第二十三話:ススキノの鉄火場と、悪魔のダブルアップ
アメリカでの壮絶なキャノンボールから数週間後。
日本へと戻り、のんびりとした日常を謳歌していた俺たちは、ドライブがてら北海道の室蘭市へと足を伸ばしていた。
鉄の町として栄えた室蘭。そこの少し古びた喫茶店に立ち寄ってメシを食った時、ガーベラがあるモノに食いついた。
「む? 太よ、この机のガラスの下にある画面はなんじゃ? トランプの絵が描いてあるが」
それは、八〇年代の日本に無数に存在した『テーブル筐体のポーカーゲーム(あるいはジャンピューター)』だった。
風営法の改正でゲーム喫茶への締め付けが厳しくなっていく時代だったが、この室蘭という変な町では、普通の喫茶店に堂々と賭博機が置かれ、当たり前のように現金が賭けられていた。
一見の客だろうが関係ない。例えば店主に向かって「五十点おろして」と隠語で言えば、ゲームの五十クレジットと引き換えに、現金で五千円がポンと払い戻されるのだ。当時中坊だった俺でさえ、学校をサボってはジャンピューターに興じて小遣いを稼いでいたほどの、おおらかな(というより無法な)時代だった。
「おお! スリーカードじゃ! 太、点数が増えたぞ!」
ガーベラは見よう見まねでポーカーをプレイし、持ち前のビギナーズラックであっという間に五十点を稼ぎ出した。さらに『ダブルアップ(勝った点数を賭けて倍率を上げるゲーム)』を成功させ、点数は一気に百点になった。
「よ、よし! もう一回ダブルアップじゃ!」
「おいおい、一回勝ったんだから、その辺でやめときなよ」
鼻息を荒くするガーベラの手を、俺はサッと掴んで止めた。
実は昔、俺も喫茶店でバイトをしていたことがある。だから知っているのだ。店のカウンターの奥には『かわし』と呼ばれる遠隔操作のボタンがあり、店側がそれを押せば、客は絶対に勝てない仕組みになっているということを。
今回は、ガーベラという見慣れない美人の外国人(風)が珍しかったから、マスターが気まぐれに一度だけ勝たせてくれたのだろう。
イカサマはイカサマだが、コーヒー代の足しにして楽しむくらいなら良いだろう、というのが俺の考えだった。
「マスター、百点おろして」
「はいよ。兄ちゃん、彼女になんか美味いもんでも食わしてやりな」
カウンターのマスターと目配せをし、俺は一万円を受け取って店を出た。
「こりゃあ面白いのう! 座っているだけで金が増えるとは!」
「そりゃ良かったな。まあ、基本的に負けることの方が多いんだから、勝ち逃げしときな」
俺は笑ってそう忠告した。
……これだけで終わっていれば、ただの楽しい思い出話だったのだが。
♦
札幌に戻ってから数日後。
俺は、ガーベラの様子がおかしいことに気付いていた。コソコソと出かける日が増え、帰ってきた時の表情が、やけにハイテンションだったり、逆にこの世の終わりのようにドヨンと暗かったりするのだ。
(まあ、あのポーカーにハマって、どっかの喫茶店に通ってんだろうな)とは薄々察していたが、彼女は腐るほど金を持っているし、多少の遊びならと見て見ぬふりをしていた。
だが、その日の夜。ガーベラはひどく落ち込んだ様子で、俺の前に正座をした。
「……太よ。少し、相談に乗ってほしいのじゃが」
話を聞くと、こういうことだった。
ガーベラが通い詰めていた札幌のゲーム喫茶で、たまたま相席になった主婦の女性――紗季という人と仲良くなったらしい。
ガーベラがアメリカのキャノンボールで買ってきたブラウスの話などで盛り上がり、喫茶店で会えば話す友人になった。だが、ガーベラがいつも熱中しているポーカーに紗季も興味を持ち、見よう見まねでプレイしたところ、ビギナーズラックで五万円も勝ってしまったのだという。
普通の主婦にとって、五万円という臨時収入の魅力は凄まじい。それ以来、紗季はガーベラと並んでゲームをするようになり、気が付けばガーベラがいない日でも一人で店に通い詰めるようになっていた。
そして今日。手持ちの金が尽きた紗季は、店のマスターに頼み込んでクレジットを入れてもらい続け、結果として『三十万円』もの借金を作ってしまったのだと泣きついてきたのだ。
「わしはお金に困っておらんから良かったが……『これ、楽しいぞ』と勧めてしまった手前、責任を感じておるのじゃ。三十万ならわしが払ってやろうと思うのじゃが……このままだと、あの娘はまた借金をしてゲームをするのではないかと思ってな。何かいい知恵はないか?」
ししおどしのように首を垂れる最強の魔女に、俺はため息をついて缶コーヒーを置いた。
