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異世界帰りの元ヤンと最強賢者嫁、80年代の地球でやりたい放題バカンスを満喫する〜  作者: だい


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16/26

第16話:夢の都のファン第1号、あるいは星条旗の奇跡

 一九八二年、アメリカ合衆国西海岸。

 どこまでも突き抜けるような青空と、海岸線沿いに立ち並ぶ背の高いヤシの木。ここは陽気なエンターテインメントと資本主義の最前線、ロサンゼルスである。


 九龍城砦での一件から心を切り替えるように、俺たちは強烈な太陽が降り注ぐこの街へとやってきた。

 当時のハリウッドはまさに映画の黄金期。『レイダース』や『E.T.』といった世界中を熱狂させるブロックバスター映画が次々と産声を上げ、巨大なスタジオセットやアナログな特殊効果(SFX)が、世界中の人々に「作り物の魔法」を信じさせていた時代だ。


「ほう! あれが地球の幻影魔法《映画》を生み出す工房か! なんとも大掛かりな仕掛けじゃな!」


 ハリウッドの巨大な撮影スタジオに『認識阻害』と『透明化』の魔法をかけて忍び込んだ俺たちは、ミニチュアセットや火薬を使った特撮の撮影現場を興奮気味に見学していた。


「ああっ、ごめんなさい!」


 その時だった。裏路地の角を曲がった瞬間、台本を読みながら歩いていた若い女性と正面衝突してしまったのだ。

 ぶつかった拍子に魔法のコントロールが乱れ、俺とガーベラの隠蔽が解けてしまう。突如として何もない空間から現れた東洋人の男と絶世の美女に、普通ならパニックになって大騒ぎするところだ。


「えっ……? あなたたち、どこから……? ううん、それよりお怪我はありませんか?」


 だが、その女性は騒ぐどころか、倒れた俺たちに手を差し伸べてくれた。

 彼女の名前はレベッカ。郷里の家族を養いながら、いつか大スクリーンで主役を張る日を夢見て、日夜オーディションに明け暮れる下積みの女優だった。


 騒ぎ立てなかった彼女の人の良さに惹かれ、俺たちはスタジオの近くにある安いデリでサンドイッチとジャンクなホットドッグ、そしてビールを買い込み、海辺で一緒に昼食をとることにした。


「いつか絶対に、私の演技で世界中の人を感動させたいの。今はまだエキストラや死体役ばっかりだけどね!」


 ビールを片手に夢を語るレベッカの笑顔は、カリフォルニアの太陽よりも眩しく、底抜けに明るかった。

 異世界での血生臭い闘いや、香港の暗い裏社会を見てきた俺たちの心に、彼女の屈託のない真っ直ぐな情熱はひどく心地よく響いたのだ。


「いい夢だな。よし、決めたぞ。俺とガーベラは、今日からお前の『ファン第1号と第2号』だ!」

「ふふっ、そうじゃな! 未来の大スターのサインを、今のうちにもらっておかねばの!」

「もう、からかわないでよ! でも……ありがとう。私、明日すごく大事なオーディションがあるの。お二人が最初のファンになってくれたなら、絶対に受かる気がしてきたわ!」


 俺たちが一体何者で、どうやってスタジオに忍び込んでいたのか。レベッカは不思議そうに聞いてきたが、ガーベラが「内緒じゃ」と悪戯っぽく笑うと、彼女もそれ以上は追及してこなかった。

 俺たちはビールの空き缶を掲げ、明日の彼女のオーディションの成功を祈って乾杯した。


 ♦


 しかし、光が強ければ影もまた濃くなるのが、この夢の都の真実だった。


 数日後。観光を終えて日本へ帰る前日、俺たちは最後にレベッカを食事に誘った。

 待ち合わせのダイナーに現れた彼女の顔を見て、俺とガーベラは言葉を失った。あの太陽のような笑顔は完全に消え失せ、目の下には濃い隈ができ、今にも泣き出しそうに唇を震わせていたのだ。


「……何があった、レベッカ。オーディションはどうだった?」


 俺が静かに問うと、彼女は堪えきれなくなったようにテーブルに突っ伏し、声を殺して泣き崩れた。

 ハリウッドの裏社会。一部の権力を持ったプロデューサーが牛耳るその世界では、実力よりも「接待」や「コネ」が物を言う。

 容姿も演技力も及第点だったレベッカだが、彼女はプロデューサーからのいわゆる『枕営業』の要求をきっぱりと断ったのだ。


 だが、マフィアと繋がっている悪徳プロデューサーは、気の強い彼女を「金になる」と判断したらしい。

 彼らはレベッカの郷里にいる母親と妹の素性を調べ上げ、家族の命を盾に彼女を脅迫した。逆らえば家族を殺す。大人しくギャングが経営する悪徳プロダクションに入り、自分たちの『人形』として奉仕するなら、映画の主演にしてやる、と。

