第22話 屋上の惨劇(ルーフトップ・ナイトメア)
東野静。――今のところ、サッカー部でイジメを受けていると見られる人物。
三十人を超える部員数の中、すでにレギュラー候補にまで名を連ねている一年生だ。
観察してみると、イジメによる萎縮なのかは判断できないが、決して愛想のいい子ではなかった。ほとんどの部員が「撮ってください」とねだる中で、東野さんだけは僕の前に来ると「私は結構です」と小さく言い、立ち去ろうとした。
――その腕を「そんなこと言わず、一緒に撮るわよ」と花園さんが掴んで引き留めてくれたおかげで、なんとか東野さんの写真を一枚、撮ることができた。
そのネガを見つめたとき、僕は息を呑んだ。まさか惨劇にまで発展するような事態にはならないだろう――そう、自分に言い聞かせるように高を括った。
しかし願いは裏切られる。僕は見事に外れを引いてしまったのだ。
東野さんの写った写真を現像液に浸し、静かに揺らす。印画紙の上に彼女の姿が浮かび上がる、その瞬間――。
同時に、僕は別の次元へと引きずり込まれていった。
視界がゆっくりと闇に沈んでいく。
世界から光が剥ぎ取られ、意識だけが宙に浮かぶ。
――次に見えたのは、見覚えのない学校の屋上だった。
コンクリートの床、無機質なフェンス。風の音すらなく、静寂が支配している。
そこに二人の人影が向かい合って立っていた。
どちらも、うちの制服を着ている女子生徒。
一人は必死に何かを訴えているようだった。口は大きく動いているのに、声は一切聞こえない。ただ、絶望的なまでの必死さだけが伝わってくる。
もう一人は――無。
表情は影に溶けて見えない。それでも「何もない」ということだけが、異様なほどはっきりと伝わってくる。
そして、その無の人物の手には光を反射するナイフが握られていた。
次の瞬間、訴えていた方の女子が目を見開き、後ずさる。だが、冷たい腕に掴まれ――そのまま太ももへと刃が突き立てられた。
音はない。
それでも、世界が軋むような悲鳴が脳内に響き渡る。
しゃがみ込んだ少女の太ももから赤が滴り落ち、床を濡らしていく。
それでもナイフを持つ者は微動だにしない。
恐怖も後悔もなく、ただ無表情のまま、冷ややかに見下ろしている。
やがて――その唇が、かすかに動いた。
何かを告げている。だが、音は届かない。
届かないのに、理解だけが心臓に突き刺さる。
それは言葉でなく、呪いそのもののように――。