「ハッキリ言うが、紗季さんの借金は自業自得だ。お前が勧めたって言っても、ただ感想を言っただけで強制したわけじゃない。借金を肩代わりしてやるのは簡単だが、払った時点で対等な友人には戻れないぞ? それに、借金をチャラにしてもらったら、ギャンブル依存症の人間は『また負けても誰かが払ってくれる』と思って必ずまたやる」
ガーベラが、ズキーンと胸を押さえてさらに項垂れた。
「それにしても、三十万か……。なあ、その紗季さんって人、美人か?」
「うむ。男好きする、それはそれは立派なグラマーさんじゃの」
「あー、こりゃ完全に狙われたな」
「……なんじゃと?」
「最初に五万勝たせたのも、手持ちがないのに快くツケでゲームさせたのも、全部最初から『狙って』やってんだよ」
俺がそう言うと、ガーベラは驚きで顔を上げた。
「最初に千円でも負けたら、普通の主婦は『もったいない』と思って二度とゲームなんてしない。でもな、最初に『まんじゅう』を食わせたら、脳汁が出て快感を忘れられなくなる。そこから勝ったり負けたりを繰り返させて、最終的に大負けさせて借金漬けにする。イカサマ博打の初歩だろ?」
「イ、イカサマじゃと!?」
「そりゃそうだろ。異世界だって、賭場なんてイカサマがほとんどだったろ? こっちの世界も同じだよ。ゲーム機の元締めはヤクザなんだからさ」
俺は呆れながら解説を続けた。
「喫茶店はヤクザに場所を貸して手数料をもらってるか、そもそも喫茶店自体がヤクザの直営だったりする。で、借金まみれになった美人の主婦はどうなると思う? 体を弄ばれた挙句、風俗に沈められて売らされるんだよ。男の借金を回収するより手っ取り早くて儲かるからな。旦那にも言えないだろうし、骨までしゃぶるつもりだろ」
俺の言葉に、ガーベラの顔色が一気に青ざめた。
「連中、最初はお前に目を付けてたんだろうが、お前がいくら負けても痛くも痒くもない金持ちだって分かって、ハメられないと悟ったんだ。だから、お前の隣にいた普通の主婦にターゲットを変えたんだろ」
「そ、そんな……わしのせいなのかの……」
完全に意気消沈し、今にも泣き出しそうなガーベラ。
最強の賢者様も、地球の裏社会のねっとりとした悪意には免疫がなかったようだ。
俺は仕方ねえなぁと頭を掻き、立ち上がった。
「よし、分かった。お前が楽しそうにしてたからって、イカサマの仕組みをちゃんと教えなかった俺も悪かったからな」
「太……」
「その店に連れて行きな。――博打の借りは、博打で返そう」
♦
俺たちは車を飛ばし、夜のススキノの路地裏にある喫茶『サルビア』へとやってきた。
だが、店の前に着いたガーベラが首を傾げた。
「うん? おかしいのう。ここは年中無休の二四時間営業のはずじゃが……」
店の入り口のドアには『CLOSED』の札がかかり、窓には分厚いカーテンが引かれて中の様子が見えないようになっていた。
ガーベラがそっと窓ガラスに耳を当てると、中から微かな声が聞こえてきた。
『……や、嫌です! やめてください!』
『いいから大人しくしろ! 三十万の借金、体で払ってもらうって言ってんだよ!』
下劣な男の怒声と、布の裂ける音。
俺がドアノブに手をかけようとした、その瞬間だった。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
俺の横から弾丸のように飛び出したガーベラが、施錠された分厚い木製のドアを、蹴り一発で蝶番ごと粉砕して店内に突入したのだ。
「紗季ちゃん! 大丈夫かの!!」
「ガ、ガーベラさんっ……!」
薄暗い店内。ポーカーの筐体の上に押し倒されていたのは、ブラウスの胸元を無惨に破られ、頬を赤く腫らして涙を流すグラマーな美女――紗季だった。
その上に馬乗りになっていたパンチパーマのチンピラと、カウンターでニヤニヤと笑いながらビデオカメラを回していた兄貴分のヤクザ、そして店のマスターが、突然の襲撃に呆然と立ち尽くしている。
「……お前ら、全殺しじゃ」
ガーベラの瞳孔が縦に割れ、圧倒的な殺意が店内の空気を凍りつかせた。
彼女はニヤニヤと笑いながら、馬乗りになっていたチンピラに歩み寄った。
「て、てめぇなんだこのアマッ!」
「お前が代わりに、犯されてみるか?」
チンピラが振り上げた右手の指を、ガーベラは事も無げに掴み――ボキボキボキッ! と、五本まとめて手の甲の側へとへし折った。
「ギャアアアアアアアアッ!?」
