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悪役令嬢は陥れられる

*今回と次回はソフィアにとって嫌な展開になります。その後は大丈夫です。


解決しない謎や不安な思いを抱えながらも、私たちの学院生活は平穏に過ぎていった。


「あれ・・・?」


私たちが教室移動をしている時に、私は自分のハンカチが見つからないことに気がついた。


「どうしたの?」


とミアに尋ねられて


「ハンカチがないのよ。どこかに落としたのかもしれないわ・・・」


と答える。


「大丈夫?心当たりがあるんなら、後で一緒に探すよ」


とミアは言ってくれたが、


「ううん。大丈夫。ブロンテ公爵家の家紋と私のイニシャルが入っているし、見つけた人がいたら届けてくれるかも・・・でも、最近物が無くなることがあって。ペンとかノートとか・・・」


と言った。


「物が無くなるとか・・・。嫌がらせかもしれないよ」


「うん。そうなんだよね」


前世でもいじめは小物を盗まれることから始まる、なんてことがあった。


「後で探すの手伝うよ。あと、何か変なことがあったらすぐに言ってね」


ミアはとても頼りになる。そして、優しい。


「うん。ありがとうね」


と御礼を言った。


結局ハンカチは見つからなかったけど、その後私物を盗まれるようなことは無くなったので、私はそのことについて忘れてしまっていた。


それよりも私にとって懸念というか不安になることが起きていたからだ。


最近、レオが上級生のローズ・フレンチという女子生徒にアプローチされている。ちなみに子爵令嬢だ。


ローズブロンドで蒼い目のとても綺麗な女子生徒で、レオを好きなことがあからさまに態度に出ている。ほっそりとした背の高いモデル体型の彼女がレオと並んで立っていると似合いのカップルに見えてしまう。胸がズキンと痛んだ。


彼女は学院の三年生で、以前同じく三年生のキャサリン・ヨーク公爵令嬢と一緒に歩いているのを見かけたことがある。私たち一年生から見ると雰囲気も大人っぽくて魅力的に見える。


ローズは生徒会役員で、レオを生徒会に勧誘したいとしきりにレオに近づいてくる。彼は物凄く不機嫌そうな顔か、全く関心がないという対応しかしていないのに、懲りずに何度もレオのところにやってくるのだ。


ある意味、強靭な精神力というか、それくらいレオのことが好きなんだなと思うと、心臓をギュッと握られたみたいに胸が痛んだ。



*****


ある日、授業の最後に先生がレオに向かってこんなことを言った。


「レオ。今日の放課後、生徒会のローズ・フレンチを手伝ってやってくれないか?」


「え!?どうして俺が?忙しいんで無理です」


「人手が足りなくて困ってるらしい。向こうからの指名だ。助けてやってくれよ」


「他にも沢山生徒はいるでしょう?どうして俺だけ狙い撃ちなんだ?」


「王太子なんだから、生徒会の作業も将来の役に立つだろうって言ってんだ。それくらいやってくれよ!」


先生もレオも徐々に苛々が高じて、本格的な言い争いになっていく。


私は不安になって思わず声をあげた。


「あ、あの。私で良かったらお手伝いしますが・・・」


そう言うと怒りで尖っていたレオの瞳が柔らかくなった。


「・・・ソフィアが一緒なら手伝ってもいい」


「私も一緒に残ります」


「僕も手伝いますよ」


「あたしも!」


ジェフリー、クリスとミアも手を挙げて手伝いを申し出てくれた。


先生は釈然としない様子だったが、私たちの申し出に異論は唱えなかった。結局レオが手伝えばいいってことかな。


放課後、生徒会室に行くとローズ・フレンチがにこやかに私たちを迎えてくれた。


「わざわざ来てくれてありがとう。助かるわ」


そう言ってテキパキと私たちに仕事を割り振った。


私たちが作業を始める中、レオに対しては


「レオには別に私の作業を手伝って欲しいの。ちょっとこっちに来て」


と肩に手を置いた。


・・・なんでそんな親し気なの?


という心の声を聞かないようにして、私は自分の作業に集中集中。


「おい。俺はソフィアの作業を手伝うから。他の奴に頼めよ。それより、他の生徒会の役員は何してんだ?」


レオは不機嫌丸出しな声でローズの手を肩から振り払った。


それにも全く動じない笑顔のローズ・フレンチ。大物だな・・・。


「今日はちょっと出払っているの。まぁ、いいわ。じゃあ、私もソフィアさんのお手伝いをするから」


と言って、私の正面に椅子を持って来て座る。レオは私の隣にピッタリとくっつくように椅子を持って来た。


気まずい雰囲気のまま作業する私たち。


私が次の書類を手に取ろうとした時に偶然にローズ・フレンチの手に触れてしまった。


「あ、ごめんなさい」


と言うと、不意に彼女が痛そうに手を押さえた。


「痛い・・・いきなり手を引っ搔くなんてひどい・・・」


と言って恨めしそうに私を睨むローズ・フレンチ。


「・・・え!?引っ掻く?」


いやいやいや、引っ掻いてなんかないし!ちょっと指先が触れただけだし!


