↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの元ヤンと最強賢者嫁、80年代の地球でやりたい放題バカンスを満喫する〜  作者: だい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/34

第三十話:ノストラダムスの呪いと、計画通りの生贄

登別温泉の広々とした和室。

温泉の熱気と、それ以上の熱を帯びた激しい夜の営みを終え、俺たちは乱れた布団の上で心地よい疲労感に包まれていた。

右腕には紗季が、左腕にはガーベラが、それぞれ満足げな表情で身を鳥のように寄せてきている。


「ふう……。太さんって、いつも本当に元気ですよねぇ。底なしの体力というか……」

紗季がとろんとした目で俺の胸板を指先でなぞる。


「うむ。お前は本当に『生』の力……生命力そのものに満ち溢れておるな。我らオーガすら凌駕するタフさじゃ」

ガーベラも俺の首筋に顔を埋めながら、感心したように呟いた。


「まあな。昔は『どうせ三十歳くらいで死ぬんだ』って本気で思ってて、逆に命を粗末にしてたからさ。今こうして生きてるのが不思議なくらいだよ」


俺が天井を見上げながらそうこぼすと、二人がバッと顔を上げた。


「……三十歳で死ぬ? 主よ、それはどういう呪いじゃ?」

「太さん、何か不治の病にでもかかっていたんですか!?」


「いやいや、違うよ。俺個人の話じゃなくて、当時の日本の若者……いや、世界中の連中が、本気で『一九九九年に人類は滅亡する』って信じてた時代があったんだ」


俺は、小学校に入る前くらいに発売され、思春期の頃に大ブームになった一冊のベストセラー本『ノストラダムスの大予言』について説明した。

「一九九九年七の月に恐怖の大王が来る」という予言を真に受けた当時の若者たちは、「どうせ頑張っても三十歳で世界が滅びて死ぬんだから」と、刹那的で破滅的な生き方をする奴が多かったのだと。


「なんじゃと……? たった一冊の書物のせいで、地球全体が『死への集団催眠』にかけられておったというのか!?」

「当時の地球、恐ろしすぎます……」

異世界最強の魔女と、魔王を倒した勇者一行の聖女が、昭和〜平成初期の地球の狂気的な時代背景にガタガタと震え上がった。


「俺も当時はバンドをやっててな。米軍基地の使ってない倉庫に忍び込んで勝手にライブやって、MP(軍警察)に追われて逃げ回ったりしてたよ。『どうせ死ぬんだし、やっちゃえ!』ってノリでさ」


「主よ……それはただの命知らずの馬鹿じゃろ。しかし、それほどまでに危険な日々を送っておったなら、当然痛い目にも遭ったのではないか?」


「まあな。……これはあくまで『俺の知り合いから聞いた話』なんだけどな?」

俺はわざとらしく咳払いをしてから、とっておきのヤバい話を語り始めた。



♦



「俺の知り合いのパンクバンドの奴が、米兵から『色々危ないモノ』を仕入れて、ライブハウスやクラブで売ってたんだよ」

「ほう。闇ギルドの密輸商人じゃな」


「そしたら、本職……つまりヤクザ者が『みかじめ料』を払えって脅してきてな。そいつらは『わかりました! ではこちらの非常階段で!』ってヤクザを誘導して、そのまま階段から突き落としたんだ」

「……えっ?」


「で、下で待ち構えてて、落ちてきたヤクザをビールケースでタコ殴りにした。そしたら相手の舎弟が刃物を出してきたもんだから、一緒にいた奴が『拳銃』を撃っちゃってさ」

「……」


「当然、ヤクザの逆鱗に触れて、後日そいつらはベンツで思い切り撥ねられた。で、一人はそのまま車に乗せられて拉致されたんだけど、もう一人は『通行人がいて攫うのが面倒だったから』って理由で放置されたんだとさ」

「理不尽すぎるじゃろ!!」


ガーベラがたまらずツッコミを入れた。


「で、拉致された方はヤクザの事務所に連れ込まれて、木刀やゴルフクラブでフルスイングでボコボコにされたらしい。そいつは気を失ったふりをして、相手が油断した隙に、三階の窓から決死のダイブをして逃げたんだ」

「三階から!? オーガでも骨が折れるぞ!?」


「人生最速のスピードで走って逃げ切ったらしいんだけど、次の日『走ったから足首がすげえ痛てえな』と思って病院に行ったら、医者に『足首折れてますけど……それよりも、頭蓋骨と顔面が割れてますよ』ってドン引きされたんだとさ。笑えるよな」