絶叫して膝から崩れ落ちようとするチンピラの頭をガシッと掴むと、そのまま横のレンガ作りの壁へと、フルスイングで顔面を叩きつけた。
メチャッ、という嫌な音と共に、顔面の骨と前歯が砕け散る。
さらにガーベラは、白目を剥いたチンピラの左腕を掴むと、手首、肘、肩の関節を順番に『逆方向』へとバキバキと折り畳み、綺麗に背中へとまとめてみせた。手を離すと、チンピラは声も出せずに泡を吹いて気絶した。
「なっ!? てめぇ、ぶっ殺すぞ!!」
カウンターにいた兄貴分がドスを抜いて飛びかかってきたが、ガーベラは避けることすらしない。
迫り来る男の股関節に、正面から容赦のない前蹴りを両足に一発ずつ叩き込んだ。
「あぐぱッ!?」
ゴキャッ、という鈍い音と共に股関節が完全に外れ(あるいは砕け)、這いずるように床をのたうち回る兄貴分。
ガーベラは冷酷な笑みを浮かべたまま、その男の膝関節、足首の関節を、上から順番に体重をかけてメキリ、メキリと踏み折っていった。
「ギ、ヒィィィィィィッ!! お、お助けェッ!!」
骨が折れる凄惨な音と、哀願するヤクザの悲鳴だけが、静かな喫茶店に響き渡る。
紗季とマスターは、あまりの恐怖に声すら出せず、ガタガタと震えながら抱き合わんばかりに怯えていた。
(……やべえ、いくらなんでもガーベラのやつ、やりすぎだろ)
俺はため息をつきながら店内に足を踏み入れ、わざとらしく大きな声を出した。
「あー! あー、ガーベラってば、合気道で関節を外したんだなあ!(棒読み)」
俺はそう言いながら、床に転がるヤクザたちの体をポンポンと叩き、関節を嵌めるフリをして『治癒魔法』を流し込んだ。完全に治すわけではなく、折れた骨をくっつけつつ、ズキズキとした痛みだけが長期間残るように絶妙に調整してある。
「オイ、そこの」
俺が声をかけると、マスターとヤクザたちはビクッと肩を震わせた。
「お前ら、この紗季って女をハメたんだろ?」
「は、はいぃぃっ!」
「まあ、イカサマも博打のうちだからどうこう言うつもりはねえが。――『今日』は、イカサマなしだ。それが嫌なら、話はここで終わり。普通にお前らを物理的に叩き潰すが……どうする?」
俺はそう言うと、近くにあった百キロ近いポーカーのテーブル筐体を両手で軽々と持ち上げ、そのまま『メキメキメキッ!』と万力のような握力でガラスと鉄のフレームを握り潰した。
バチバチと火花を吹いてひしゃげるゲーム機を見て、ヤクザとマスターは首がちぎれるほどの勢いでコクコクと頷いた。
「さてっと。紗季さん、で合ってるか?」
「は、はいぃっ!」
怯える紗季さんに、俺は破れたブラウスを隠すための上着を投げてやった。
(ガーベラといい、この紗季って女といい、地球の裏社会に騙されるなんてチョロすぎだろ……)とは思ったが、口には出さない。姉に理不尽に鍛えられてきた俺は、女性に対して余計な一言は言わないよう学習しているのだ。
「ガーベラから事情は聞いた。借金を払ってやるのはやぶさかじゃないんだが、そもそもアンタも悪いしな」
「……はい」
「だけど、このままじゃ困ってるみたいだから、一つ提案だ」
「な、なんでしょう……?」
「博打の借りは、博打で返せ。タネ銭(軍資金)は俺が貸してやる。今日はイカサマを使わせないから、アンタ自身の手で勝負しろ。もし負けたら、借金は肩代わりしてやるが、貸したタネ銭分を上乗せして俺に少しずつ返せ。――勝てば、借金は無くなる。ただし、どっちに転んでも、今日を最後に博打はキッパリやめろ。分かったか?」
紗季さんは、大きな瞳を潤ませて俺を見つめた。
「どうして、見ず知らずの私にそこまでしてくれるんですか?」
「ガーベラがな。せっかくできた友人のアンタが、自分のせいで地獄に落ちたとか言って泣きそうな顔してんだよ。あいつが笑ってないと、俺も楽しくないからな。……あと、紗季さんが綺麗でグラマーだから、つい良いカッコしたくなっただけだよ(笑)」
俺がウィンクをすると、紗季さんの頬がポッと赤く染まった。
「奥さんに怒られますよ……」
「聞こえとるぞ、太! ……それで、どうするのじゃ? 三十万もの借金じゃから、いくらイカサマがなくても取り返すのは中々難しいじゃろ?」
「まあ、任せとけって」
俺は、ガクガクと震えているヤクザとマスターに向かって凄んだ。
「今日はカウンターの『かわし』のスイッチには一切触るな。完全な確率勝負のイカサマなし。オーケー?」
「お、オーケーです!」
「時間は、これから昼までの二時間だ」
「わ、分かりました!」
「――そして、レートは『一点、一〇〇〇円』な」
!!!
