女神様は何者?
「ょく……! リョク! ねえ、大丈夫? 大きな声出してたけど!」
ラズは胸を曝け出しながらリョクの体を揺すった。
「んん……」
「リョク、大丈夫?」
なんだ?
気を失ってたのか?
確かラズを待ってて……。
「わ! ラズ! ちょ! 胸隠して!」
「ん? 胸? なになに?」
「だから!」
説明するより自分が目を瞑る方が早いと思ってリョクは説明をやめて目を閉じた。
「でも良かったー。おっきい声出すから何かと思ったよー。じゃあ私はお風呂入ってくるからね。もうすぐ出るから待っててね」
ラズは鼻歌を歌いながら風呂場に戻っていった。
「はあ」
目に毒すぎる。いや、毒ってことはないのだが、だがこれほどまでに恥じらいを持たずに接してこられるとなんだか罪悪感みたいなのが湧き上がってくる。
それにしても気を失ってたのか……。なんでだ? やったことといえば少しつぶやいたくらいだ。それ以外は何もしてない。はず。
確か……魔王退治なんてやりたくねえ。って言ったはずだ。なるほど。思っただけじゃ何も起こらないのか。ということは……。
「魔王退治なんてやりたくね……がっ!」
視界が暗くなる。気がつくと再びリョクは気を失っていた。
「リョク! リョク! 何してるの! 大丈夫?」
「ん……」
今度は胸に埋められている。もうなんか、何もいえない。幸せすぎる。
「ってラズ! なんで服着てないの!」
「だってまだお風呂途中なんだもん! リョクこそ何してるのさ!」
「ご、ごめんごめん。もう大丈夫だからお風呂入ってきて」
「何してたの!」
「お風呂上がったら教えるから! お願いだからお風呂入ってきて!」
「絶対だよ!」
「うん、絶対!」
胸に押し付けられた顔を離す力はなく、ただされるがまま。そっとリョクの頭は床に置かれ、ラズはお風呂場に戻っていった。デジャブだ。
これはやっぱり呪いか。
魔王退治以外できないように呪いがかけられている。
呪いのことを考えたいのに裸のラズが邪魔をしてくる。あのラズの恥じらいのなさは、同年代の人間がいない中育ったせいなのだろうか。それとも魅了のせいなのだろうか。とにかく本人は無自覚でやっている。それが恐ろしい。本当に好きになってしまう。ていうかもう好きだ。魅了の説明に恋には落とせないと書いてあったがきっと嘘だ。だってもう好きになっている。正直ラズと離れたくない。隣町で一緒に過ごしたい。しかしできないことがわかってしまった。したくないと口に出すだけであの威力の電流が流れる。もし行動に移した時、体はどうなってしまうのか。わかったものじゃない。
「おまたせー! リョクは言ってきていいよ」
なるほど、やはり下も髪と同じ色なのか。だとすれば脇毛なんかも同じ色なのだろうか。って。
「ばかばか! なにしてんの! 服着て! 服!」
「だって服は持ってきてないもん」
「じゃ、じゃあせめてタオル巻いてくれないか?」
「タオル巻く? ってどういうこと?」
だめだ。ラズは何も知らないんだ。
「あー、わかった。じゃあ俺もお風呂入ってくるからその間に服着といて!」
「はーい!」
リョクは急いで服を脱いで、お風呂場に入った。
シャンプーやリンス、ボディーソープはなく、一つの固形石鹸だけが置かれていた。使い方はわからなかったが、ラズを呼んだら平気で入ってきそうで、仕方なく諦めてその石鹸で全身を洗った。日本では石鹸で髪を洗うとガシガシになってしまったが、こちらの石鹸の洗い上がりはとてもさらさらとしていた。
「リョクーまだー?」
「もうちょっと」
ラズは脱衣所で待っていた。リョクがお風呂を上がったとしても出て行く気配はない。
「ラズ、タオルとって」
風呂場のドアを少し開けて手を出すと、ラズがタオルを渡してくれた。大きさはバスタオルほどで、タオルの材質も日本と変わらないものだった。やっぱ水を吸収するためにはこの形に行き着くんだな。
