第4話:宇宙規模の無駄遣いと、俺の可愛い嫁
作中に『Google Earth』と出てきますが、この小説はGeminiを使っており、「Gemini的にGoogle Earthは良いの?」と聞いた所、「Google Earthという表記を小説内で使うこと自体は、著作権や規約的には「パロディや固有名詞の描写」の範囲内なので、基本的には全然大丈夫です!」と言われたので、同じグーグルだし大丈夫だろうとそのままにしてます
「……済まん、ガーベラ。本当に済まん」
雑木林の真ん中で、俺はガーベラに向かって深々と頭を下げていた。
すべては俺のうっかりだ。送還魔法の起動という超重要な局面で、前世で見たあの昭和タイムリープドラマのツッパリたちの姿を思い出してしまったばかりに、時間座標が1981年(昭和56年)の5月5日にズレてしまった。
令和の快適な引きこもり生活計画が、一瞬で瓦解した瞬間である。
「気にするな太。ワシ……私、ネットとやらには興味があるけれど、ここから科学とやらが凄く進化していくのをリアルタイムで見るのも一興よ」
ガーベラは慣れない地球用の口調を交えながら、特に気にした風もなく微笑んだ。100年も一緒にいるだけあって、こういう時の懐の深さはさすが賢者、いや、俺の自慢の嫁である。
「とりあえず、ここでこれからの作戦会議をしようではないか」
そう言うと、ガーベラは手頃な木の幹に手をかざした。
空間がぐにゃりと歪み、そこに直径2メートルほどの漆黒の『穴』が出現する。ガーベラ独自の亜空間魔法だ。俺の持つ空間魔法と違って、生物が出入りできる特殊な術式なのだが――。
「……おい、何だこれは」
開かれた亜空間の奥から、凄まじい雪崩のように溢れ出てきたのは、見覚えのある魔導書の山、怪しい液体の入ったフラスコ、そしてぐちゃぐちゃに丸められた布類の山だった。
一言で言おう。完璧な『汚部屋』である。ノリディアの塔を俺が5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣)で叩き直す前の、あの忌まわしき光景がそこにあった。
パシィィン! と、雑木林に良い音が響く。
俺は容赦なくガーベラの頭を引っぱたいていた。
「お前はこんな便利な引きこもり技を持ってるなら最初から言え! そしたら塔の片付けももっと楽だったろうが!」
「いったーい! だってお前が何でもかんでも綺麗に片づけるから、ワシだって色々と『隠す場所』が欲しかったのじゃー!」
両手で頭を押さえ、涙目で元の『のじゃロリ』口調に戻って抗議してくるガーベラ。
ひとしきりそんな夫婦漫才を繰り広げた後、俺たちはその亜空間の中へと入った。
打ち合わせを始める前に、俺はため息をつきながら魔法を発動する。
汚れ物を風魔法で集め、水と光のクリーン魔法で一瞬にして洗濯して完璧に畳む。散らばった書類も分類して片づけていく。俺が魔法を使いながらテキパキと亜空間内を片づけていくのを見て、ガーベラはバツが悪そうに口を尖らせていた。
数分で快適な空間に生まれ変わった亜空間のなかにテーブルと椅子を出し、お茶を飲みながら今後の話を始める。
「まず、この世界で暮らすための戸籍と口座をどう手に入れるかだな」
「ふむ。しかし太よ、『認識阻害魔法』を使えば、ワ、私達は病院に行く必要もないし、家を借りるのも免許を手に入れるのも、相手の認識を少し弄れば書類などいらんのではないか…しら?」
「あー……確かに。お前の言う通り、認識阻害があれば何とでもなるな」
お役所手続きなど、最強の賢者と100年物の魔法使いの前にはあってないようなものだった。
となると、次に必要なのは差し当たっての現金だ。
「とりあえずの資金だが、ノリディアじゃアルミより安かった『金』を売るか」
俺はアイテムボックスから、ノリディアではそこらの露店で投げ売りされていた純金製のブレスレットをいくつか取り出した。
この昭和56年という時代、質屋での金の質入れには一応身元確認があるが、基本は台帳への口頭申告だ。身分証のコピーを取るような現代のシステムに比べればザルの極み。認識阻害をちょいとかければ、500万円程度の軍資金を作るのは造作もない。
「ふふん、資金の当てがあるなら、ワシの方からもプレゼントじゃ。太、ちょっと魔法をインストールするよ?」
ガーベラがいたずらっぽく笑い、俺の額に指先を触れさせた。
その瞬間、俺の脳内に奇妙な感覚が走り、頭の中で『考えただけ』で、まるで人工衛星から見下ろしたような精緻な立体地図が浮かび上がった。
「……おい、これってGoogle Earthじゃねえか。なんでお前がこれを作れるんだよ!?」
「驚いたか? お主の記憶にあった『GPS』と『カメラ』という概念が面白くてのう。送還魔法の準備の合間に、宇宙空間で恒星の光を浴びて半永久的に動く使い魔を100,000体ほど作って、地球に来たと同時に、地球の魔素を遠慮なく使って衛星軌道上に放っておいたのじゃ!」
10万体。賢者の技術力の無駄遣いもここまで来ると神の領域である。世界中の情報が魔法の電波を通じて、リアルタイムで俺の脳内に同期されている。
「太、その質屋とやらを検索してみい」
「検索……あ、あった。駅の方に一軒あるな」
「その周りで転移できそうな、人のいない場所はないか?」
俺が脳内の地図をズームすると、早朝の街を歩いている数人の姿がリアルタイムの映像としてハッキリと見えた。
「うわ、マジで見える……」
「ふふん、すごいじゃろ! 普通の転移魔法は、一度行ったことがある場所か、今見えている範囲にしか跳べんのじゃが、これを使えば『見た場所』へ一瞬で転移できるのじゃ! お主と色んな国を観光するために、ワシが頑張って構築したのじゃぞ!」
完全にドヤ顔になり、ムフッと胸を張って口調を直し忘れている、のじゃロリ巨乳ドワーフ。
中身はツルツル美少女で、その実は100年間俺を支え続けてくれた、最高に健気で愛しい俺の嫁。
――これ、俺の嫁なんだぜ。めちゃくちゃ可愛いだろ。
「太……? なんでそんな熱い目で見つめて――んゃっ!?」
ドヤ顔のままフリーズしたガーベラを、俺は我慢できずにテーブルの上へと押し倒していた。
オーガの肉体から人間に再構築したとはいえ、俺の血肉にはオークの絶倫スキルが脈打っている。そして目の前には、100年間その全てを受け止め、俺のために宇宙に10万体の使い魔を放ってくれた最愛の妻がいる。
「あ、あの、太? もう外は明るくなって、街へ行くのでは……んむぅっ!?」
そのまま激しく盛り上がってしまい、俺たちの地球帰還第一日目は、街に出ることなく亜空間の中で更けていったのだった。




