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ナイトメアフィルム ~屋上の惨劇~  作者: 結城智
第四章 惨劇予告の写真は、誰を指していたのか
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第37話 桐生の仮面

翌日の放課後。

僕はある人物を、人通りの少ない体育館裏に呼び出した。

 体育館の裏――コンクリートの壁に午後の陽が長い影を落とし、風が草むらを揺らす。普段なら誰も寄りつかないこの場所は、こそこそ話をするには絶好のスポットだった。


 机の中に入れた手紙。ちゃんと見てくれただろうか。

 約束の時刻である十六時を過ぎても現れないので、胸の奥に不安がよぎる。

 ――すっぽかされたか?

 そんな焦りが広がり始めたとき。


「あれ。凪じゃん」


 軽い声とともに、ひょっこり姿を現したのは、呼び出した本人――桐生だった。


「桐生。三分遅れだよ」


 眉をひそめて告げると、桐生は目を丸くし、肩をすくめて残念そうに口を尖らせた。


「えっ。まさか、あの手紙、お前だったのかよ。……ったく、体育館裏に来てください。大事な話がありますって、名前なしで書くなよ。てっきり告白かと思って期待しちまったじゃんか」

「よく言うよ。告白なんて、もう懲り懲りだろ。内心、相手が僕で助かったと思ってるんじゃないのか?」

「まあな。告白されても断るの、正直めんどくさいし」


 悪びれもなく笑顔で言い切る桐生。

 その無邪気さに、胸の奥で一瞬、殺意の火花が散った。

 ――けれど、すぐに飲み込む。桐生は昔からこういう奴だ。悪気はない。ただ、無神経なだけ。


「で、なんだよ、話って。……まさか夏目、お前、俺に告白か?」

「そうだね。告白になる」


 即答した僕に、桐生の表情が強張る。


「まあ、告白するのは僕じゃなくて――桐生、君の方だけどな」

「……なんだよ、それ」


 目を細め、桐生の声音に警戒の色が混じる。

 この空気を逃すわけにはいかない。僕は相手に考える隙を与えぬよう、矢継ぎ早に言葉を重ねた。


「なぁ、桐生。……こないだ、変な噂を耳にしたんだ」


 体育館裏を吹き抜ける風が、ざわりと雑草を揺らす。沈黙は一瞬で重くなる。


「女子サッカー部にいじめがあった。黒幕は――花園花梨。彼女は東野静を狙い撃ちにしていたらしい」


 一歩、桐生に詰め寄る。


「そして、その理由のひとつに……桐生。君の名前が出てきた」


 僕の言葉に、桐生はわずかも表情を崩さなかった。驚きもせず、笑いもしない。

 ただ真っ直ぐに僕を見つめ、無言のまま話を聞いていた。

 体育館裏。静寂の中、僕と桐生の視線がぶつかり合い――張り詰めた緊張が空気を支配していた。


「桐生。君は一年生で入部した東野静を気に入った。だが、東野さんにアピールしても、全く見向きもされなかった。普段モテモテの君には、気に食わない出来事だ。だから、君は八つ当たりのために仲の良い花園さんを利用した。東野をいじめるよう命じたんだ。……花園さんは、君に大きな弱みを握られていた。だから従うしかなかった。――これが、花園さんが東野をいじめた真相だ」


 バカバカしい話だ。こんな真相、あるはずがない。ガセネタに決まっている。


「なぁ……こんな話、嘘だよな」


 僕の問いに、桐生は俯いたまま沈黙した。やがて顔を上げると――。


「嘘に決まってんだろ」


 その一言に、僕は胸を撫で下ろしかけた。とんだ取り越し苦労――そう思った矢先。


「……ただな。俺が東野をいじめるように命令したのは、八つ当たりなんかじゃない」

「……え?」

「東野を孤立させれば、心が弱くなる。弱った奴を落とすのは簡単だ。――俺は最終的に、東野を手に入れるつもりだったんだよ」


 桐生は気分が高揚したのか、目を大きく見開き、嫌らしい笑みを浮かべる。小学生の頃から知っているが、こんな顔は初めて見た。


「……冗談だろ?」

「冗談じゃねぇよ。花梨は最初、嫌がってたさ。けどな――弱みを握れば、こっちのもんだ。結局、なんでも俺の言うこと聞いてくれたぜ。あははははっ!」


 長々と響く笑い声。狂気じみたその声に、背筋が凍る。僕は冷めた目で桐生を見据えた。


「……最低だな」

「最低? はっ……言わせておけば」


 桐生は口元を歪め、さらに吐き捨てる。


「お前らのせいで計画は台無しだ。だがな……次がある。今は七海が花梨に張り付いてるだろ? だったら、二人まとめて――男子サッカー部で回してやろうかと思ってんだよ!」


 その言葉と同時に、桐生の体からどす黒いオーラが立ちのぼった気がした。

 ――ああ。そういうことか。

 もう迷う必要はなかった。桐生のことを止めるにはこれしかない。


「……なぁ、桐生」


 一歩、桐生に詰め寄る。桐生が「あ?」と返すのとほぼ同時。

 僕の拳は勝手に振り抜かれていた。

 鈍い衝撃が走り、桐生の顔面にクリーンヒット。初めて人を殴った僕の拳は、ズキズキと痛みに震える。

 殴られた桐生は血を滲ませながらも、ジッと僕を睨み返してきた。

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