第11話 偽りの写真部、真実の一枚
「うわぁ。綺麗に撮れてる……」
「そうね。口だけかと思ったけど、なかなかやるじゃない」
「うん……すごく柔らかくて、あったかい写真……。わ、私、この写真……好き」
暗室から戻り、テーブルに置いた一枚の写真。
七海さん、神楽坂さん、姫野さんは釘付けになっている。久々の人物画だが、僕としても上々の出来だ。
あとは芥川先生の評価次第。先生は写真を手に取り、じっと見つめ続ける。その一分ほどの沈黙が無茶苦茶長く感じ、三人だけでなく僕も息を呑んでいた。
「夏目」
写真から僕へと視線を移した芥川先生は、口を開く。
「技術的には未熟な点もあるが……いい写真だ。先ほど姫野も言ったが、とてもあたたかい。これは夏目にしか出せない味。人を真っ直ぐ見ている者にしか撮れない写真だ。――だからこそ不思議だ。何故、普段は人物を撮らない?」
腑に落ちない顔の先生に、僕はどう答えるか一瞬迷う。
「褒めすぎですよ、芥川先生。僕は人を真っ直ぐ見てなんていません。先生なら気づいてるでしょう。僕がいつも上辺で人と付き合って、人を嫌っていることを」
「ああ、知っているよ。人を嫌っているのは。でも、無関心ではない」
先生は穏やかな笑みを浮かべる。普段は鈍感そうに見えるのに、こういう時ばかり鋭いんだよな。
「それで……写真部の新設は許可してもらえるんですか?」
僕は本題を戻す。
「ああ、構わない。十分に伝わったよ、写真が好きだってことは」
あっさりと承認された。鍵を渡され、定期的な掃除と来週までに方針を報告するようにと言い残し、先生は出ていった。最初のミッションは思いのほか呆気なくクリア、だ。
先生が出て行った後、四人で顔を見合わせる。
「やったー! 無事、部活結成だよ!」
七海さんが飛び跳ね、神楽坂さんと姫野さんも微笑む。
「でも……お世辞抜きでいい写真だよ。これ……現像できないの?」
七海さんが写真を手に取り、僕に顔を近づける。
「出来なくはないけど」
「あら、それなら私の分もお願い」
神楽坂さんがすかさず割り込む。
さらに姫野さんも、もじもじと手を上げて小さく言った。
「わ、私も……ほしい、な」
「いいよ。三人分、現像すればいいんだね」
この時、面倒だとは思わなかった。自分を撮った写真を欲しいと言われるのは素直に嬉しい。
僕が暗室に戻ろうとした時、背後から声がかかった。
「……あ、あのね、凪人君」
振り返ると姫野さんが立っていて、上目遣いでもじもじしている。
「どうしたの?」
その仕草、可愛すぎる。ポイント高いな。
「……現像、作業……私にも、見せて……ほしいな」
オドオドとした声に、七海さんと神楽坂さんが目を見開く。僕自身も驚いた。姫野さんからお願いされるなんて――レアにも程がある。
僕が黙っていると、姫野さんは慌てて首を振り、潤んだ瞳で「ご、ごめん……やっぱり邪魔だよね」と俯く。
その時、横から強烈な視線。七海さんと神楽坂さんが睨んでいた。――断ったら殺すぞ。そう言わんばかりの殺気。神楽坂さんに至っては指をポキポキ鳴らしていた。
……ああ、断ったら窓から突き落とされるな。ここ三階だし。確実に死ぬ。
「いいよ……ついておいで」
できるだけ優しく答えると、姫野さんはパッと花のように笑った。
その笑顔を見て、再び七海さんたちに視線をやると――二人はお釈迦様のような笑みを浮かべ、グッジョブと親指を立てていた。
……なるほど、姫野さんは二人にとって末っ子ポジションなんだな。歳は同じでも、妹みたいな存在なんだろう。
まあ、姫野さんは友人として家に連れて行くなら最有力候補だ。ここでポイントを稼いでおくのは悪くない。




