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ナイトメアフィルム ~屋上の惨劇~  作者: 結城智
第四章 惨劇予告の写真は、誰を指していたのか
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第42話 屋上の真相

 七海さんと目が合う。


 彼女は僕に微笑みながら、「いや、待たせたね。てか、人使い荒いよ、凪君」と、不満げな顔をしていた。肩で大きく息をしている。――きっと、ここまで全力で走ってきてくれたのだろう。


 ああ……でも、よかった。一時はどうなるかと思ったが、間一髪で間に合ったようだ。

 初めて見る子だったが、その目元は花園さんによく似ている。おそらく、この子が妹の葵ちゃんだ。


「あ、葵……。あんた、なんでここに」

「なんでここに、じゃないよ。てか、なに持ってんの! 危ないでしょ」


 緊迫した空気などお構いなしに、葵ちゃんはずかずかと前へ出ると、花園さんの正面に立ち、手を差し出した。まるで「それ頂戴」とでも言うように。


「で、でも……こいつが、葵の足を――」

「はいはい、わかったから。とりあえず、物騒なの片付けてよ」


 花園さんの言葉を、葵ちゃんは軽くいなす。完全にペースを崩された花園さんは、渋々といった様子でナイフを差し出した。

 その瞬間、すかさず桐生が手を伸ばす。


「葵ちゃん。それ、俺が預かる」

「あっ、駿ちゃん! 久しぶり。ごめんね、お姉ちゃんがバカなことして」


 ぱっと顔を明るくさせた葵ちゃんは、迷いなくナイフを桐生に渡した。


 ――これで本当に一安心だ。

 まあ、もし花園さんが神楽坂さん並みの戦闘力を持っていたら、まだ油断できなかっただろうけど。


「静。大丈夫? 怪我はない?」


 葵ちゃんが東野さんに声をかける。東野さんは複雑な笑みを浮かべながら、小さく「うん」と頷いた。


 そして次の瞬間。


「――お姉ちゃん!」


 振り返った葵ちゃんの声は鋭かった。呼ばれた花園さんは反射的に「はいっ!」と背筋を伸ばして返事をする。


「正座」

「えっ?」

「反省として、正座」

「えっ、いや……私は葵のために――」

「なにが葵のためよ。バカじゃないの? 静を刺して、なにになるの? その歳で犯罪者になりたいわけ? お姉ちゃん一人の問題じゃ済まないんだよ。家族にも迷惑かけるの。……それに、刺した後になんて警察に言うつもり? 妹の無念を晴らすために刺しましたって? 迷惑だから。ほんと、勘弁して」


 感情論を切り捨て、正論を淡々と突きつける葵ちゃん。

 その言葉に押し込まれるように、花園さんは観念したようにその場に正座し、しゅんと肩を落とした。


 正座する姉の姿を見て、葵ちゃんは逆に気まずそうに頬をかいた。

 ――屋上を覆っていた張り詰めた緊張は、いつの間にかほどけていた。


「ごめんね、お姉ちゃん。私ももっと早く気付いて、ちゃんと説明していれば良かった」


 そう言ってから、葵ちゃんは東野さんの方へと顔を向ける。


「てか静。なんで説明しなかったの? お姉ちゃんにちゃんと話しておけば、こんなことにならなかったでしょ」


 バカじゃないの、とでも言いたげな軽い調子。

 その言葉に、東野さんはふてくされたように唇を尖らせ、視線を逸らした。


「……だって、私があの時、葵の足を狙ったのは事実だもん。それは一生消えない私の罪だから」

「はぁ……静のそういうとこ、相変わらず面倒くさいんだよね」


 あーあ、と葵ちゃんは肩をすくめて頭を掻く。


「えっ? なに、どういうこと? てか、あんた達……なんでそんな仲良さそうなの?」


 花園さんは目を白黒させ、葵ちゃんと東野さんを交互に見やった。

 状況を理解できないのは彼女だけじゃない。僕も同じだった。


 僕は確かに、この病院に葵ちゃんが入院していることを予想していた。だから七海さんに頼んでコンタクトをとり、ここに来てもらった。

 葵ちゃんが現れれば、最悪の事態を止められる――そう考えていたからだ。けれど、心のどこかで「葵ちゃんと東野さんは犬猿の仲だ」と思い込んでいた。


「ああ、ごめんごめん。ちゃんと説明しなきゃダメだよね」


 葵ちゃんは小さく舌を出して照れ笑いを浮かべ、それから軽やかに口を開いた。

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