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ナイトメアフィルム ~屋上の惨劇~  作者: 結城智
第三章 正義の代償
16/50

第16話 桐生への声援、花園の登場、そして……姫野の嫉妬

 土曜日。


 他校との練習試合のため、集合場所は英育高校のグラウンドだった。朝の九時集合。僕は十分前に到着したが、広いグラウンドにはすでに白銀学園のユニフォーム姿の部員たちと、英育高校の部員たちが入り混じって集まっていた。


 ――七海さん。女子サッカー部の試合だって言ってたけど、普通に男子サッカー部もいるじゃないか。

 見渡せば、奥のコートでは女子チーム、手前のフィールドでは男子チームが準備をしている。なるほど、この学校は施設が広いから男女同時進行できるわけだ。


 ただ、困ったのは合流場所を決めていなかったことだ。観戦に来ている生徒もちらほらいて、制服姿も目立つ。その中から三人を探すのは骨が折れる。


「お、凪じゃん。どうした、こんなとこで」


 背後から声をかけられ、振り返った瞬間――ゲッ、と顔に出てしまった。


「おいおい。そんな嫌そうな顔するなって」


 苦笑しながら近づいてきたのは桐生。白銀学園サッカー部のエース。

 そりゃ、サッカー部の試合なら当然いるよな。


「助っ人か?」

「違う」


 僕が出たところで足を引っ張るのがオチだ。


「今日は、サッカー部の試合を撮影するんだ」


 そう言うと、桐生は「ああ」と軽く頷いた。


「そういや写真部ができたんだってな。噂で聞いたよ。……まあ、俺的には残念だけど、おめでとう」


 笑みの奥にわずかな複雑さを滲ませる。

 はなからサッカー部に入る気なんてなかったけど、こうして言われると妙に気まずい。


「しかも噂だと、写真部って名ばかりで、七海が暴走してる怪しい部活なんだろ?」


 うわ。言い方ひどい。けど……否定できないあたりがまた厄介だ。


「凪さ。まさか七海に弱みでも握られてるんじゃないだろうな?」


 心配そうに覗き込んでくる桐生。ああ、そう思われるよな。僕が自主的にあの三人を勧誘したなんて、普通は信じない。


「そんなことないよ」


 一応否定しておく。


「じゃあ、七海のこと好きとか?」

「それもない」

「じゃあ神楽坂か。あの美人。男子の間じゃ、氷の女って有名だぞ。……ドMな凪にはお似合いだろ?」

「違う」


 いや誰がドMだ。僕はドSだっつーの。


「じゃあ姫野? ああいう大人しい子、好きなんだ? ……ドMなのに?」

「それも違う。だから僕はドMじゃない!」


 訂正しようとしたけど、これ以上話すと墓穴を掘る未来が見えた。

 ――その時。


「ほら、やっぱりここにいた」


 正面から声がして振り返ると、七海さん、神楽坂さん、姫野さんがこちらへ歩いてくる。


「あっ、駿太郎君!」


 七海さんがぱっと顔を輝かせる。桐生は僕を見てにやりと笑い、わざとらしく肩をすくめた。


「おう。これで写真部、全員集合だな」

「そっか。駿太郎君も出るんだね」


 七海さんが言うと、桐生は自信ありげに笑い、


「女子だけじゃなくて、男子の試合も撮ってくれよ。もちろん俺の活躍シーンな」


 と、決め顔。


「ふん。十点くらい決めるなら考えてあげるわ」


 神楽坂さんの冷ややかな一言に、桐生は「バスケじゃねぇんだから」と苦笑した。

 姫野さんはというと、少し後ろで静かにこちらを伺っている。僕とは最近、少し話せるようになったけど……やっぱり大勢の前じゃ苦手みたいだ。


 そんな中、遠くから「おーい桐生!」と呼ぶ声。


「お、そろそろか。またな」


 仲間に呼ばれ、桐生は背を向ける。


「桐生」


 無意識に声をかけていた。足を止めて振り返った桐生に、僕は少し迷った末に言葉を選ぶ。


「……その、試合。頑張ってくれ」


 一瞬きょとんとした後、桐生はニッと笑った。


「ああ。凪も撮影、頑張れよ」


 そう言い残し、グラウンドへ駆けていった。

 その背を見送りながら、僕は少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じていた。


 ――ほんの少し、だけど。




 七海さんはその後、女子サッカー部が練習している輪の中へ入っていった。

 僕たちは行き先も分からず、ただ黙って七海さんの後ろに付いていく。すると、彼女は練習していた一人の部員に声をかけた。


「花梨ちゃん」

「あれ、楓ちゃん? それに皆も一緒にどうしたの?」


 振り返ったのは、クラスメイトの花園梨花はなぞの かりんだった。同じクラスメイト。サッカー部のユニフォーム姿で、ストレッチをしていた最中だった。


 首元までのショートヘアに日焼けした肌、きびきびした所作。ボーイッシュな雰囲気を纏っている。おしゃべりなタイプではないが、気づけば輪の中心にいて、自然と周囲をまとめてしまう――そんなリーダー格の女の子だ。