 もちろん出演料の九割は組織にピンハネされ、彼女にはまともな金など入らない。事実上の奴隷契約だ。


「もう……私には選択肢がないの。家族を人質に取られて……夢なんて、諦めるしかない……」

「そういえば、我たちが何をしている人間か聞かれたが、まだ教えておらんかったのう?」


 絶望に打ちひしがれるレベッカの頭を、ガーベラが慈愛に満ちた手つきで優しく撫でた。


「わしらは、異なる世から来た賢者と大魔法使いじゃ。安心してすべて話すがよい。わしらは未来の大スターのファンじゃからな。スターの心配を取り除くのも、ファンの務めじゃ」

「そんな……慰めのウソなんて言わないでよ! 今の私には……っ」

「……ほーう? 夢見る乙女の家族に手を出すと脅したか」


 ガーベラの瞳の奥で、絶対零度の魔力がチロチロと燃え上がった。


「『人形』とは、我がファンになった女優に随分と舐めたことを言うのう」

「な、なんでそのことまで……私、まだ言ってないのに……」

「なあに、わしらに任せておけ。今日はわしらの宿のスイートルームに泊まれ。明日の朝起きた時には、すべてが上手くいっておるわ」


 ガーベラが軽く指を鳴らすと、レベッカはふわりと意識を失い、深い眠りへと落ちていった。

 眠る彼女をホテルのベッドに寝かせた後、俺とガーベラは静かに視線を交わした。


「ガーベラ。俺はあのクソプロデューサーのところへ行く」

「ならば、わしはその裏にいるギャングの元締めを潰してこよう。……派手にやるか?」

「ああ。徹底的にな」


 かくして、異世界最強の夫婦による、ハリウッドのゴミ掃除が始まった。


 ♦


 ビバリーヒルズの超高級マンション。

 その最上階にあるプロデューサーの私室では、恰幅の良い男が高級な葉巻を吹かしながら、隣に侍らせた女優の肩を抱いて下劣な笑いを浮かべていた。

 部屋の四隅には、拳銃を隠し持った屈強な護衛が立っている。


 そこに、俺は『空間転移』で唐突に出現した。

 顔には、異世界のアイテムボックスから取り出した『スーパー・ストロング・マシン』の覆面を被っている。時代を数年先取りしているが、素顔を隠すにはちょうどいい。


「な、なんだテメェは!? どこから入ってきやがった!」

「SSマシンだ。地獄への案内人さ」


 護衛たちが銃を抜くよりも早く、俺はオーガの力で踏み込んだ。

 すれ違いざまの強烈なラリアットで一人の首の骨をへし折り、そのままもう一人の頭を掴んでDDTで大理石の床に突き刺す。瞬きする間に、四人の護衛は首を折られて絶命した。


「ひぃぃぃっ!?」


 悲鳴を上げるプロデューサーと、隣で震える女優。

 俺は女優の頭に手を置き、精神魔法で記憶を強引に読み取った。

 ……なるほど。こいつも被害者かと思いきや、自ら進んでプロデューサーに身体を売り、さらにライバルになりそうな新人の女優をこいつに斡旋しては、代わりに役を貰っていたのか。


「お前も同罪だな! ギルティじゃあああああッ!!」


 俺は女優の腕をクラッチし、そのまま後方へ反り投げる『魔神風車固め(マシン・スープレックス)』で床に叩きつけた。女優は白目を剥いて半死半生となる。


「ひっ、あ、悪かった! 金ならいくらでも払う! だから命だけは……!」

「俺はファン第1号だからな。スターを泣かせた奴は、徹底的に教育してやる」


 俺は命乞いをするプロデューサーを軽々と担ぎ上げると、ボディスラムで床に叩きつけた。

 さらに倒れた巨体に向かって全体重を乗せたセントーンを落とし、高い天井付近まで跳躍してからのダイビング・ヘッドバットを顔面に叩き込む。

 最後は、引きずり起こしてからの『垂直落下式・魔神風車固め』だ。

 脳天から床に突き刺さったプロデューサーは、首の骨が完全に砕けた。


「さーって」


 部屋には、首を折られた護衛四人と、全身の骨が砕けたプロデューサー、そして半死半生の女優が転がっている。

 俺は彼ら全員に高位の『治癒魔法』をかけ、瞬時に無傷の状態へと蘇生させた。


「ひぃっ!? お、俺は死んだはずじゃ……」

「これからお前らを治しまーす。そして、なんでこうされているか自覚して、心の底から謝って反省した人間は許してやる。それ以外の奴には、反省するまでまた技を掛けまーす」

「な、何を言って……ぎゃああっ!?」


 俺は再び護衛の首を捻り、プロデューサーにスープレックスを叩き込んだ。

 壊しては治し、治しては壊す。

「お前、なんでこうなってるか分かるか?」と問いかけながら半殺しにする作業を二十回ほど繰り返した頃には、屈強なマフィアの護衛たちも、傲慢なプロデューサーも、完全に心が折れて俺のマスクを見るだけでガクガクと震えるようになっていた。


