第15話 封筒に込められたSOS
写真部ができてから、二週間が過ぎた。
――とはいえ「写真部」は方便で、本命の人助けは一度もしていない。そもそも相談者が来ない。そりゃそうだ。表向きはただの写真部だし。七海さんは「困ったら気軽に来てね!」と宣伝しているけど、来る気配ゼロ。来たら逆にその神経を疑う。親か先生かカウンセラーに行け、と心の中で毒づく未来が見える。
活動は近所の神社、山の頂上、休日は海。風景撮影が中心だ。神社と海を提案したのは七海さん。写真に興味ゼロのはずなのに妙に前向きだと思ったら、趣味が神社巡りと釣りだった。海の日なんて釣り竿を担いで「今日は大物釣るよ~!」と満面の笑み。あれ、七海さんって釣り部員だっけ?
それでも三人とも撮影自体は真剣で、最初はスマホだったのが、次第に僕のフィルム機に興味を示しはじめた。僕も嬉しくて、順番に貸し出して撮り方を教える。フィルムはその場で結果が見えない。だからこそ帰り道、「どんなの撮れたかな~」とワクワクしてる背中を眺めるのが、ちょっとくすぐったくて、悪くない。
現像すれば、最初はピンぼけだらけ。でも数枚はきらりと光っていて、それを見るたび三人の歓声がはじける。
写真は不思議だ。それぞれ撮りたい場所も、ピントの置き方も違うから、個性が出る。いまでは、仕上がりを見れば誰が撮ったか大体わかるようになった。
性格の癖が強い二人(誰とは言わない)がいて馴染めるか不安だったけど、意外と早く馴染んだ。ああ、自分のコミュ力が末恐ろしい……という冗談はさておき、この平和が続けばいい――そう思っていたら、人生は律儀に落とし穴を用意してくれる。
写真部としての最初の難関は、意外と早く来た。
「明日は女子サッカー部の試合を撮りに行きます!」
金曜、四人が席に着いた瞬間、七海さんが高らかに宣言。
神楽坂さんも姫野さんも微動だにせず。つまり事前共有済み。僕だけ後出し。こういうマイペース、どうにかならないかな。
「明日って土曜よね」
神楽坂さんが本を閉じ、乾いた声。
「うん、土曜~。え、凪くん用事ある? ないよね?」
完全に暇人前提。まあ、予定はないけど。
「サッカー部ってことは、人物撮るのか」
「うん。え、なに? 凪くん、ボールのどアップ撮りたいの?」
七海さんは無邪気に首を傾げる。なんだろう、腹立つな。目潰ししたやろうか。
正直、人物は極力避けたいが、撮るたび発動するわけでもない。写った相手の近い未来に厄災がなければ平気だ――そう自分に言い聞かせる。
「ところで、どうして女子サッカー部? 行くとは聞いたけど、理由はまだ」
神楽坂さんが冷静に射抜くような視線。
「ふふん、初依頼が来たのだよ」
得意満面で封筒を取り出す七海さん。中の一枚をテーブルへ。
【女子サッカー部でイジメが起きています。助けてください】
打ち出し文字。筆跡隠しだね。
「悪戯だな」
「ええ、悪戯ね」
僕と神楽坂さん、同時に即答。
「えぇ!? 違うよ、これは依頼だよ!」
七海さん、むきになる。
「楓。あなたの頭、相変わらずお花畑ね」
神楽坂さん、容赦なし。
「楓が各クラスで宣伝してるから、面白半分で投函したんでしょう」
「ちがうってば。これはSOSだよ!」
「根拠は? あなた昔から、からかわれて騙される側じゃない」
やっぱりそうか、という納得感。
「違うの。これは――助けてって、書いてあるんだよ」
潤んだ目で訴えられても、茶番に乗る気は正直ない。
七海さんは僕と神楽坂さんの表情を見て、すぐ矛先を変える。
「ねぇ梓は? 悪戯だと思う?」
「……悪戯、だと思う」
姫野さんも即答。七海さん、肩がしゅんと落ちる。
「でも、悪戯じゃないかもしれない」
ふわりと続ける。僕ら三人の視線が集まる。
「もし悪戯なら、それでいいの。だけど、本当に助けが必要だったら……行かなかったこと、ぜったい後悔する。だったら、騙されてもいいから――信じて、行ってみたい」
姫野さんの真っ直ぐで揺らぎがない目。
「……はぁ。わかったわ。梓がそこまで言うなら従う。二対一。私は多数派に乗るだけよ」
神楽坂さんが肩をすくめる。
え、僕はカウント外? 本来二対二では? と心の中で突っ込むが、口に出しても結果は同じだ。
こうして、明日、女子サッカー部の試合を撮影しに行くことになった。
もちろん、ただの撮影で済む気は、初めからしていなかったけれど。