俺がアハハと笑うと、ベッドの上の二人は顔を引きつらせていた。


「……主よ。その『知り合い』の頭蓋骨の傷……お前の頭にある傷と、全く同じ形をしておるんじゃが?」

「太さん、異世界に来る前から物理的におかしくないですか……。ゴルフクラブで頭を割られて、足首の痛みしか気づかずに走って逃げるなんて、完全に魔獣の生態ですよ……」



♦



「まあ、物理的な暴力も痛いけどさ。本当に怖いのは人間……女なんだぜ?」

俺は頭の傷を撫でながら、話題を変えた。


「昔、ものすごく美人の彼女と付き合ってた時の話だ。ある夜、彼女の部屋で寝ていて、ふと薄目を開けたら……大粒の涙をボロボロ流した彼女の手が、俺の首にガッツリかかってたんだよ」


「ヒッ……!!」

紗季が俺の腕にギュッと抱き着いて震えた。


「『ヤバい、目を開けたら殺される!』って本能で悟ってな。寝たふりをしたまま、寝返りを打つ自然な動作を装って、ゴロンと体の向きを変えて華麗に回避したんだ」

「なんというギリギリの攻防じゃ……。魔法の撃ち合いより精神をすり減らしそうじゃな」


「だろ? 流石に命の危機を感じて別れようと思ったんだけど、中々別れてくれなくてさ。思い切って彼女の両親のところに直談判しに行ったんだよ。そしたら……」


俺は言葉を区切り、溜めを作った。


「彼女の親父さんとお袋さんが、俺の手をギュッと握りしめて、震える声でこう言ったんだ。『お願い……逃げて!』って。おまけにお金まで渡されそうになったよ」

「ま、魔王より、魔獣より、ヤクザより……お義父さんとお義母さんが一番怖いです……!!」

「実の親から『逃走資金』を渡される女とは……。地球の雌は恐ろしすぎる……!」


「で、どうやって逃げたんですか!?」

紗季が身を乗り出して聞いてきた。


「ああ。俺の後輩で『太さんの彼女、めちゃくちゃ美人ですねぇ!』って羨ましがってた奴がいてな」

「はい」

「飲み会で彼女が酔い潰れた時に、その後輩に『ガンバ!』って彼女を丸投げして、俺はそのまま全力で逃げたんだ。そしたら彼女、見事に後輩の方に乗り換えてくれたよ」


「…………えっ?」

「…………」


二人はぽかんと口を開けた。


「……主よ。お前、自分を慕う可愛い後輩に、その恐ろしい『呪いの武具』を押し付けて生贄にしたのか……!? 勇者どころか、外道の所業じゃな!!」

「太さん……ひどい……。でも、その後輩さんも、太さんの彼女ってわかってるのに手を出したってことですよね……?」


「まあ、そういうことになるな。いくら据え膳でも、先輩の女には手を出さないって選択肢もあったはずだからな」


「なるほど……ひどいと思いましたけど、結局欲に負けて手を出したなら、その後輩さんの自業自得ですねぇ……」

紗季がウンウンと納得したように頷く。


「うむ。男の性欲とは、時に自らの命すら天秤にかけてしまう愚かなものよな。主はただ、後輩に『試練』を与えただけじゃ」

ガーベラも腕を組み、深く頷いて太の行動を正当化した。



(……計画通り)



俺は内心で、新世界の神のような邪悪な笑み(ニヤリ)を浮かべていた。

後輩の若さゆえの性欲と義理堅さを利用し、合法的にターゲットを逸らしてヤンデレ魔物から逃亡。

さらに今、異世界最強の嫁たちに「あれは後輩の自業自得」と結論づけさせることまで……すべては俺の盤上(手のひらの上)の出来事である。


「まあ、そんな世紀末みたいな狂った世界を生きてきたからさ。今こうして、お前たちみたいに可愛くて優しい女たちと、安全な布団の中で抱き合って生きてるのが、最高に幸せなんだよ」


俺が両腕に力を込めて二人を抱き寄せると、紗季は「太さん……っ」と嬉しそうに目を潤ませた。

だが、ガーベラは俺の顔を見上げ、妖艶かつ底知れぬ暗黒微笑を浮かべて耳元で囁いた。


「……我らはお前を殺しはせんよ。だがな、太。我らの方が、その首を絞めてきた女よりも『愛が重い』自信があるぞ?」


「……っ!」


登別温泉の平和な布団の中。

ヤクザのゴルフクラブよりも、三階からのダイブよりも恐ろしい『最強の嫁』の宣言に、俺は少しだけ背筋を凍らせるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。