「おい!変な言いがかりつけるなよ。俺も見ていたぞ。ソフィアはお前を引っ掻いたりしてない」


レオの言葉に、ローズ・フレンチのつぶらな瞳からハラハラと涙がこぼれた。


「そんな!いいがかりなんて・・・私嘘ついたりなんかしていません!酷いわ!」


と立ち上がって、彼女が部屋の外に出ていこうとした時に、誰かが扉から入って来た。


「おい!大丈夫か?何を泣いている?何かあったのか?」


とローズの肩を掴む男子生徒。


「あ、か、会長・・・なんでもないんです・・・気にしないで下さい」


この人が生徒会長かと思って眺めていたら、彼は私たちを睨みつけた。


「お前達はなんだ?!生徒会室は普通の生徒は立ち入り禁止だぞ!それにローズに何をしたんだ!?彼女は泣いているじゃないか!」


と怒鳴り始めた。


それを聞いたレオがキレそうになっているのを察して、クリスとジェフリーが如才なく立ち上がり、生徒会長に事情を説明する。


「え!?そんなに仕事が大量にあったのか。なんで俺たちに相談しなかったんだ?」


「会長たちはいつも忙しくて相談するのが申し訳ないと思っていたんです。それで、一年生にお願いしたんですが、無理にお願いしてしまったから、意地悪されてしまって・・・」


「なんだそれ!?おい、一年生!お前ら、くだらない意地悪するな!ローズは上級生だぞ!」


と生徒会長が怒り始めた。


レオの額に青筋が立っているのが見えて私は焦ってしまった。ここで喧嘩騒ぎなんて起こしたくない!


「あ、あの!決して意地悪なんかではないんです。私が作業中にローズ先輩の手に偶然触れてしまったせいで、ローズ先輩がご不快に思われたみたいなんです!すみません!」


生徒会長は私の顔をまじまじと見た。


「君は・・・?」


「あの・・・ソフィア・ブロンテと言います。もう私たちは退出しますので・・。お騒がせして申し訳ありませんでした」


とお辞儀をして部屋から出ていこうとした。


「ああ、お前が悪評高い公爵令嬢か?王太子のご威光を笠に着て、女生徒に嫌がらせをしているらしいな。ローズに二度と近づくなよ!」


と大声を出されて、私は恐怖で固まってしまった。


レオが生徒会長に殴り掛からないように、ジェフリーとクリスが必死でレオを押さえている。


「レオ!レオ!今お前が何かしたら結局ソフィアのせいになる!ソフィアのために抑えろ!」


とクリスが耳打ちしているのが聞こえた。


・・・やっぱり私はここでは悪役令嬢として扱われているんだな。悪評のことは聞いていたし、覚悟していたつもりだけど、こうも真正面から言われてしまうと、やはり心が傷つく。


でも、レオを押さえないといけないというのは同意なので、レオの手を引っ張りながらようやく生徒会室の外に出ることが出来た。


ミアは終始何も言わなかったけど、最後に後ろを振り返って「マジださ」と呟いた。



私たちは黙ってそのまま帰路についた。


レオは私の手を握り締めて


「ソフィア・・・ごめん」


と言った。


「なんで?私はダイジョウブだよ。それに、レオが悪いわけじゃないし」


「いや・・・ソフィアの悪い噂が広がっているのは知っていた。ずっと止めたいと思っているんだが、噂を止めるのは・・・難しい」


そりゃそうだよね。噂をするな、なんて言えないだろうし。言ったって無駄だろうし。


「本当に私は大丈夫よ」


と言ったら、ミアが私を後ろからギュッと抱きしめてくれた。私の方が背が高いから、子供がお母さんにおんぶしているみたいになるけど。


クリスとジェフリーも口々に慰めてくれる。私は信頼できる友達がいてくれて良かったな。ゲームの悪役令嬢には味方がいなかったもんね。


正直いうと落ち込んでいたから、みんなの優しさが身に沁みた。私なんかには勿体ないくらいの良い友達ばかりで、私は心から感謝した。


別れ際にレオが力一杯私を抱きしめてくれた。


「俺が王太子だからやっかんでお前に攻撃が来るのかもしれない。ごめん・・・」


というレオの声は私以上に悲しそうだった。



*****


その翌日、私が教室移動で階段を降りようとすると、ちょうどローズ・フレンチが階段を上がって来るところだった。


「ああ、ソフィアさん。昨日はごめんなさいね。私・・・ちょっと過剰に反応しちゃったかも」


と謝られて、


「あ、いえ、そんな。大丈夫です。気にしないで下さい」


と恐縮して返事をした。私はそこに悪意があるなんて想像もできなかったんだ。


次の瞬間、ローズは確かに私に向かってニヤリと嗤った。


え!?なに?と思う間もなく、彼女が動いた。


「きゃーーーーー!やめて!!!助けてーーーー!」


と突然大声で叫んだローズは・・・そのままのけぞるようにして、今昇って来たばかりの階段から落ちていった。


一瞬の出来事だったはずなのに、彼女が階段から落ちていく様子はスローモーションのようにゆっくり見えた。


気がつくと階段の一番下にローズの体が捻じれるように転がっていた。足がおかしな方向に曲がっているのを見た瞬間、私はパニックで立っていられなくなった。


なにが・・・なにが起こったの?


私は何もしてない。


彼女に触れてもいない。


彼女は自分から飛び降りたんだ。


私の目の前で・・・。


その時、逞しい腕が後ろから私を抱きしめて目を手で覆い隠した。


レオだ・・・


「ソフィア。見るな!あいつは自分で飛び降りた。俺は見ていたし、クリスたちも見ていたから大丈夫だ。あの女はお前に突き落とされたとか嘘を言うかもしれないが、俺たちは全員証人だ!」


と力強く言ってくれるレオ。


でも・・・私の直感は逆のことを告げていた。


これは絶対に簡単には終わらない。


とてつもない厄介事に巻き込まれるという予感がした。


そして、そういう予感は往々にして当たるのだ。



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