「今日、写真部の活動でさ。試合とか練習の写真を撮らせてもらっていい? それと、カメラマンは基本、凪君だから。皆にも言っておいてほしいんだ」

「えっ、別に自由に撮ってもらって構わないよ」


 花園さんは肩を回しながら、僕に視線を向けて目を丸くする。その横で七海さんは苦笑して続けた。


「そうは言ってもさ。男子がカメラ持って撮ってたら抵抗ある子もいるでしょ。だから、あの人、一応、写真部の人です。変態じゃありませんって、言っといてくれたら、凪君もやりやすいと思うんだ。ほら、凪君、見るからに変態そうじゃん」


 おい。庇ってるようでナチュラルに暴言なんだが。


「えー? 凪君って、見るからに草食系で人畜無害って感じじゃん。男子っていうより……そうだな、インコとか飼ってそうな癒し系? 誰も警戒しないと思うけどなぁ」


 ……花園さんまで好き勝手に言わないでほしい。しかも、草食系どころか鳥扱いって。


「まあ、確かに凪君のこと知らない人も多いし、一応は伝えておくよ」

「お願いね、花梨ちゃん」

「うん、わかった」


 軽快に返事をして、花園さんは顧問や先輩らしき上級生に声をかけに行った。


「……あんなこと頼んで大丈夫なの?」


 僕は思わず口にした。花園さんにしてみれば、急に押しつけられた役目で迷惑じゃないかと。

 けれど七海さんは胸を張って「大丈夫!」と自信満々。


「花梨ちゃんは次期部長なんだよ。前に聞いた話だと、もう部長代理みたいなことしてるらしいし。だから頼むなら花梨ちゃんが一番適任でしょ」


 ――なるほど、確かに説得力はある。でも、面倒なことを押し付けた事実は消えないだろう。

 いや、それより。


「ちょっと待て。僕、写真を撮るなんて一言も言ってないんだけど」


 そう抗議すると、三人がそろって「えっ?」という顔をする。……やめてくれ。その目、こっちが間違ってるみたいに感じる。


「いつまで駄々こねてるのよ。いい加減諦めなさい」


 神楽坂さんが呆れたように溜息をつき、じろりとこちらを見た。


「むしろ、生の女子高生を無条件で撮れるのよ? 男なら普通、ウハウハする場面じゃないかしら」


 ウハウハってなに? なんとなく下ネタなのはわかるけど……そして、なぜその言葉に合わせて姫野さんが僕を睨んでるのかも分からない。


「みんな集合してー!」


 花園さんの声で、練習していた部員たちがぞろぞろと集まってきた。上級生も後輩も、三十人近く。さすが次期部長、声ひとつでこれだけ動かせるのは大したものだ。


「この人たちは新しくできた写真部です。そしてこの人が部長の夏目凪人君。私のクラスメイト。――はい、それじゃ、夏目君どうぞ」


……完全なキラーパスだ。しかもかなり雑なやつ。まあ、でも、ここで変な紹介をされるよりはマシか。


「初めまして。写真部部長の夏目です。発足して二週間ほどで、部活動を撮影するのは今回が初めてです。なるべく邪魔にならないようにしますので、ご協力よろしくお願いします」


 会釈すると、拍手がぱちぱちと広がった。……いや、なんで拍手? 了承の合図か。


「補足するとね、夏目君は草食系で人畜無害。むしろクラスじゃ、桐生と付き合ってるんじゃないかって噂、されるくらい異性には興味なし。だから変な写真には絶対使わない。私が保証する」


 花園さんの爆弾発言に、女子たちの黄色い悲鳴が飛ぶ。


「キャー!」「マジで!?」

「ちょ、花園さん……!」

「まあまあ。これで警戒されないでしょ? 自然体で撮れる。ウィンウィンってやつ」


 いや、ウィンウィンの使い方、なんか違うし。それに桐生とデキてるなんて噂まで広げられたら、あとで僕が困るだろ。


「いいじゃん。警戒されるよりずっとマシでしょ」

「そうよ。生の女子高生撮り放題なんだから、もっと飛び跳ねて喜びなさい」


 七海さんと神楽坂さんが好き勝手にフォローしてくる。


 ……そして横を見ると、姫野さんは頬をふくらませて僕を睨んでいる。

 最近、姫野さんがなにを考えてるのか、本当に読めなくなってきた。

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