入らないの?
「はあ。ラズ、着いてきてくれそうにないな」
ラズは仕事をしたくないと言っていたが、どう見ても今日の仕事振りは楽しそうで、充実しているように見えた。魔物退治で生活したいけど、魔王退治をしろと何度も女神様に言われる。この命令には逆らえそうにない。
「リョクー! モゾ焼き持ってきた!」
「ありがと」
やっぱりうまかった。モゾがうまいのかもしれないと思ったけど、そのモゾに対しての味つけが抜群にあっているような気がする。
「これは誰が作ってるの?」
「ん? 料理? お父さんだよ? お母さんも手伝ってるけどほとんどがお父さん。私が働くまではお母さんがウエイトレスやってたんだよー。今でも土日はお母さんがウエイトレスやってるんだけど、可愛いんだよ!」
「そうなんだ」
ラズのお母さんはちょっと怖い。強敵を目の前にしたって感じだ。勝てないって言われたし。
「リョク、どうかした? 元気ないよ?」
「いや、ラズはこの生活が合ってそうだなって思って。旅とかじゃない気がする」
「うーん。この仕事は慣れたけど、私は専業主婦がしたいからなあ。確かに旅はあんまり……。毎日ちゃんとお風呂入りたいし。一番は隣街で生活することかなあ」
「魔物退治だよね?」
「うん。魔物退治してくれる?」
ラズは机の上に乗り出してリョクを見つめた。
『魔王を殺せ』
「ごめん。やっぱり魔王退治しないといけない気がする。どうしても」
「そっかあ。でもさ、期限は決められてないんでしょ? とりあえず拠点として隣町に住むのはありなんじゃない?」
「たしかに。それはやってみないとわかんないね」
「じゃあさ! 明日私も隣町まで着いていく!」
「ほんと? それは嬉しいよ!」
そのままの流れで一緒に旅に……なんてことになるとうれしい。まあそんなことにはならないだろうけど。
「ふえー、ちょっと酔っちゃった。リョクはあんまり酔ってなさそうだね」
「うん」
ウエイトレス姿のラズは可愛いし、明日のことでも頭がいっぱいだし、酔うどころではなかった。
「よし、お部屋戻ろっか」
ラズは少しフラフラしながらリョクの手を引いて部屋に戻った。
「ふうー、疲れたー。リョクも疲れたでしょー。待っててくれてありがとね」
「うん、大丈夫」
むしろ眼福でした。
「私お風呂入ってくるけど一緒にくる?」
「え? 一緒に?」
そんなわけないと思いながらも、心臓が高く脈打つ。
「うん。だって場所わかんないでしょ? リョクは入らないの?」
なんだ、そういうことか。てっきり一緒に入ろうって誘ってきたのかと思った。そんなわけないか。っていうかお風呂か。今日の着替えのこととか何にも考えてなかった。
「俺着替え持ってないや」
「そっか、ほんとだねえ。スノちゃんのとこ行けばよかったね。うーん、どうしよっか。うちのお父さんの服でも着る?」
「ほんと? 助かるよ」
「じゃあお風呂いこっか」
ラズはまず、向かいの父親の部屋に入った。ラズの父親はまだ仕事中で、誰もいなかった。
「はい。持ってきたよ」
「ありがとう。でも勝手にいいのかな」
「いいのいいの。気にしない気にしない」
「そ、それならいいんだけど」
「よーし! じゃあお風呂だ!」
ラズは一階のお風呂場にリョクを連れてきた。意外と広い。湯船とシャワーは別にあった。
「ここがお風呂ねー。じゃあ入ろっか」
ぶるんとラズが胸を出した。いきなり服を脱いだのだ。ラズは下着をつけていない。目の前に大きな二つの胸が揺れる。
「ちょ! あっ、らららず。俺は後で入るから。ラズは一人で入っていいよ」
「あらあ? 一緒に入んないの? 残念。じゃあ待っててね」
リョクがいるのにどんどん服を脱いでいく。リョクは目を逸らしながら慌てて脱衣所を出た。
「これも魅了の効果なのか?」
距離が近すぎるというか、恥じらいがないというか。とにかく恐ろしすぎる。ラズの胸をしっかり見てしまった。目に焼きついて離れない。お気に入りの上井さんの同人誌とほぼ一緒だった。鼻血、出てないよな。
シャワーの流れる音と、ラズの鼻歌が聞こえる。
「はあ。できることなら魔王退治なんてやりたくねえ……。がっ!」
リョクは体に強力な電流が走ったような気がした。と同時に気を失ってしまう。脳裏には『魔王を殺せ』の言葉が焼き付いていた。