体を拭いて、頭を拭いて、腰にタオルを巻いて風呂場を出た。
「おー! なるほど! タオル巻くってそうやるんだね!」
「ま、まあ」
実際男子と女子ではタオルの巻き方が違う。隠すところが女子の方が多いからだ。ラズに変な知識を植え付けてしまったかもしれない。
ラズはとてもラフな服を着ていた。おそらくパジャマか何かだろう。しかしながらどうしてこうも胸元が空いているのか。目のやり場に困る。
リョクは置いてあった服を着た。
「下着まで借りていいのかな?」
「いいよいいよ。だって私のパンツ入んないでしょ?」
「いや、そういう問題じゃ……。まいっか。ラズのお父さんにありがとうって伝えといて」
ラズのお父さんのパンツはかなりぶかぶかだった。
「ううん、言ったら怒られそうだから言わない」
「えっ」
「じゃあお部屋戻ろっか」
俺、ラズのお父さんに見つかったら殺されるんじゃ……。
ドライヤーはなく、髪は基本自然乾燥みたいだった。部屋に戻ってベッドに座ると、ラズもベッドに。というかリョクの隣に座って、頭をリョクの肩に預けた。
「眠いね」
「そ、そうだね。俺どこで寝ればいい?」
「うん? ベッドでいいよ?」
「じゃあラズは?」
「ベッドで寝るよ? 狭いかな?」
いや、そういう問題じゃない。年頃の男女だぞ。
と言いたいけれど、ラズにはそういう当たり前のことが通じないんだ。
魅了のせいなのか、育ちのせいなのか、わからないけどこれがラズにとっての当たり前なんだ。
まあ硬い床よりはベッドで寝たい。それにラズが好きなんだ。好きなことひっついて眠れるなんて夢みたいじゃないか。
「じゃあ俺外側で寝るよ。ラズは落ちないように内側で寝な?」
「やったー!」
ラズとリョクは濡れた髪のまま、二人で寝るには小さなベッドに寝転んだ。リョクは仰向け寝転んだが、ラズはリョクの方を向いて腕を組んだ。もちろん大きな柔らかい胸が当たる。下着をつけてないのだろうか。当たるというよりも包み込まれる感じだ。こんなの眠れるわけがない。
「ねえリョク、さっきの話の続き。なんで倒れてたの?」
「ああ、それがさ、やっぱり女神様から呪われてるみたいなんだ」
女神様がそんなことするわけない。ラズはそう言いたげだったが、うんうんとリョクの言葉を受け入れた。
「だから、魔王退治に否定的なことを言うと、体に電流が流れて気絶しちゃうんだ。多分、そう言った行動をとった時にも同じように電流が流れると思う。だから、魔物退治はむりになっちゃった」
「そっかあ、残念。でも、明日はついてくって決めたからついてく!」
「ほんと? うれしい。一緒に旅に出よう。俺と一緒に」
「うん、そうする……」
気づいたらラズは寝息を立てていた。
「はあ」
寝ようにも眠れない。
ラズの寝息が耳にかかる。
少し暖かく可愛い声が漏れている。
今ならキスができる。
襲える。
リョクは必死に自制した。
俺には魔物退治をしないといけないという使命がある。呪いがあるんだ。
女神様とは一体どう言う存在なのだろう。なぜ女神様は別の世界から人間を転生させ、スキルを与えて魔王と戦わせるのか。なぜ自分で魔王を退治しないのだろうか。
魔王とは一体どういう存在なのだろう。退治すればそれだけで済むのだろうか。次の魔王が出てくるんじゃないだろうか。転生者が魔王と戦わなければならない理由とはなんだろう。時折転生者が現れるツボがなぜここにあるのだろうか。女神様はあのツボに転生されることを知っているのだろうか。転生された時、逆さなのを知っているのだろうか。
考えれば考えるだけわからなかった。
そして気づくと外は明るくなってきていた。もう起きる時間か。そう思うと先ほどまで存在しなかった眠気が体を包むのはなぜだろう。
リョクは、吸い込まれるようにして眠りについた。




