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ナイトメアフィルム ~屋上の惨劇~  作者: 結城智
第三章 正義の代償
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第17話 囁かれた名前、東野静

 一旦、女子サッカー部員たちから離れた僕たちは、七海さん、神楽坂さん、姫野さんで集まった。


「作戦会議だよ!」


 集まって早々、七海さんが腕を組んで言う。


「試合中は、写真を撮りながら凪君がサッカー部の状況を察してきて。もし話をうまく聞き出せそうなら、お願いね」

「……無茶苦茶言うな」


 いきなりの無茶振りに、僕は呆れ返る。察してこいって、なんだよ。


「大丈夫大丈夫。『うまく聞き出してほしい』って言ったけど、正直そこまで期待してないからさ」


 七海さんはへらっと笑った。振っておいて期待してないって、それはそれで不愉快だ。


「チームは二班に分けるね。まずは、私と紅葉でさりげなく情報収集するから」


 七海さんと神楽坂さんで? それ、大丈夫なのか。


「ごめん。七海さんはまあ、コミュ力高いからわかるけどさ。神楽坂さんは……正直、情報収集が得意そうには見えないんだけど」


 そう口にしてしまった。

 こういう内密な話を聞き出すには、多少のさりげなさが必要だ。神楽坂さんは「この部にイジメがあるって密告があったけど、なにか知ってる?」と直球で言いそうなタイプだし、威圧感もあるから……聞き込みに適任とは思えない。


「なに言ってんの。紅葉に聞き込み役なんてさせるわけないじゃん」

「えっ?」

「紅葉は横にいてくれるだけでいいの」


 横にいるだけ? 一体どういうことだ。威圧感で脅す役割なのか――と想像しかけたが、七海さんはすぐに答えをくれた。


「凪君、知らなかったでしょ? 紅葉、男子には怖がられてるけど、女子の間じゃ絶大な人気者なんだよ。一年生の間じゃ、非公式ファンクラブまであるんだから。だからね、紅葉が横にいるだけで、女の子は目をハートにしてペラペラ喋ってくれるの」


 ……マジか。そんな人気を誇っていたとは。確かに美人でクール、男子に媚びずサバサバしてるタイプだから女子には好かれる系統かもしれない。驚く僕の横で、神楽坂さんは髪をかき上げ、ふっと得意げに笑った。……なんかムカつく。


「で、梓は凪君と一緒ね」

「えっ、わ、私?」


 急に指名された姫野さんは、僕をちらりと見て目を瞬かせる。


「そう。梓は凪君と一緒。人を観察する目があるし、なにより――凪君がちゃんと仕事してるか監視してね。凪君、すぐ鼻の下伸ばすから」


 は? 一体なにを言って――と思う間もなく、姫野さんは眉をきゅっと吊り上げて、小さく拳を握った。


「……わかった。ちゃんと、見てる」


 頬をうっすら赤らめながら、妙にやる気に満ちた表情。

 いや、待て。僕ってそんなに鼻の下伸ばすように見えるのか? そんなこと……まあ、ないと言い切れないけど。


「よし、じゃあ解散!」


 七海さんが手を叩き、会議は強制的に終了。僕たちは二人一組に分かれて、それぞれの役割へ散っていった。


 七海さんと神楽坂さんが離れていく背中を目で追った後、僕は隣の姫野さんに視線を移す。


「……凪人君。ダメだよ、鼻の下……伸ばしちゃ」


 両手を胸に当て、つぶらな瞳でじっと見上げてくる。その目は優しげでありながら、どこか釘を刺すような光を帯びていた。


 えっ、なに? やっぱり僕ってそういう風に見られてるの? それはさすがに心外だ。ここは姫野さんとはいえ、きっぱり言っておいた方が――と口を開きかけた瞬間。


「夏目先輩!」


 横から声が飛んできた。振り向くと、そこには見覚えのない女子二人が立っていた。サッカー部員だろう。首元までの髪を切り揃えた、少し鋭い目をした子と、お団子頭にくりっとした瞳の子。呼び方からして一年生に違いない。


「お疲れ様です。一年の水瀬真琴です。あ、こっちは同じ一年の沢渡名雪」


 丁寧に名乗られ、僕も軽く会釈をする。隣では姫野さんも慌てて同じように頭を下げていた。

 そして――。


「あの、桐生先輩と付き合ってるって本当ですか?」

「嘘です」


 開口一番の馬鹿げた質問に、思わず敬語で即答してしまった。花園さんの不用意な発言が、もうここまで誤解を広めているとは……。二人は「えー」と残念そうに声を上げる。


 そこから桐生の恋愛事情や花園さんとの仲を根掘り葉掘り聞かれ、面倒に思いながらも適当に受け流す。だが、話の端々で気になる情報が出てきた。桐生と花園が幼馴染で、しかも次期部長候補。さらに――。


「……静なら、レギュラーいけるんじゃない?」


 水瀬さんがふと口にした名前に、僕は反応した。


「静?」

「静。私たちと同じ一年の子」


 その瞬間、水瀬さんの声が一段と小さくなり、周囲を見回したかと思うと、僕の耳元に口を寄せた。


「今の布陣は氷室部長と椿木副部長の2トップで、トップ下は花園先輩。でも、静が入れば……そのバランスが崩れるんです」

「ポジションは?」

「FW。椿木副部長より速くて、技術も上。本人もそれを認めてます」


 なるほど。才能ある新人の加入――これが火種か。


「そのせいで、イジメに発展してたりしない?」


 軽くかまをかけると、水瀬さんの表情が一瞬で固まる。目を逸らし、沢渡さんの顔を見て、二人してぎこちなく沈黙する。……図星だ。


 だがここで追及しても逆効果だろう。僕はあえて話題を切り替えた。


「……その子、ぜひ写真に収めたいな」


 すると水瀬さんは安堵したように笑い、「背番号7です」とだけ告げて去っていった。

 ――やっぱり、あの手紙は悪戯じゃない。東野静が関わっているのは間違いない。だが、まだ断定はできない。他にも何か隠れている気がする。


 僕が思案していると、ふと横から視線を感じた。目を向けると、姫野さんがじっと僕を見ていた。少し不満そうに頬を膨らませて。


「……凪人君」

「なに?」

「鼻の下、伸びてたよ」


 小さな声。だけど刺さる。まるで「減点ね」と言われた気分だった。最後、水瀬さんの上目遣いにドキッとしたのを――完全に見抜かれている。さすが監視役だ。


「それに……あの水瀬さんって子、嘘ついてた」


 撫でるような小声で呟きながら、姫野さんは視線を女子部員の輪に戻す。その瞳の奥に、かすかな光が宿っていた。


「うん。東野静……要チェックだね」

「……それと、氷室部長と椿木副部長も。きっと、関係してる」


 か細い声なのに、不思議と確信めいて聞こえる。


「積極的だね。……じゃあ、姫野さんの方から先輩達に接触してみる?」


 軽口のつもりで言ったが――。


「……いじわる」


 眉を八の字にして、小さく唇を尖らせる。その仕草に、不覚にも僕は心臓を打ち抜かれそうになる。

 

 ……さて。試合も始まりそうだ。人を撮るのは本来避けたいが、この状況では仕方ないだろう。

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