第14話 黒いシルエットの真実
不良にしてみれば、なにもしていないのに「どうせ悪さをしていたのだろ」と、勝手に決めつけられる状況ほど腹の立つものはない。
それから僕の見えない場所で、楓馬は本格的に標的にされた。下駄箱に虫の死骸を入れられ、給食の牛乳にパンを突っ込まれ、クラスでは嫌な役目を強要され……散々な目に遭った。
不良三人組は徹底して口止めをし、僕はおろかクラスの誰にもバレないように、楓馬を孤立させていった。
後にイジメが公になった時、不良たちはこう証言したという。
「俺たちは何もしてなかったのに、夏目に楓馬をいじめるなって言われた。だから本当にいじめてやろうと思った。もちろん俺たちも悪いけど、元はと言えば夏目が喧嘩を売ったのが始まりだ」
――その言葉を聞き、僕はただ「間違いありません」と答えた。
否定する気力すら、もう残っていなかった。
イジメが公になった時には、すでに遅かった。
楓馬は不登校になり、やがて転校していった。家を訪ねても会わせてもらえず、玄関先に出てきた楓馬の母親は、醜いものを見るような目で僕を睨みつけ、こう吐き捨てた。
「凪君。ここにはもう来ないでくれる? 今回の件、原因はあなたみたいじゃない」
――あの優しく微笑んでくれた人が、まるで別人のように冷たかった。
そして、決定的だったのは転校の日。
校庭で楓馬を呼び止めた時だ。
「ねぇ、凪君。なんであんなことしたの?」
その目は憎悪に染まっていた。
「君のせいで、僕は人間が怖くなった。吐き気がして、足が震えて、学校に行けなくなった。……君のことは一生許さない」
最後に交わした言葉は、それだった。
親友だったはずの彼は、僕の名前を呼ばず「君」とだけ呼んだ。
――ただの二文字が、氷のように冷たく胸に突き刺さった。
背を向けて去っていく楓馬を見ながら、僕は気づいた。
あの日現像で見た“黒いシルエット”の正体は楓馬だったのだと。
僕は惨劇を防いだのではなく、自ら惨劇を作り出してしまったのだ。
声は届かない。叫んでも、届くはずがない。脱力感に押し潰されながら、僕は理解した。
この力は「未来の惨劇を見る力」であって「救う力」ではない。
――なら、どうするべきかは簡単だった。
もう二度と人物を撮らない。
余計なことに首を突っ込まない。
くだらない正義感など持たない。
面倒事は避け、平坦な道を選び、人畜無害を装って生きる。
それが、あの日僕が導き出した唯一の答えだった。
第二章 終




