第2話:ヒゲとボインと男と女
同居して1ヶ月
ガーベラの家である塔は、かなりの変貌を見せた。
足の踏み場もなかった居間は、座り心地の良いソファを入れて、床には、触り心地の良いラグを敷き詰めた快適空間に。
研究室に積み上げられていた書籍は、分類されて書棚に収められていく。足りない書棚は俺がDIYをして作った。
散らかっていた書類も、集めてファイル化し、俺がわかるような経理や発注なども、会社員時代に身に着けたスキルで片づけていく。
途中では、ガーベラの部屋の隅に押し込まれていた汚パンツを見つけ、泣きながら返してくれと言っていたが、俺は一切の容赦なく、洗濯板でパンツを洗いあげてやった。
コイツは何でもかんでも、部屋の隅に突っ込んで見えないように隠してやがるんだよね。
料理の方も、長い独身時代で身に着けたスキルが役立つ。
香辛料は片づけたら普通に出てきたので、ポトフやとんかつ、生姜焼きを作ってやった時はガーベラは、しばらく見つめて匂いを嗅いだ後に、大喜びでドワーフらしく酒を飲みながら食べて泣いていた。
ポーション用の薬草と香辛料からカレーを作ったら、ガーベラがその味にドはまりした。そしてカレー自体を肉体・魔力強化できるように魔改造しだしたのだ。
まあ、料理に興味を持ったのは良い事だが、食べると強化がかかりすぎて危ないので禁止にした。
唐揚げを食べた後には、唐揚げ用に羽毛が無い鳥を魔法で作り出し、塔で飼ったりもしてたが気持ち悪かったのでやめさせた。
生活面はかなりポンコツなガーベラだが、賢者と呼ばれるだけあって、魔法理論や魔法具については他者の追随を許さないくらいの成果を上げているらしい。
そのせいで他国から狙われてしまい、こうして塔に引籠ることになったのだが、国から毎月物資や試料は届くし元々研究以外に興味もないのでガーベラは特に不満もなく過ごしていた。
日々の研究も自分の気が向くままに行い、研究結果は国に渡して何に使うか、どんな利益産むかも興味もなかった。
だが、俺を誤って召喚してしまったことで、地球への興味が出てきて、俺を地球に帰すついでに、自分も地球について行くという願望が出てきたらしい。
「ワシもお主について行って良いかの……」
と聞いてきた。可愛いなあ。……ただし、髭が無ければだ!
送還魔法はガーベラをもってしても、どう魔法を構築すべきかが未だ見えてこないそうだ。
召喚魔法は平たく言えば、地球にガーベラのいる世界への穴を空けて、「落として持ってくる」だけのものなのだが、送還魔法だとそうはいかなくなる。
例えれば、今の俺は地球と言う名前のビルに召喚陣で一時的に穴が空けられて落ちてきたボールに過ぎないのだ。
ガーベラは俺が地球と言うビルから落ちてきたとは知っていても、まさか穴が空くと思っていなかったので、そのビルがどこにあるのか見てなかったし、ビルを見つけても何階のどの窓から落ちてきたのか、そしてそこまで上がるにはどうすれば上がれるのかも手探り状態なのだ。
そんな中で一緒に生活するうちに、俺達はすっかり打ち解けて、酒を飲んではバカ話するくらいの中になっていた。
ガーベラは実は、こっそり使い魔に娼館を覗かせ、それを魔法で録画したもので見ながら、自ら開発した「おひとり様用グッズ」を使って一人遊びをするムッツリな女だ。
奴の自室を掃除していて、部屋の隅のシーツの中に隠していたそのグッズを見つけたが、見ないふりをして何も言わなかった。
ただ、グッズはキチンと分類して並べてから磨き上げてベッドサイドに並べ、動画もそれぞれに「ケモ耳(猫)×オヤジ」とかインデックス付けて、横に並べておいてやった。俺が昔、お袋にエロ本を本棚に並べられていた時のように……
翌日から何日かは眼を合わせてくれなかったが、あんな風に隠しておいて、見つけられないと思って掃除頼むのが悪い。
