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ナイトメアフィルム ~屋上の惨劇~  作者: 結城智
第一章 暗室撤去、兄死亡のお知らせ
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第5話 ようこそヒーロー部(怪しい勧誘付き)

場所を移すと言われて、僕が連れて来られたのは表札のない部屋だった。使われていない空き部屋か。どうやら内密の話らしい。

 中は八畳ほど。教室よりは狭いが、以前は部室として使われていたのだろう。中央にテーブル、壁際には本棚やデスクトップのPCが置かれていた。

 自然な流れで、三人は並んで椅子に腰掛け、僕は一人、対面に座る形になる。


「いいの? 勝手に使って」


 椅子に座りながら周囲を見渡して尋ねると、


「へーきへーき。今は空き教室だからさ!」


 七海さんは満面の笑みで親指を立てた。……そうじゃなくて、許可なしで使っていいのかを聞きたいんだけど。まあいい、怒られたら三人のせいにしよう。


「で、お願いってのは?」


 世間話する気はさらさらない。

 僕が単刀直入に聞くと、三人は互いに顔を見合わせた後――


「ようこそ! ヒーロー部へ! 今日から君を大歓迎だよ、夏目凪人君!」


 七海さんが両手を広げて宣言。目はキラッキラしている。

 ――びっくりした。両手を広げたから、すしざんまい!って言うのかと思ったよ。


「……は? やっぱりヤバい勧誘か?」


 あまりにも唐突すぎて、本音が漏れてしまった。


「ヤバくないって! むしろ最高に素晴らしい勧誘なんだから!」


 胸を張って即答。後ろめたさゼロの顔。逆に清々しい。


「今ね、私たち三人は新しい部を作ろうと思ってるんだ。でもあと一人足りなくてさ!」

「ああ、なるほど。僕を数合わせにしたいわけだ」

「数合わせぇ? ちっちっちっ!」


 七海さんは身を乗り出してテーブルに迫る。今にも頭突きしてきそうな勢いだ。僕は思わず波動拳の構えを取ってしまう。


「違うんだよ! 凪君じゃなきゃダメなの!」

「へぇ」

「なにその気のない返事!」

「いや、どうせ誰にでも同じこと言ってるんだろ。僕で何人目?」


 僕が椅子に寄り掛かると、七海さんはむきになって首を振った。


「ホントに違うってば! 凪人君にしか言ってないの!」


 ――ムキになるところが逆に怪しい。


「夏目君」


 静かに声を発したのは神楽坂さんだ。彼女の視線が僕に突き刺さる。……いや、これは真顔か? 普段から強めの目つきだから判別が難しい。


「どう考えるかは自由よ。私も同じ立場なら疑うでしょうし。でもね、ここは一度くらい話を聞いてみてもいいんじゃないかしら」


 皮肉を交えつつも、まるで子供をなだめるような声音。……なんだよ、その上からな物言い。僕が子供っぽいみたいじゃないか。


「……わかった」


 気まずくなって視線を逸らし、しぶしぶ頷く。七海さんは少し元気を取り戻した声で「うん!」と言い、話を続けた。


「私たちが作りたいのは――ヒーロー部! 名前はまあ置いといてさ。ね、凪人君。普段生活してて、困ってる人って案外多いと思わない?」

「……生きてりゃ困り事の一つや二つ、誰にでもあるだろ」

「そうそう! でもね、私が言いたいのは――本当に困ってる人!」

「本当にねぇ……。困り事に真偽の区別なんてあるのか?」

「うーん、どう言えば伝わるかなぁ……」

「どう聞けばわかるんだろうな」


 お互い首をかしげていると、囁くような小さな声が耳に入った。


「あ、あの……凪人君」


 おずおずと手を上げたのは姫野さん。

 その声、初めて聞いた気がする。すごく綺麗な声だ……。てか、なんで下の名前で呼んだ? 七海さんまで勝手に凪人君呼びしてるし。


「学校の中にはね……自分じゃ解決できない悩みを抱えてる人がいるの。だから……そういう人の力になれる部を作りたいって。楓ちゃんは……そう言いたいんだと思うの」


 なるほど、わかりやすい説明だ。けど、理解した瞬間、新たな疑問が湧く。


「……なんで、そんな部を作る?」


 率直に尋ねると、姫野さんは慌てて七海さんの袖を引っ張った。


「決まってるでしょ! 困ってる人を助けたいから!」


 七海さんは即答。瞳には一片の迷いもない。

 ……瞬間、僕は素直に思った。


「気持ち悪い」

「えっ!? ちょっとそれひどくない!?」

「あっ……ごめん。なんでもない」


 しまった、口に出ていた。

 僕は偽善者も嫌いだが、純粋な善人はもっと嫌いだ。


「仮に相談募集を受け付けたとしても、人が来るとは思わないな」


 自分で解決できない悩みを抱えているなら、普通は親か先生、もしくはカウンセリング関係の専門家に相談するだろう。間違っても、ヒーロー部なんて趣旨不明な部に相談する奴はいない。困っている人ではなく、面白がって冷やかしにくる連中が出入りするのがオチだ。


「そう、そこなの!」


 不快な顔をされるかと思いきや、むしろ逆。七海さんはうんうんと大きく頷き、目を輝かせ始めた。


「多分ね、困っている人の大半は誰にも相談できず、一人で悩んでしまうんだと思うの」


 は? 何を今さら、当たり前のことを言ってるんだ。

 自殺者の多くは誰にも相談できず、一人で悩み、そして最悪の選択をしてしまった人達だ。カウンセリングの真似事をするつもりなら、相談する側の立場に立って物事を考えた方がいいと思うが。


「だから、凪君が必要なんだよ」

「は?」


 どゆこと? なんで、そこで僕の名前が出てくる。

 僕がぽかんとしていると、七海さんは「ふふっ」と不敵に笑った。

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