傷口に激痛が走り、短い悲鳴を上げた。
ユノはその声に驚いて、すぐに手を放した。
「ユノちゃん、だめですよ! レンガ様は怪我してるみたいです」
グレースはそう言いながら、治療を始めてくれる。
「ごめんなさい、レンガ・・・」
ユノは暗く俯いてしまう。
その必要以上に深刻な面持ちに、フォローを入れようとするが、すぐにシーデが割り込んできた。
「いいんっすよ~ レンガさんなら。この人さっき、怪我したあたしの事を完全に忘れてたんっすから~!」
いつもの様子でゲラゲラと笑いながら言った。
忘れてた事は本当だから、何も言い返せない・・・。
そして、治療をしながら、グレースが薄く微笑みを浮かべながら呟いた。
「でも、ほんとにみんな無事でよかったです・・・」
そう言って安堵の息を漏らした。
無事で良かったか・・・。
その言葉に、一人の小さな少女が浮かんだ。
すると、少し俯いていると、ユノに顔を覗き込まれる。
「どうした、レンガ? まだどっか痛いのか?」
「大丈夫。何でもないよ」
誤魔化す様に、ユノに笑いかける。
治療も終え、今は馬に跨がって、村を目指して森の道をゆっくりと進んでいるところだ。
すると、グレースが尋ねてきた。
「レンガ様、村に着いたらすぐにまた王国に発つということで、いいんですか?」
「そうだな、少しの休息と補充や情報収集をしてからで大丈夫だろ」
グレースがその返答に顔を曇らせる。
「しかし、それではユノちゃんが・・・」
その言葉で、皆にハリーから聞いた話を伝えるのを忘れてた事に気が付く。
「あ、ごめん。言い忘れてたんだけどーー」
ユノの前なので身体の事などは避け、聖水とその期間やダニーと言う男の話だけを上手く説明する。
「なるほどっすね。じゃあ、そこまで急ぎではない感じなんっすね! 良かったっすね〜。ユノっち!」
シーデは笑い掛けながらユノに言った。
「うん・・・。」
自分の前に座るユノは、シーデに小さく頷いた。
「では、村で支度を済ませてから、ゆっくり行けますね」
グレースは先程から、安堵の溜め息を漏らし続けている。
これで良かったんだよな・・・。
今回は、色々と勢いで行動してしまったと思う。
でも、みんなの様子を見てると、これで良かったと思える気がする。
ふと、ハリーの言葉が頭を過る。
罪悪感を満たすか・・・。
自分もそうなのかもしれない・・・。
自分の苦しさから、目を瞑る為に助けた。
そんな感情があるのは、否定出来ない。
無責任に手を差し伸べているだけ・・・。
まさに、そうなのかもしれない。
でも、彼女の為に何かしてあげたいと思った気持ち。それだけは、間違っていないと、信じたかった・・・
「そうだな。それで王国に着いたらそのダニーって技師を探すのと、聖水があると思われる成人の儀の場所を、掴む事が最優先だな」
「でも、よくあの男がそんな事喋りましたね。また、レンガ様が何かで口を割らせたんですか?」
グレースが怪訝な顔をしながらも、とんでもない事を口にする。
「そんな事してないって! ただ、あの男はそこまで悪い奴じゃなかったんだ・・・。最後は向こうから色々、教えてくれたよ。」
その言葉にシーデが大声を上げた。
「ええぇー!! そんなんありえないっすよ! 超凶悪だったじゃないっすか!」
そんなシーデの反応にユノがピシャリと言い放った。
「ハリーは凶悪じゃない。ちょっと冷たいけど、良い奴だった」
グレースとシーデはその言葉に、ただ驚いていた。
良かったなハリー・・・。お前が思っていた程、ユノに嫌われてはなかったみたいだぞ。
ユノの言葉を聞いて、自分を呪い続けていた男に囁いた。
その後は、一度、軽く朝食を取りながら相談した結果、寝ずに村まで一気に行ってしまおうと言うことに決まった。
グレース曰く、予定よりもかなり早く進めている様なので、昼前には着けるとの事だった。
ユノは私も頑張って起きてると言いながらも、朝食後は、すぐにレンガの身体に身を預けて、小さな寝息を立てていた。
そんな微笑ましいユノを、片手で支えながら、村への道のりを急いだ。
「いや~ 意外とちゃんとした村じゃないっすか!」
シーデは村の前に立つと、失礼な事を大音量で言い放った。
しかし、シーデの言う通り、かなり立派な村だった。
寧ろ、村というより、街といえる程の規模だ。
建物の造形なども、王国の物に近い。
そんな、なかなかの文明の街だ。
村の入り口には、門番の様な男が何人か居たが、エギルの名前を出すとすんなりと中へ通してくれた。
