第44話 結ばれた手、取り戻す未来
最後、葵ちゃんは深々と頭を下げていた。その姿に影響されたのか、花園さんも正座したまま、僕たちへ頭を下げる。
「ごめん……。でも、静。あんたが正直に話してくれていたら、私だって、あんなこと……」
歯切れの悪い言葉を、花園さんは東野さんに向ける。
「いえ。私は……花園先輩に刺されても文句は言えない立場だと思っていましたので」
「ちょっと、あなたね。それにしたって、なんかもっと、うまい伝え方はなかったの?」
「すいません。自分、不器用ですから」
「はぁ……なに、それ。高倉健みたいなこと言って。……まあ、そうよね。思い返してみれば、静って昔からそういう子だったわ」
頑なに自分の非を主張し続ける東野さんに、花園さんは困ったように笑みを漏らす。
その顔には、もはや憎悪の影はなく、後輩に向ける優しい先輩の表情が戻っていた。
もともと二人は中学時代からの付き合いだ。今と同じように、先輩と後輩という関係を築いていたのだろう。花園さんが自然と「静」と名前を呼んでいたことが、その証のように思えた。
「でもさ……。なんで、私たちがここにいるってわかったの?」
正座したまま顔を上げ、花園さんは不思議そうに僕たちを見回す。
その途端――七海さん、神楽坂さん、姫野さん、そして桐生までもが、一斉に僕へと視線を向けてきた。
「えっ……いや、なんとなく」
僕は曖昧に笑って誤魔化す。
「なんとなくで、この場所を一発で言い当てられるか」
桐生がすぐさま突っ込む。もっともな言葉に、皆の視線がさらに鋭さを増した。――やばい。ここで能力のことなんて言えるわけがない。けど、肝心なときに限って、うまい嘘も浮かんでこない。
「まあ、いいじゃん。一件落着なんだからさ」
意外にも助け舟を出してくれたのは七海さんだった。こういうときこそ加勢して問い詰めてくるタイプだと思っていたのに。
「これで……女子サッカー部は元通りだよね」
ぱっと笑顔を浮かべて言う七海さんに、花園さんと東野さんは顔を見合わせた。しばらく視線を交わしたのち、二人の口元に同じような微笑みが浮かぶ。
「……うん。でも、まだ終わってない」
花園さんはゆっくりと首を振り、複雑そうに笑った。
「私はサッカー部のみんなに謝らないと。静をいじめて、先輩たちを脅して……部を私情で滅茶苦茶にしたんだから。許してもらえるかは分からないけど」
その声には震えが混じっていた。視線を落とす花園さんの肩に、そっと手が置かれる。東野さんだった。
「きっと、大丈夫ですよ。花園先輩なら」
その言葉に根拠なんてなかったかもしれない。けれど、今の花園さんには何よりも救いになる言葉だった。
「……今までごめんね、静。都合がいいかもしれないけど、これからもサッカー部のために力を貸してくれる?」
花園さんは照れくさそうに笑い、差し出した手を少し震わせた。
東野さんは一瞬も迷わなかった。
「愚問ですね。当たり前じゃないですか」
そう言って、その手を力強く掴む。
二人の手がしっかりと結ばれるのを見届けて、胸の奥で張り詰めていた糸がようやく緩んだ気がした。
――これで、ようやく物語は次へ進める。
めでたし、めでたし。……そんな言葉を、少しだけ信じてもいいのかもしれない。
第四章 終




