リュックがいるね?
シオウくんは可愛いなあ。こんな弟ができればいいのにな。
シオウくん一緒に住めないかなあ。
でもダメなんだっけ。魔王退治以外のことしようとすると電流みたいなのが流れるってリョクが言ってた。
一緒に住みたいなあ。一緒に住んで一緒にお風呂入りたい。
見えてきた仕立て屋の前には白髪でボブカットのスラットしたスレンダーな女性が立っていた。
「スノちゃんひっさしっぶりー!」
「あらラズ、久しぶりね。服の注文かしら。それならラズにちょうどいいのがあるわよ」
彼女はとても綺麗で、髪が揺れるたびにきらきらと煌めく。
「ほんと? ってううん。今日はこの子のリュック探しにきたの」
「あら、小さい子ねえ。でも服がしっかりしてる……。もしかして転生者?」
「そう、転生者なの」
転生者のことは村中の住民が知っていた。昔からある宿屋の不思議。みたいな感じだった。
シオウはラズの後ろに隠れてじっと彼女を見つめている。
「これから冒険に出るからおっきめのリュックがいいの思うの」
「なるほどねえ。ていうかっすごい可愛いわね」
「そうでしょ?」
「今回の転生者は女の子なのね。日本にはどんな服があるのかとかまた教えて欲しいわ」
「スノちゃん、残念。こう見えてもシオウくんは男の子なの」
「お、男の子なの……? でもでも、私のセンサーは女の子だって言ってるわよ?」
「でも男の子なんだー。ねー?」
「は、はい。男です」
「でも声も女の子みたいよ?」
「それでも男なの」
「そうなの。名前は?」
「は、秤雌黄です。十六歳です」
「ハカリね?」
「スノちゃん、向こうの人は下が名前なんだよ。だからシオウくんだよ」
「そっか。そうだったわね。じゃあシオウね。私はスノーホワイト・ヨハンセン。こう見えても三十二歳よ。よろしくね」
とても三十二歳には見えない。もっと若く見える。二十四とか? それくらい。
「スノーホワイトさん。よろしくお願いします」
シオウはラズの横に立ってお辞儀をした。
「かっわいいわねえ。本当に男の子なのかしら」
「ほんとです!」
「ふふ、まあそういうことにしといてあげるわ。でもまあ、立派な武器はお持ちだね。お金はあるのかい? いくら可愛いと言えどこっちも商売だからね。お金をもらわないと作れるものも作れないのさ」
「あります。50ゴールド」
「そんなにあるのかい。家でも買えるじゃないか。わかった。作ってあげるよ」
スノーホワイトは三十二歳で村では少ない未婚者だ。胸はラズとは比べるまでもなく小さくて控えめだが。体に張り付くように作られた特性のワンピースによって強調されている。ワンピースの丈は短く。いくつもの帯が縦に集まったようなワンピースだ。顔も体も歳の割に若い。
が、女性が好きなのである。男には興味がない。
だから結婚していないし、する気もない。今は若いラズとヴェルミヨンを狙っている。
「ラズ。せっかくきたんだから今日泊まって行かない?」
「うーん。いいけど今はシオウくんがいるからだめ。って仕事もあるんだった。休みとったらね!」
「冷たいなあ。でもいいよヴェルのところ遊びに行くから」
「いいなー楽しそう。私も今度混ぜてよ」
「いいわよ。もちろん大歓迎よ」
ヴェルって誰だろう。二人の友達なのかな。ちょっと気になる。
「よし、じゃあリュック探しましょうか。リュックなんて作ったのだいぶ前だからねえ。どこにあるのやら……。ラズも手伝ってくれる?」
「はーい!」
ラズとスノーホワイトは仕立て屋の前に積み重なった服の中からリュックを探す。
「これなんてどうかしら。ちょっと背負ってみて?」
シオウはスノーホワイトに大きなリュックを背負わせてもらった。
「うーん、あんま似合わないわね」
「うん、あんま似合わない」
「ラズお姉ちゃん。似合うとかあんまり関係ないんじゃない?」
シオウはすこし怯えながら言ったが、二人の耳には届いていなかった。シオウは何度もいろんなリュックを背負わされた。その都度『似合わない』『大きすぎる』『小さすぎる』と却下されていった。
「ねえ、僕どれでもいいよ。使えたらそれで……」
「んもう! ダメだわ! 新しく作るわ!」
「うん! それがいい!」
「ええっ!」
シオウは驚いた。
スノーホワイトはついに禁断の言葉を発した。
リュックを作るには一週間はかかる。
そうなると、シオウは一週間もこの村に滞在することになる。
「ぼ、僕さっきのリュックでいいよ。あれ気に入ったし……」
気に入ってないけれど作らせるのは忍びなくて嘘をつく。
「何言ってるのよ。絶対シオウに似合うリュックの方がいいに決まってるわ」
「私もそう思う! 絶対似合うリュックの方がいい!」
「まあ作るのに一週間くらいかかるけどね」
「一週間もかかるの? 僕泊まるところとかないんだけど……」
「大丈夫。うちは宿屋だから。お金なかったら私の部屋でもいいし。いくらでも泊まっていって」
「そうなんだ……。う、うん。わかった。みんながそういうならそうする」
シオウは二人の勢いに押されてリュックを作ってもらうことにした。
「じゃあ一週間後また取りにきて。もちろん毎日見にきてもいいんだからね?」
「うん。ありがとうございます」
「じゃあちょっと採寸するからこっちきてくれる?」
「はい。あっ」




