悪役令嬢は断罪される
私の嫌な予感は当たった。
ローズ・フレンチは命に別状はなかったものの、手足に数か所の骨折など重傷を負い、私に階段から突き落とされたと訴えた。
私は彼女に触れてもいないと主張したし、近くにいたレオたちもその通りだと証言してくれたが、私と親しい存在の彼らの言葉は信用に足りないと学院長は決めつけた。
更に生徒会長が、私が前日にローズ・フレンチに嫌がらせをしていたと証言し、他の生徒たちも、婚約者の王太子と仲が良いローズに私が嫉妬していたと証言した。
レオたちがどう反駁しようと誰も聞く耳を持たない。
私は学院で拘束され、更に取り調べのために王宮に送られることになった。
それからのことは信じられないことばかりで、ほとんど覚えていない。
ただ私は嵌められたんだということだけは良く理解できた。
ローズ・フレンチが何故あんなことをしたのか?
背後に誰かいるのか?
そんな疑問に頭が回らないほど、私は厳しく尋問された。誰も私の言うことを信じてくれない。
しかも、何故か私が人身売買組織と繋がって、精霊の違法取引をしていたという疑惑までかけられていると知り愕然とした。
違法人身売買組織の摘発があり、その現場で私の私物が発見されたというのだ。
証拠として、私の家紋入りハンカチやペンが押収されたという。
なんてちゃちい証拠か?と正直思ったよ。普通だったら、何の犯罪の証拠にもならないだろう。でも、取り調べ官たちは鬼の首でも取ったかのように勝ち誇る。
最初から私の有罪は決められていたんだ。
これぞ逆境という状況にあって、当初混乱していた私の頭は徐々にクリアになっていった。
これがゲームの強制力ということなのだろう。
最初から分かっていたことだ。私のこの世界での役割は悪役令嬢だと。
悪役令嬢はヒロインのミアを虐めるはずだったが、代わりにローズ・フレンチ子爵令嬢を虐めて(虐めてないけど!)それにより婚約破棄→断罪という道筋なんだと理解した。
理解した途端に気持ちが落ち着き、覚悟が出来た。
前世からそうだった。やはり人生、安心するものではない。油断していると思いがけない方向から思いがけない災難が降ってくるものだ。
常に最悪の事態に備えよというのが座右の銘じゃなかったか?
私は自分の気持ちを奮い立たせた。
今私が出来ることは、大切な人達への迷惑を最小限に減らすことだ。
私は家族やレオに会いたかったけど、誰にも面会は許されなかった。
何度も頼んでようやく面会が許されたのはジェフリーだけだった。
「ソフィア。可哀想に・・なんでこんな酷いことに・・・。絶対にソフィアを救い出します。どうか希望を捨てないで下さい」
やつれた顔のジェフリーが目に涙を溜めながら私の手を握り締める。
ああ、ジェフリーは私の無実を信じてくれている。
それだけで十分だ。心が嬉しいと叫んでいる。
「ありがとう・・・。でも、こうなる運命だったのかもしれないって思うの」
私の言葉を聞いて愕然とした表情のジェフリーは首を横に振った。
「何を言うんですか!?ブロンテ公爵ご夫妻はソフィアの無実を勝ち取るために動いています。私も、レオ達と一緒にソフィアを助けるためなら何でもする覚悟です。レオはソフィアと婚約破棄するくらいなら王太子を辞めると言っていますし、ブロンテ公爵ご夫妻もソフィアのためなら爵位も領地もいらないと・・・」
ああ、私はそれを恐れていた。
「ジェフリー、どうかみんなに伝えて。私は誰の迷惑にもなりたくないの。レオには王太子を辞めて欲しくないし、お父さまとお母さまにはブロンテ公爵家を守って欲しい。使用人のみんなのこともどうか考えて。私一人で他のみんなが助けられるなら、私はそれでいいの」
それを聞いたジェフリーの目からツーッと涙が流れ落ちた。
「ソフィア、それはダメです。どうか諦めないで下さい。私たちは何があってもあなたを助けますから・・・たとえ力づくでも・・とレオとノアも言っています」
「ダメよ。ノアは騎士団長よ。こんなことで彼の経歴に傷がついてはいけないわ。それに、レオには王太子の地位を諦めて欲しくない。私のせいで王太子を辞めるとか・・・そんなのダメだってレオに伝えてくれる?お父さまとお母さまにもそう伝えて。私は大切なみんなが幸せなら、それが幸せだから・・・」
