魔物に勝てるかな?
リョクは包丁を構えて走り出し、スライムに飛びかかった。遠目からでもスライムの体内に赤いコアが動くのが見えていた。その赤いコアめがけて、構えていた出刃包丁を突き立てた。
しかし、リョクの攻撃は外れてしまった。
ラズに気を取られて強化をかけるのを忘れていた。リョクはスライムに突撃されて後方に吹き飛ばされた。
「いってて。強化すんの忘れてた……」
「リョクー! 大丈夫―?」
「大丈夫―!」
遠くで見守っているラズに返事をした。
スライムが完全に臨戦体制に入っている。リョクは自分に強化をかけて先手を打った。
しかし、今度は自分の動く速度が早すぎて、スライムを通り越してしまう。
「うおっ! こんなにステータス上がってるのか。でもこれならっ」
リョクは、手に入れた機動力を生かし、スライムのコアに出刃包丁を突き立てた。コアはひび割れ、スライムの体は液状化して形を保てなくなった。
「これがコアか。えっと。この中に……」
コアを左手に持って、何度も出刃包丁を突き立てると、コアが崩れ、中から綺麗に光る緑色の小さな鉱石のようなものが出てきた。
「これが魔石……かな?」
「リョクー! すごい! すごかったよ!」
ラズが手を振りながら駆け寄ってきた。胸が揺れている。パンツがチラリする。リョクは視線を外そうとしたが、やはり、釘付けになった。
「ごめん。最初すごい恥ずかしいところ見せたけど倒せたよ。魔石ってこれ?」
リョクはコアの中から出てきた緑色の宝石をラズに見せた。
「そうこれ! きれいだよねー。魔石久しぶりに見たよー。でもちっちゃいね」
「やっぱ小さいんだ。じゃあもっと集めないとダメだな」
「この辺スライムしかいないからねー。普段ならウルフとかもいるんだけど今は繁殖期でみんな森の中に籠もっちゃってるし」
「そうなんだ。でもちょうどよかったかも。ウルフには勝てるかわかんないし。スライム倒して集めるよ」
「うん。塵も積もればだね! がんばろー!」
ラズは笑顔で右手を突き上げた。
「そうだね!」
「もう! 違うでしょ! 『がんばろー!』って言ったら、リョクは『おー!』でしょ? ほらもっかい。がんばろー!」
「お、おー!」
それからリョクはしばらく一人でスライムを狩った。その間、安全そうなところでじっとしていたラズに、一匹のおとなしいスライムが近づいてきた。
ラズの魅了に当てられたのだ。
敵意のないスライムに安心したラズは安心してそのスライムの上に座り、ぼよんぼよんと跳ねて遊んでいる。
強化が切れるともう一度かけ直す。リョクは何度もその行動を繰り返した。
この平原にきて九度目の強化をかけた時、足元に違和感を感じた。先ほどまでの機動力が出せなくなったのだ。
「身体能力向上の使用限度がきたか」
宿屋の前で二回。ここにきて九回目。ということは使用可能回数は十回か。
そう思った時、スライムの反撃が飛んできた。
「うあっ」
リョクは不意をつかれて後ろに吹き飛ばされてしまう。
「流石に強化なしじゃ勝てないよな……」
起き上がったリョクはラズの元に走った。
「ラズ! 逃げるぞ!」
「ええ?」
ぼよぼよとスライムに座って跳ねているラズの手を取って村の入り口まで走った。
「ちょっと。リョク早いよ」
「え、あ、ごめん」
強化をかけていないのに走るのが少し早くなっている気がする。
もしかしてレベルが上がったのか?
遠くからぽよぽよと追いかけてくるスライムをリョクは鑑定してみた。
『鑑定結果……ランクF スライム コアを破壊すると粘度のある体は完全な液状と化し死亡する。今のレベル、装備でも簡単に倒せる』
説明が変わってる。やっぱりレベルが上がったのか。二時間近く狩ってたもんな……。まあいいや。とりあえず帰ろう。魔石はだいぶ集まった。
リョクはラズの手を取ったまま村の入り口に向かって歩いた。
「急にどうしたの?」
「強化スキルが使えなくなった」
「そうなんだ。スライムちゃんにお別れ言いそびれちゃったな」
ラズの魅了って魔物にも通用するんだな。これはかなりいい情報を手に入れた。今後魔物を仲間にできる可能性もあるってことだ。
「とりあえずこのままでもスライム倒せるっぽいんだけど、とりあえず帰ろうかなって」
「結構集まった?」
「うん、魔石は二十個近く集まったよ。これで足りるかな?」
「うーん。わかんないけど、とりあえず骨董品屋行ってみようか」
「そうだね」
骨董品屋にこれだけの魔石で交換できる武器があるだろうか。足りなかったらまた明日集めに行くか。
「その前にこの包丁返さないとな。だいぶボロボロになっちゃったけど」
リョクの持っている出刃包丁は、スライムの硬いコアを何度もこじ開けたため、かなり刃こぼれをしていた。
「あらー。でも大丈夫。ヴァトーおじさんが研いでくれるから」
「ヴァトーおじさん?」
「うん、私の親戚。いつもうちの包丁研いでくれるの。冒険者の剣とかもたまに研いでるんだよ?」
「そうなんだ。でも研いでくれる人がいて良かった。このままじゃ返せないからね」
「あ、ラズちゃん! 心配してたんだよ! 二時間近く帰ってこないから」
話しながら歩いていると村の門にたどり着いた。