その瞬間、ヤクザ三人と、紗季さんの顔が完全に固まった。
当時のゲーム喫茶のレートは、高くても一点百円。それが一点千円ということは、ワンプレイ(5点)回すだけで5千円が吹き飛ぶ、文字通りの狂気のレートである。
「アァン? なんか文句あるのか?」
「い、いえええぇぇぇっ! とんでもございません!」
泣きそうなヤクザたちを尻目に、悪魔の高レートギャンブルが幕を開けた。
ゲーム機に万札を直接入れることはできないため、マスターにクレジットを入れさせ、俺が手持ちの万札の束をテーブルの上にドンッ、ドンッと積んでいくスタイルだ。
「よし紗季さん、打ちな!」
「は、はいっ!」
たった二回ゲームを回しただけで、一万円が飛んでいく。
尋常ではないプレッシャーの中、紗季さんの震える手がボタンを叩く。
「……ツーペア!」
「よし、叩け! ダブルアップだ!」
勝った点数を賭けて、次に出るトランプの数字が『ビッグ(8以上)』か『スモール(7以下)』かを当てる、単純にして最もヒリつく二分の一の勝負。
三回連続で成功すれば、それだけで八万円の払い戻しである。
「き、きましたっ! 八万です!」
だが、確率は残酷だ。一時間ほど経過した頃には、俺が貸したタネ銭は十万ほど凹んでいた。
そんな中、紗季さんの画面に『スリーカード』が揃った。三回のダブルアップに成功し、点数は百二十点。現金換算で十二万円だ。
ここで紗季さんは、汗を拭いながら勝負に出た。
「……ビッグ!」
ピロリンッ!
成功。二百四十点、二十四万円。タネ銭のマイナスを差し引いても、十四万の浮きだ。
あと一回成功して四十八万円になれば、ヤクザへの三十万の借金を全額返済し、俺へのタネ銭も返して完全勝利となる。
「い、いきます……スモ……いや、ビッグ!!」
ブブーッ。
無情なハズレ音が響き、画面の点数がゼロになった。
四十八万円が、一瞬にして紙屑に変わった瞬間。
「あぁっ……!」
紗季さんの背中がゾクゾクと粟立ち、お尻の辺りがキュッと締まり、全身からスッと力が抜けた。
冷や汗をダラダラとかいているのに、彼女の脳内では未体験の大量の『脳汁』がドバドバと分泌され、失禁しそうなほどの微かな快感すら感じていた。
(もう、やめよう。これ以上やったら、私、人間じゃなくなる……!)
紗季さんが震える手で席を立とうとした、その時。
俺はスッと、分厚い百万円の札束の帯を、彼女の胸の谷間にねじ込むように押し当てた。
「さあ、惜しい惜しい。もうちょっとでイケるぜぇ、紗季ちゃん」
耳元で囁く俺の声は、まぎれもなく地獄の悪魔のそれだった。
俺は当初の「友人を救う」という崇高な目的を完全に忘れ去り、綺麗なグラマー主婦がヒリヒリとした高レート博打のプレッシャーで『ハァハァ』と身悶えている姿を見るのが楽しくて仕方がない、ただのド変態エロオヤジと化していたのだ。
「ふぁっ……! は、はいぃっ……!」
俺の与えた百万のタネ銭により、紗季さんは完全に博打の沼へと沈んだ。
そこからさらに負けが込み、時計の針が昼の十二時を指そうとしていた、残り数分の土壇場。
ついに、彼女の画面に最強の役が降臨した。
『フルハウス』
初期配当の時点で、数十万の価値がある大物だ。
「……ダブルアップよ」
紗季さんの目は完全にトロンと濁り、口元からはツゥーッと涎が垂れそうになっていた。
彼女は、何かに憑かれたように『ダブルアップ』ボタンと『ビッグ』ボタンを交互に連打し始めた。
ピロリンッ! ピロリンッ! ピロリンッ!