大体にして、俺は日々オークの性欲を持て余し、かといってモンスターでは娼館には行けず苦労している。
なのに、この賢者は自分だけ「おひとり様用グッズ」で楽しんでやがったのがムカつくので嫌がらせだ。
絶対に俺の「男用おひとり様用グッズ」も作らせてやる。
普通にガーベラはグラマーだし仲も良いし自分でグッズ使うようなムッツリなのだから、そういう関係になってもよさそうな物だが、俺は髭生えてる女は何がどうしても無理なのよ……
かといって、自分の欲望のためにガーベラがドワーフの誇りだと言ってる髭を剃らせるのもどうかと思うのだ。
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一方のガーベラも太とあわよくばそういう関係になりたいと思っていた。しかし、太は髭と腋毛には全く性欲がわかない男なので、二人でいても、そういう雰囲気にはならないのだ。
ガーベラに「男性用おひとり様グッズ」作ってくれと言うくらいだから、このままでは「そういう関係」にはなれないだろう。
ガーベラは本気で考えてみた。
ドワーフの誇りである髭か、好いた男とHをしたい性欲かを。
その結果……、性欲がびっくりするほどの圧勝だった。
「太、今日は美味い酒が手に入ったのじゃ!飲むぞえ!」
「お、いいねえ。ドワーフとはいえサラリーマン時代に鍛えた上に、オーガの肉体持った俺に勝てるかな?」
そして、ガーベラは次々と酒を出してきて、太は強かに酔った。
そしてガーベラが部屋を出て行き、戻ってきたのだが、何故かバスローブでマスクを付けている。
「おー、どうしたんだその恰好?それに風邪でもひいたのか?」
太はケラケラと笑っている。そのときガーベラがマスクを外すと、そこには髭のない美少女がいた。
「ガ、ガーベラか?ど、ど、ど、どうしたんだ?!」
「なに、お主が髭を生やした女はキライだと言うからの、ちょっと脱毛ポーションを作ってみたのよ。どうじゃ?」
思わず見とれる太。髭さえなければロリグラマーで好みなのだ。
「それにの……、脇はもちろん色々とツルツルじゃぞ?」
とバスローブの前を開けて見せるガーベラ。
太は無言でガーベラをお姫様抱っこをして寝室に消えた。
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その日からの二人は毎日が楽しく、毎日が輝く日々となった。
ガーベラは使った召喚の魔法陣の残骸を解析し、足りない部分を補完して正解を探している。
その合間に国に渡す研究も行い、太の魔法の手ほどきも行う。
とても忙しく、ひとりなら心が折れていたかもしれない。
しかし、二人なら少しも辛くはなかった。
太とガーベラとの相性は驚くほど良かったのだ。
ガーベラが研究をし、太が身の回りの事を引き受ける。
今まではガーベラが行っていた事務的な雑事を、太が片付けているので、研究が中断される事も無くなった。パフォーマンスが明らかに上がり、国からの研究費はどんどん増額されたのだ。
また、オーガの肉体にオークの性欲というのは、本来は相手が見つからないレベルで女性側に負担を強いるのだが、生まれつき頑強なドワーフで、しかも身体強化魔法使える上、ムッツリのガーベラであれば、太が望むだけ相手ができる。
まさに、お互いを必要とする、相性抜群の二人だったのだ。
しかし、送還魔法の研究は遅々として進んでいない。
なにせ、例えるなら砂漠で針を探すかのような物だ。おまけに帰還時までに、太の肉体を人間として再構築しなければいけないし、ガーベラもあちらの世界の女性に再構築したいので、その魔法の構築も必要なのだ。
そしていつの間にか50年の時が経っていた。




