今回もおじさん?
ラズベリー・ライムストーン。通称ラズが宿屋の前を掃き掃除していると、宿屋の前に置かれたラズくらいある大きな壺の中から緑色の光が溢れ出した。
「わっ、転生者だ」
ラズはリョクの一件以降、転生者にあまり興味がなくなった。それは、実家の宿屋兼酒場で働くのが楽しいと思ったからだ。
ついこの前までは働きたくない。専業主婦がいいと思っていた。だけれど家の手伝いの楽しさを知ってしまった。
リョク以降まだ転生者は出てきていない。
久しぶりの転生者だ。
転生者は女神に呪いをかけられていて、一緒に生活することができない。一緒にいるには旅に出る。それ以外手段はないのだ。
だがラズは旅に出たくない。家にいたい。毎日お風呂に入りたい。だから、この緑の光を見ても、あまり何も感じなかった。
「うわあ! 逆さま向けだ! どこここ? どこかの中?」
またも転生者は上下逆さまで、頭からツボに突っ込んでいる形で転生された。しかし、いつもみたいにツボから足は出ていなかった。
まあでも、どうせおじさんだろう。
でも同い年だったらちょっと遊ぶくらいは楽しいかな。
どうせ朝の仕事ももう終わりだし。そう思ってラズは声をかけた。
「あのー。大丈夫ですか? 何歳ですか?」
誰かいる。
いい人だろうか。
悪い人だろうか。
心臓が喉から出そうなくらい跳ねる。
「あのー。大丈夫? 生きてる?」
逆さ向きの体制がどんどんキツくなってくる。
手で押したり支えたりしてみたけれど、自分の力だけではどうしても外に出ることが出来なさそうだ。
この声をかけてくれる女の人に頼るほかない。
「あの……。助けてくれませんか?」
おじさんというよりも、男の子の声に近い。もしかしたら女の子の声かもしれない。声の高いおじさんかな。
「うーん、何歳か教えたら助けます」
ラズは同年代じゃなかったら助けないつもりだ。
なんと非情な。
転生者は何故年齢?と思ったけれど、答えないと助けてくれそうにない。
「えっと、十六歳です」
ふーん、年下かあ。でも二歳だしそんな変わんないかな。仕方ない。助けてあげよう。
「えっと、ツボを倒すので体揺らしてください。」
「はいっ」
「せーの!」
二度三度ツボを揺らすと、ツボはゴロンと倒れた。
中から這い出てきた転生者は女の子みたいな顔をしていた。声を聞いて男の子かと思っていたからちょっとびっくりした。
でも確かに女の子と言われてば女の子の声だ。髪も肩まである癖っ毛だ。
「あ、あら、可愛い。ていうか女の子?」
今までツボから女の子が転生されたこともあった。今回の転生者は女の子かもしれない。それは嬉しい。遊ぶのなら男の子より女の子の方が絶対楽しい。でもつるぺただな。胸はどこに行ったんだろう。
「えっと。あ、ありがとうございました。まさかツボの中に転生されるとは思ってなかったので……」
「いえいえ。いいよー。君転生者だよね? 男の子? 女の子?」
「えっと、男です」
はあ。また嫌われる。この見た目のせいで僕は死んだんだ。もっとかっこいい顔に生まれたかった。
「ええー! 男の子なの?」
ほら、嫌われる。
「かわいいー!」
ラズはしゃがんで男の子の頭を撫でた。女の子だったら嬉しかったけど、これはこれでなんだか可愛い弟みたいでとてもありだ。
「あ、頭を撫でないでください」
頭を撫でられた。いったいいつ以来だろう。お母さんが死んじゃう前だから。五歳くらいだろうか。
「あはは。なんだか可愛くって」
この人は信用できる人だろうか。信用してもいいのだろうか。みた感じとても優しそうなお姉さんだけど……。
あ。
「ぱ、パンツ見えてます! 隠してください!」
「なになに? 見えちゃダメなの? あ、そうだ。自己紹介しなきゃね。私はラズベリー・ライムストーン。ラズって呼んで? あなたの名前は?」
「ぼ、僕の名前は秤雌黄です」
ラズはパンツを隠そうとしない。思春期のシオウにとってとても魅力的で、それでいてなにかいけないものを見ている気分になる。
「かっこいい名前だねえ。シオウくんはどこからきたのかな?」
ラズはまた頭を撫でた。なんだか小動物を撫でてるみたいで胸がきゅんきゅんする。
頭を撫でられるのはとても心が安心する。でも、まだ信用できるかわからない人に頭を撫でられるのは少し不安を感じて、パッと手を払った。
「わっ」
シオウに手を払われて、ラズは後ろに体制が崩れて倒れ込んでしまう。足を完全に開いていてミニスカートを履いているラズのバンツがしっかり見える状態になってしまった。
「ぱ、パンツが……」
ラズのパンツを見たシオウは顔を真っ赤にして俯いた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫ですから立ち上がってください。僕も立ち上がるんで」
「はーい。ほら、手貸してあげるよ。よいしょっと」
ラズはシオウの手を取って起き上がらせた。シオウの身長はラズと十五センチくらい違った。
「わ、ちっちゃいねえ。ほんとに十六歳?」
「ほんとに十六歳です!」
シオウは少し顔を膨らした。
「ねえ、お姉さんに教えてくれる? シオウくんのこと」
「僕のこと……」
自分のことなんて、何も楽しいことがない。誰かに教えたところで、それを聞いてまた嫌われるだけだ。
シオウは口を噤んだ。