連続する正解音。点数が倍々ゲームで跳ね上がっていく。
そして。
――ピーーーーーーーーーーーーッ!!
店内に、けたたましい振り切り特有のアラーム音が鳴り響いた。
画面に表示された点数は『9999』点。
カンスト(上限)。一点千円のレートで計算すると、実に『九百九十九万九千円』の払い戻しである。
「あ、あぁぁぁぁぁぁっ……♡」
紗季さんを見ると、ブルッと全身を激しく震わせ、完全にイッてしまったような恍惚の表情で天を仰いでいた。
「……おーい、紗季さん?」
俺が声をかけた途端、彼女は獣のように飛びかかってきて、俺の首に腕を回して熱烈に抱きついてきた。
その表情は、完全に発情したメスのそれだった。
そのまま唇を奪われ、押し倒されそうになったが――。
「こらっ! 紗季、お主は何をしとるんじゃ!!」
激怒したガーベラが、俺の襟首を掴んで強引に引き離してくれたおかげで、事なきを得た。
「ふぅ……危ない危ない。おう、お前ら。金出せ」
俺がヤクザたちに手を差し出すと、顔面蒼白のヤクザが震える声で懇願してきた。
「む、無理です! ウチの店は、払い戻しの上限が百万までってルールでして……!」
「アァン? てめぇらの周りの人間、親兄弟から極道の親分まで、全員を物理的に不幸にしてやろうか?」
俺が笑顔でポーカーのボタンを指先だけで粉々に砕いてみせると、ヤクザたちは泣きながら店の金庫を開け、九百九十九万円の現金をかき集めてきた。
紗季さんの借金三十万を差し引き、残りの現金をボストンバッグに詰め込む。
そして店を出る直前、ガーベラが『記憶操作』の魔法を発動し、ヤクザたちと紗季さんの脳内から「ガーベラの暴力」や「ヤクザの脅迫」といった後腐れになりそうな厄介な記憶だけを綺麗に消去しておいた。
♦
店を出て、真昼のススキノの太陽を浴びる三人。
「ガーベラさん、太さん。本当にお世話をお掛けしました」
「まあいいよ。これで借金も無くなったんだ。これに懲りて、博打はもうやめな」
俺がボストンバッグの中から紗季さんの取り分(タネ銭を引いた勝ち分)を渡すと、彼女は複雑な表情でそれを受け取った。
「……そのつもりなんですけど。私、博打以外で、あんなに『気持ちいいこと』がこの世にあるんでしょうか……? 他に熱中できるものを探さないと、またウズウズして、フラッとゲームしに行っちゃいそうで……」
頬を紅潮させ、太ももをモジモジと擦り合わせる紗季さん。
俺とガーベラは、顔を見合わせた。
このままでは、彼女は間違いなくまた裏社会のギャンブルに手を出して破滅する。
ならば、荒療治しかない。
「――あるぜ。博打より、ずっと気持ちいいことがな」
「太よ、このグラマーさんには、わしらの『夜のダブルアップ』をたっぷり教えてやる必要があるのう」
俺たちは紗季さんの両腕をガシッと掴むと、そのままソアラの助手席に押し込み、ガーベラが大好きなススキノの豪華なラブホテルへと直行した。
オーガの肉体を持つ俺の絶倫パワーと、ドワーフの無尽蔵のスタミナを持つガーベラに、さらに肉体改造によるガーベラの『ふたなり攻め』の三P。
2時間後。
「……もう、これでいいかもぉぉぉ……♡」
完全に骨抜きにされ、白目を剥いてベッドに沈んだ紗季さんは、見事にギャンブルの快感を『別の快感』で上書きされ、二度と喫茶店でポーカーを打つことはなくなった。
その代わり。
彼女が定期的に、俺とガーベラの住むマンションの寝室へとウズウズしながら訪ねてくるようになったのは、また別の話である。
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相変わらず、一話の長さを減らせない作者です(笑)
すいませんが、今後しばらく毎週月曜日の公開とさせてください
最低一週に一話で、書ける時は随時更新します。
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