嫌がるジェフリーをどうにか説得して、私のメッセージをみんなに伝えて貰うよう頼んだ。
その翌日、国王陛下からの使者という人がやって来た。
王太子との婚約破棄の証書に署名して欲しいと言われて、私は応諾した。
レオに迷惑をかけちゃいけない。レオは私との婚約破棄を求められて、抵抗しているのだろう。私がこれに署名すれば、レオは嫌でも婚約破棄を受け入れなくてはならなくなる。
レオを失うなんて考えられなかった。レオがいない人生を考えただけで胸が痛すぎて、息も出来そうにない。
でも・・・レオに犠牲を強いる訳にはいかない。
私は平静を装って婚約破棄の証書にサインをした。
その後、一人になってから私は泣き崩れた。私は牢獄ではないが、鍵のかかる部屋に閉じ込められ見張りも付けられている。
泣き過ぎて目が開かなくなった。
その後も私は頑なに無実を主張し続けた。すると、彼らは戦法を変えてきた。
私が罪を認める書類に署名すれば、ブロンテ公爵家はお咎め無しにしてやろうと言われたのだ。
私は激しく逡巡した。やってもいない罪を認めたくはない。でも、このままだと家族に累が及ぶと脅されて、私は最終的にそれを受け入れた。
その後、非公開の裁判が行われ、私は有罪になり、国外追放が言い渡された。
*****
判決が出た後も私は両親に面会することが許されなかった。
ただ追放される前日に、ブロンテ公爵家から私の私物をまとめたものと両親からの手紙が届けられた。
随分重いなと思いながら箱を開けると質素な服と愛読書が沢山入っていた。
両親からの手紙を開くと簡潔に「健康に気をつけて過ごすように」などと書いてあった。こういった手紙や荷物は必ず検閲される。検閲の目を気にしてなのかもしれないが、必要最低限の無機質な言葉が並んでいるだけの手紙に落胆しなかったと言ったら嘘になる。
箱の中を整理していると、服の上に小さなテントウムシのブローチが置いてあることに気がついた。
クリスが作ってくれたのだろう。私は嬉しくなってそのブローチを手に取る。お守り代わりに贈ってくれたのかな。
するとテントウムシからウィーンと小さな機械音がして、突如として光を発した。
テントウムシの光に照らされると、私が開けていた箱の中身が大きく変化した。
質素なドレスは高級なシルクのドレスに変わった。本だと思っていたものは宝石箱になり、中にぎっしり高価な宝石や金貨が詰められている。
虫の中にはカメレオンのように見た目を変えてカモフラージュ出来るものがいる。その特性をクリスは魔道具に籠めたのかもしれない。
また、箱の内部にピカピカ光る箇所があり、そこを触ってみるとポケットのようになっていて、分厚い手紙が入っていた。
それはお父さまとお母さまからの直筆の手紙で、絶対に私の無実を証明して、名誉を回復する。そしてアビントン王国に堂々と戻ってこられるようにするということと、何があっても私を愛しているということが書かれていた。
それにマリア、ロニー、料理長、ジャンなど仲が良かった使用人だけでなく、屋敷の全員が手紙を書いてくれたようだ。
それぞれ私が無実であるのにこのような仕打ちを受けていることに憤っていて、早く無事に戻ってくることを心から願っていると書いてくれている。
みんなの真心を感じて、私はまた涙が止まらなくなった。
他にもジェフリー、クリス、ノア、ミアからの温かい手紙も入っていた。彼らもみんな私の無実を晴らすために動いているから諦めるな、と書いてくれている。
また両親からの手紙には、国外追放の際に護衛騎士一名と侍女一名を連れて行っても良いという許可が下りたと書かれていた。一緒に行くと志願した者が同行する予定だとある。
もしかしてロニーとマリアかな?でも、二人とも私と一緒に追放されたら可哀想だ。明日顔を合わせたら一緒に来る必要ないって説得しないと。
私の大切な人達は私の無実を信じてくれている。それは確かな希望の光だった。
両親の言う通り、いつか私の無実が証明される日が来るかもしれない。
でも・・・そうなっても二度とレオとは一緒になれないと考えて、底知れぬ悲しみに胸が苦しくなった。
レオからの手紙は箱の中には見つからなかった。




