第35話 助けたはずなのに惨劇は終わらない――スカーフが告げる真実
……惨劇?
先日の未来予知が発動した、あの写真が脳裏に浮かんだ瞬間、全身に激しい悪寒が走った。次の瞬間には、もう体が勝手に動いてしまう。
僕は部室へ向かって、無我夢中で駆け出していた。
――廊下は走るな? そんな規則、今の僕には関係ない。
勢いよくドアを開け放つと、部室の中には神楽坂さんと姫野さんがいた。
「どうしたの。そんな怖い顔して」
肩で息をしている僕に、神楽坂さんは瞬きを一つして、しかし落ち着いた声で問う。
一方の姫野さんは目を丸くし、心配そうに僕を見つめていた。
僕はその問いには答えず、真っ先に机へ駆け寄る。
写真が保管されている引き出しを開け――そして、見つけた。
あの写真。
僕が未来予知を発動させた、問題の一枚がそこにあった。
「……嘘だろ」
喉の奥から、自然に言葉が漏れる。
ありえない。そう願いたかった。けれど、否定できる材料もまた、何一つなかった。
僕の未来予知――写真を現像する際、その中に写った者の未来の惨劇が映像となって脳裏に焼きつく力。
ただし、その人物は真っ黒に塗りつぶされた影のようで、誰なのかは特定できない。
さらに致命的な欠点がある。
そう――もし写真に複数人が写っていれば、誰に惨劇が訪れるのかは判断できない。
今回の写真。東野さんの横には、ピースサインをする花園さんの姿があった。
「ねぇ、凪君。……大丈夫?」
覗き込んでくる姫野さんの顔に、我に返る。
慌てて笑みを作り、「大丈夫だよ」と答えた。
――その時だった。
ふと視界に入った姫野さんの首元。そこには、きゅっと巻かれたスカーフ。
途端に、脳裏で再びフラッシュバックするあの映像。
まさか――。
全て逆だったというのか。
僕の予想は外れていた。
解決したと思っていた惨劇は、まだ終わっていなかった。
正直、人助けなんて面倒臭いと思っている。――それは今も変わらない。
とはいえ、あの惨劇の映像が頭をよぎる以上、何もしないでいるほうが、かえって不気味で気味が悪い。
ああ……だから、人物写真なんて撮りたくなかったんだ。
悪態をつきたくなるが、今さら言っても仕方ない。
頭の中は混乱していた。
あの時見えた映像――ナイフを持っていたのが東野さんで、刺されたのが花園さんだと、僕はそう思い込んでいた。
花園さんが東野さんに刺される。
だから東野さんを助ければ、花園さんが刺される理由は消える。
それでハッピーエンド――単純な話のはずだった。
……だが違った。
もし、加害者と被害者が逆だったら?
刺したのが花園さんで、刺されたのが東野さんだったら?
未来予知で見た映像を思い返す。
二人はどちらも制服を着ていた。そして女子の制服には必ずスカーフがある。
――刺した子は、ピンクのスカーフ。
――刺された子は、緑のスカーフ。
うちの学校では学年ごとにスカーフの色が違う。
三年は青、二年はピンク、一年は緑。
つまり、あの事件。
東野さんが花園さんを刺したのではなく――花園さんが東野さんを刺した可能性のほうが高い。
七海さんの言葉を信じるなら、花園さんは本来、正義感が強く、いじめなんてしない人間。
それなのに三年生を脅すという極端な手段をとり、東野さんを追い詰めようとした理由が、ただのレギュラー争いだなんて……あまりにも不自然だ。
――もっと別の理由がある。
花園さんが東野さんに対して、抱かざるを得なかった深い恨み。
そう考えたほうが自然だろう。
……結局のところ。
僕はまた一つ、面倒極まりない謎に足を踏み込まざるを得なくなった。