自分達のグループが、亜人で構成されていた事も大きいのかもしれない。
村は小さな家屋が幾つも並び立ち、エルフやドワーフなど様々な種族が、往来を行き交っている。
中には、ヒトの姿もパラパラと見られ上手く共存が出来ている様子だった。
そして、まずエギルに報告する為に、門番に教えてもらった家屋の前に馬を置き、扉を叩いた。
中から突然の訪問に少し焦り声を上げる男の声が聞こえてから、扉が開かれた。
「お! レンガ君じゃないか! 無事で何よりだ」
エギルはレンガの到着に歓喜の声を上げつつ、仲間の安否を確認する様に、他の者をぐるりと見渡した。
「おや? 一人知らないエルフのお嬢さんがいるな」
エギルの視線は、ユノへ向いていた。
ユノは特に何も言わずただキョトンとその場に立っていた。
「あ、エギルさん、少しお話いいですか?」
そう告げると、エギルは訳ありだとすぐにわかってくれた様子で頷いてくれた。
「ちょっと長くなりそうだから、皆はどこかで時間潰してて欲しいんだけど・・・」
その言葉を聞いてエギルは察してくれてか、今空いている部屋を場所をグレースに説明してくれた。
そして、少し渋るユノと強引に促してから、エギルと二人部屋に入っていった。
お互い、適当な所に腰を降ろすとエギルが口を開いた。
「あのお嬢さんは何か訳ありの様だな。話してくれるかい?」
その問いに頷いてから口を開く。
「少し長くなりますがーー」
そう切り出して、自分の知るユノと聖術体の全てをエギルに語った。
「また、王国はとんでもない事をしているな。しかし、そんな中であの子を助けて無事にここへ辿り着くとは、君もまた何かの運命を背負っているのかも知れないな」
エギルは様々な凄惨な話を聞いて、少し顔をしかめていたが、最後に妙な事を言い出した。
・・・運命を背負う? 俺が?
今一ピンと来ず、ただ運が悪い程度にしか思わなかった。
でも、自分がこの世界に来た事は何か意味があるのかもしれない・・・。
「まぁ、話はわかった。取り合えず今後の詳しい話は後にしよう。君も疲れているだろうし、それに行きたい所もあるのだろう・・・」
そう、ここに着いたら一番にでも行きたい所があった。
そして、エギルに目当ての場所を教えてもらい部屋を後にしようとすると。
「レンガ君、先程の聖術体の話は、村の人達には内密にしておいて欲しい・・・。」
エギルが真剣な面持ちで、こちらを見据えていた。
その理由は、なんとなくわかる。
亜人たちからしたら、それは残酷すぎる話だ・・・。
目的の場所に向かって、歩を進めていく。
普段なら始めてくる場所を、色々見回しているところだったが、今はそんな気分になれない。
そして、目的の場所に到達する。そこは無数の形の良い石が置かれている墓地だった。
そう、まずは村に無事に到着したらいの一番にドミヤに報告しようと思っていたのだ。
いつも元気に騒ぎまくっていたドミヤの姿は今でも鮮明に思い出せる。
実は、今でもまだ生きているんじゃないかとも思ってしまうくらいだ。
その気持ちもここでドミヤの墓を目の前にしてしまえば、整理がつくのだと思う。
恐らく、グレースとシーデには、この気持ちはバレているだろう。
時折、気を遣わせているのが、わかる時がある。
俺は、この気持ちにしっかりと、ケリをつける必要がある・・・。
そう、考えていた。
丁寧に、墓を一つ一つ覗き込んで探すが、なかなかに数が多くて一向に見つからない。
何度もする屈伸運動に、腰が痛くなって来て、大きく伸びをして背中を叩く。
これは探すのも、一苦労だな・・・。
ふぅ、と小さく溜め息を吐いていると、背後から誰かに声を掛けられた。
「旦那、こんな所で何してるでさ?」
そのよく知る声と口調に頭が真っ白になった。
遂に本当に自分は頭がおかしくなったと思った。
聞こえるはずのない声が、聞こえた気がした。
何とか沢症候群にでもかかってしまったのではないだろうか・・・。
そんな軽いパニック状態で固まっていると、その幻聴は更に語り掛けてくる。
「あいを無視するなんて、ちょっと見ないうちに良いご身分になったでさね~」
今度は先程よりもはっきりと聞こえた。
自分を惑わす忌まわしき正体を見てやろうと、覚悟を決めて振り返った。
そこには子供位の背丈の、短い髪の少女が笑いながら立っていた。
それは紛れもなく、自分が追い求めていたドミヤ以外の何者でもなかった。




