【番外編】 悪役令嬢は料理を教える
*久しぶりの更新です! 読んでいただけたら嬉しい(^^♪
「ほら、もっと力を入れて!」
ソフィアが声を上げるとミアは「もう入れてるよぉ!」と頬を膨らませた。
アビントン王国の国王レオポルドと王妃ソフィアは現在隣国のソロモン帝国を訪問中である。
親友のミアと皇帝ソロモンの婚姻の儀式が行われることになり、友人としてだけでなく国の代表としても出席する予定だ。近隣諸国の元首はほぼ全員招待されている。
儀式だけでなく舞踏会や視察なども含まれているため、二人は一週間ほど皇宮に滞在している。
「ねぇ、ソフィア、私にも料理を教えてくれない? もちろん専門の料理人はいるんだけど、ソロモンがたまにソフィアの手料理を褒めるのよ。なんかちょっと面白くないじゃない?」
可愛いやきもちを焼くミアにソフィアは「喜んで!」と拳に力を入れた。
「ソロモンが食べたことがないような、変わってるけど美味しい料理がいいな」
ミアの無茶ぶりには慣れている。いろいろ考えて、ソフィアは前世の中東系の鶏肉料理を作ることにした。中東と地中海近辺の料理の基本はヨーグルトとレモンだ。
まずは独特の薄焼きパン(フラットブレッド)を作ることにする。
ミルクに溶かしバターを混ぜ、塩を加えた小麦粉と混ぜてこねる。イースト菌を使わず、ひたすらこねるのだ。
「はい! もっと力を入れて!」
「だから、入れてるってば!」
でも、まだ足りない。翌日、筋肉痛になるくらいまで腕の力でこねまくる。
十数分後、ようやく満足できる生地になったので手を止めると、ミアがほっとしたように息を吐いた。
「では丸めて布巾を被せて三十分ほど寝かします」
「はい!」
大変良い返事のミア。
「お、やってるな! 何を作ってるんだ?」
その時、アビントン国王レオと皇帝ソロモンが厨房に顔を出した。料理長と料理人たちがピリッと緊張するのが伝わってくる。
「すまないな。仕事の邪魔をするつもりはないのだが」
「陛下、どうかお気になさらず。私どもは作業を続けさせていただきますから。陛下にご覧いただけて光栄です」
料理長は笑顔を見せた。料理人たちも張り切った顔で調理を続けている。
レオが物珍しそうにソフィアの手元を覗き込んだ。
「これはなんだ?」
「これはね、鶏肉よ。ヨーグルトのソースに漬けておいたの」
「「ヨーグルトのソース!?」」
レオとソロモンが声を合わせた。
「鶏肉をヨーグルトに漬けると柔らかくなるのよ。昨日のうちにミアと一緒に漬けたの、ね?」
「うん。ちょっと味見をしたらソースも美味しかった! 無糖のヨーグルトとすりおろしたニンニク、レモン汁と塩コショウで味付けたのよ」
「ほぉ、それは美味しそうだな、偉いぞ、ミア」
ソロモンが蕩けそうに甘い瞳でミアの頭を撫でる。「へへ」とミアが嬉しそうに笑った。
「俺の分もあるだろ? 会議が長引いて腹が減ったんだ。夕食まで待てないよ」
レオのお腹がぐぅっと鳴ったのでソフィアは思わず噴き出した。
「うん。おやつとしても食べられるから。今すぐ焼くね」
鉄板を温めながら鶏肉を串に刺していく。前世の焼き鳥のような感じだ。ヨーグルトで白くなっているけれど。
こんがりと焦げ目がつくまで焼いている間に、パンの生地を小さく丸めて麺棒を使い薄い円形に伸ばしていく。
「これくらいでいい?」
「もうちょっと薄くできる?」
「えー、破けちゃいそう……」
「大丈夫よ。破けても直せるから」
「そう?」
二~三ミリほどの厚さに伸ばした丸い生地を、熱してオリーブオイルを引いた鉄板に載せる。ジュッと心地よい音がして、オリーブオイルとバターの香りが厨房に漂い始めた。
「美味そうな匂い……」
お腹を押さえながらレオが鼻を動かした。
「ちょっと待っててね」
鶏の串を焼きつつ、薄焼きパンを器用にひっくり返す。ミアもちょっとぎこちないが、フライ返しを使って何とかひっくり返すことができた。
「はーい、できました!」
鶏肉も軽い焦げ目がついてとても美味しそうだ。その上に別に用意しておいたヨーグルトのソースをたっぷりとかける。
「このソースもめちゃくちゃ美味しいのよ! 無糖のヨーグルトにすりおろしたニンニク、塩コショウ、ゴマのペースト、レモン汁、オリーブオイルを混ぜたの」
得意げにミアが説明すると、ソロモンの目じりが下がった。
「そうかそうか、すごいな、ミアは」
もう孫を溺愛するおじいちゃん状態のソロモンである。
「やったー、いただきます!」
「うむ、いただこう。ありがとう、ミア。ソフィアも」
「ありがとう、ソフィア。ミアも」
ソロモンとレオが薄焼きパンに鶏肉を挟んで丸めてかぶりついた。
「美味い! なんだこれ! 初めて食べる味! ソフィア、すごいな!」
「うむ、これは確かに美味だな。偉いぞ、ミア」
幸せそうに食べる二人を確認して、ソフィアとミアも料理に手を伸ばした。
「ソフィア~、これめっちゃ美味しい。鶏肉がこんなに柔らかくなるんだね! それにこのパン! マジ美味い」
ミアが感動したように頬張っているのを見て、ソフィアは安心した。もし口に合わなかったらどうしよう、と心配していたのだ。相変わらずの心配性全開である。
「あ、ホント」
自分も食べてみて『良かった、ちゃんと美味しい』と小さく息を吐く。
「まーた何か心配してんのか?」
レオがソフィアの顔を覗き込んだ。
「ソフィアの料理は何でも超絶美味い! 自信持てよ! ってそういう自信のないところも可愛いんだけどさ」
「え!? 王妃なのに自信がなさそうって困らない? もっと堂々としていないと、っていつも自分に言い聞かせているよ」
「知ってる」
頭をわしゃわしゃと撫でながらレオが微笑んだ。やっぱり、顔がいい。
「人前だとソフィアは立派に王妃として務めているよ。でも、俺の前だけではさ、そういう素の顔とか弱いところを見せてくれると嬉しいな」
「え? そういうもの?」
「そういうもの。どんな弱音だって愚痴だって聞くからさ」
片目をつぶりながら言う。バッチリ決まっているイケメンだ。
「ありがとう」
「うん」
テーブルの下でレオとソフィアは互いの手を握り合った。




