どこからきたの?
「シオウくんはどんなスキルをもらってきたの? 女神様にもらってきたんでしょ? お姉さんに教えて?」
ラズはシオウの過去のことについて何一つ聞かなかった。ただ、今のことだけを聞いてくれる。なんだか安心できるような不思議な感覚を感じた。
「女神様のこと知ってるの? ていうかお姉さんなの?」
この優しいお姉さんのことが、シオウは気になった。塞がれていたシオウの心がラズの優しさで静かに開かれた。
「うん。私十八歳。二歳上のお姉さん。シオウくんこっちの世界初めてでしょ? 私いっぱい転生者見てきたから色々わかるんだ。シオウくんの魔王退治の準備手伝ってあげる」
「ありがとうございます。でも僕いじめられっこですよ? 仲良くしてもいいんですか?」
「いじめられっこ? シオウくんが? いじめられてたの?」
「多分聞いたら僕と仲良くしようと思わなくなりますよ。僕が死んだのだって、いじめられて、屋上から飛び降りさせられたからだし」
「そんなの関係ないよ。シオウくんはシオウくんじゃん。前の世界でいじめられてたなら私がこっちの世界で優しくしてあげる。いっぱい優しくしてくれる人を紹介してあげる。私が幸せを作ってあげる!」
可愛い。なんてやさしいお姉さんなんだろう。ほんとうに、信用しちゃうよ?
「まずはスキルの確認だね!」
「それが、スキルは貰えなかったんです」
「スキルもらえなかったの?」
「うん。お前にはスキルはいらない。その代わりラックをマックスにしてやろう。っていって、ラックっていうパラメータを最大にしてもらいました」
らっくってなんだろう。どんな力なんだろう。でもすごいんだろうな。スキルなしでも戦えるくらいなんだろうな。そういえばリョクの時とは違ってシオウくんは服装がしっかりしている。武器も持ってるし、顔を見なければ結構強そうだった。
「武器も持ってるじゃん! この前の人は武器なんて持ってなかったよ?」
「この前の人?」
「うん、このツボの中からよく転生されてくるの。まあおじさんばっかなんだけどねー。これからどうする? お金ある?」
「お金は五〇ゴールドもらいました!」
「おお! すごい大金じゃん! なんでも買えるね! じゃあお金は別に集めなくてもいっか。とりあえず村の中案内するね?」
「はいお願いします」
誰かから悪意や軽蔑の目を向けられないのはなんて気持ちがいいんだろう。僕は死んで良かったのかもしれない。
「じゃ、行こっか」
ラズはシオウと手を繋いだ。
「手、繋ぐんですか?」
「だめ?」
「だ、ダメじゃないですけど、緊張するっていうか。ラズお姉ちゃん可愛いですから」
ラズお姉ちゃん!
ラズは心臓に鋭い矢が刺された感覚に陥った。完全に胸を射抜かれた。ラズの新たな扉が開いたような気がした。
「かわいいなあーもうー」
ラズはシオウの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「な、撫でないでくださいっ。わっ」
シオウは手を払った時に体勢を崩してそのままラズの胸に顔を突っ込んでしまった。むにゅっと谷間に顔が埋まる。やわらかい。
「わあ、びっくりした。大丈夫?」
「だっだだ大丈夫です! ごごごめんなさい!」
シオウは慌てて胸から顔を離してぺこぺこと頭を下げた。顔が熱い。鼻血とか出てないだろうか……。鼻をおさえて確認する。よかった。鼻血は出ていないみたい。
「いいよー。大丈夫。とりあえずどこ行こっか」
「えっと、わかんないです。魔王退治しろって言われただけでそれ以外には何も……。魔王がどこにいるのかもわかんないです」
「うーん。服も武器も揃ってるけどリュックは持ってないもんねー。うん! これから食料とか着替えとか色々必要になるんじゃないかって思うから、とりあえずリュック買いにいこっか。スノちゃんとこにカバンとか服とか売ってるからそこ行ってみよ」
「すのちゃんですか……?」
知らない人と会うのはやっぱり怖い。でもラズお姉ちゃんの知り合いならきっと怖くない。
「スノちゃんはねー。この村の仕立て屋さんだよー。服とか下着とかなんでも作ってくれるんだー」
「なるほど。優しいですか?」
「うん、優しいよ! じゃあいこっか!」
ラズとシオウは仲良く手を繋いで仕立て屋のところに向かった。
「ねー? シオウくんはどこからきたの?」
「えっと、どこって言えばいいんだろう。日本……かな? うん。日本です」
「日本かー。よく聞くところだなー。っていうか日本か地球しか聞いたことないかもしれない」
「日本は地球の中にあるのでじゃあほぼ日本ですね」
「そうなんだ。シオウくんはいじめられて死んでこっちに召喚されたっていってたよね」
「うん。学校の放課後に屋上から飛び降りさせられました。うちに帰ってもお母さんに虐待されてたから。もう死にたいって思ってたら、死にたいなら飛び降りてみろよって言われて。飛び降りました。でも、女神様が救ってくれたんです。地面に叩きつけられた衝撃でできた傷も、心の傷も治してくれて。女神様に感謝です。しかも転生してすぐにラズお姉ちゃんと出会って。ほんとついてるって思いました。今思えばラック最大のおかげかもしれないです」
「そのらっくってなに? 強いの?」
「ううん、ラックっていうのは運のよさのことです。その運のよさが最大なんです。だからこの世界だといいことばっかり起こるのかなって。そのすのちゃんって人にも会うのがたのしみです」
もう痛い思いをしないで済むかもしれない。辛い思いをしないで済むかもしれない。悲しい思いをしないで済むかもしれない。
「そうなんだ。いい能力だね! よかったー。シオウくんが幸せになるなら!」
「ラズお姉ちゃんは優しいんですね」
シオウの心は温かくなった。こんな気持ちは本当に久しぶりだ。
「そうかなあ。普通だと思うけどなー。私この前まで働きたくなーいって思ってたし」
「そうなんだ。でも今は働いてるんですよね?」
「うん働いてる。目一杯働いてるよ。楽しいんだー」
「すごいなあ。こんな弱い僕に魔王退治なんてできるのかなあ」
「できるよ! スキルはなくたってすごい能力もらったんだから!」
「が、頑張ります!」
「そーれーと! 敬語じゃなくていいよ? 歳も二つしか違わないんだし。遠慮しないで?」
「いいんですか?」
「いいの!」
「じゃあ敬語やめます!」
「あはは。やめれてないじゃん敬語」
「うーん、難しいなあ。で、でも頑張る!」