「わ、わかりました……! プロデューサーという立場で女優をオモチャにしていました……!」

「悪徳プロデューサーに新人女優を売って協力していました……っ!」

「俺たちは、その悪事の護衛をしていましたぁぁ……!」


 全員が土下座し、涙と鼻水に塗れながら懺悔の言葉を口にする。


「うん、よく分かってるじゃないか。じゃあ、もう二度とこんなことすんなよ。レベッカとの契約も白紙だ。また同じことをやったり、警察に余計なことを言ったりしたら、もっと痛い目に遭うぞ?」

「も、もちろん誰にも言いません! 絶対に!」


 女優が必死に頷いた瞬間。

 ボインッ! という奇妙な音と共に、彼女の豊かな胸が風船のように極限まで膨れ上がり――次の瞬間、パーンッ! と破裂して木端微塵に吹き飛んだ。


「ぎゃあああああああッ!? 私のおっぱいがああああっ!?」

「あーあ。だから言ったのになあ」


 俺は呆れたようにため息をつきながら、治癒魔法で彼女の胸を元通りに修復してやった。


「いいか? 今日ここであったことを他人にしゃべると、女は胸が、男はアソコが膨らんで吹き飛ぶ呪いをかけた。分かったか?」

「「「「「はいぃぃぃぃぃッッ!!!」」」」」


 全員が、股間や胸を両手で必死に押さえながら、首がもげるほどの勢いで縦に振った。


「よし。あとよ、俺はレベッカの熱狂的なファンだから覚えておくように。明日の朝一番には、あの子はペリカンホテルのスイートにいるから……どうすべきか、分かってるよな?」


 俺は最後にプロデューサーの顔面を軽く平手打ちすると、窓枠に足をかけた。

 そして、恐怖に顔を引きつらせる彼らに向けて、ビシッと指を突きつけて言い放った。


「あと、俺は平田じゃないから」


 なんの説明もない謎の言葉を残し、俺は夜のロサンゼルスへと姿を消した。


 ♦


 一方その頃。

 ロサンゼルスの裏社会を牛耳るギャングのボスの執務室。

 分厚いオーク材のドアを開けて入ってきたマフィアのボスは、自分のデスクの向かいにある革張りのソファに、見知らぬ東洋の美女が座っているのを見て目を丸くした。


「やあ、素敵なお嬢さん。部下が気を利かせて手配してくれたのかな?」


 ガーベラは妖艶な笑みを浮かべ、室内のバーカウンターから高級なスコッチのボトルを取り出した。


「待っておったのじゃ。何か飲むかえ?」

「ロックで頼むよ」


 ボスは上機嫌でソファに腰を下ろした。まさか自分の厳重な警備をすり抜けて暗殺者が入り込んでいるなどとは、微塵も疑っていない。


「そういえば、例のプロデューサーから預かるという女優は、ずいぶんと綺麗らしいの?」


 グラスを手渡しながら、ガーベラは世間話のように尋ねた。

 実は、この部屋に入ってきた時点で、対象は『問われたら絶対に真実を答えてしまう』という精神支配の魔法陣の中に取り込まれている。


「君ほどじゃないけどね。まあ、よく稼いでくれる『人形』になりそうだ。役得も楽しみだし、反抗するなら田舎の家族をミンチにすればいいだけの話さ」


 そこまで喋ってから、ボスはハッと我に返ったように首を傾げた。


「ん……? おかしいな、何故俺はこんなことを、初対面の君にペラペラと話しているんだろう?」

「気にするな。まあ、まずは一杯飲むがよい」

「あ、ああ……そうだな」


 促されるまま、ボスはスコッチを一口飲んだ。


「飲んだか? 末期の酒に、そのスコッチはなかなか上等じゃの」

「……え?」


 ガーベラの声が、絶対零度の冷酷さを帯びた。

 ボスの足元から漆黒の魔法陣が浮かび上がり、室内の空気が一瞬にして凍りつく。


「お前らは、触らなくてもよい龍の逆鱗に触れたのじゃ。……さあ、死ね」


 ガーベラが空間から引き抜いた白銀の剣が一閃。

 ボスの首が、ゴトリと床に転がり落ちた。

 だが、最強の賢者の怒りはそれだけでは収まらない。彼女は魔法で瞬時に遺体からすべての血液を抜き取ると、ボスの両腕と両足を切り離し、腕と脚の位置を入れ替えて縫合した。

 そして、その異形の身体に胡座をかかせた状態で、膝の上に葉巻を咥えさせた生首を鎮座させたのだ。


「さて、次は……」


 ガーベラは、その猟奇的でグロテスクな『人間のオブジェ』を持ったまま、空間転移を発動させた。


 転移先は、組織のNO2と目されている男の執務室。

 深夜にも関わらず書類仕事に追われていたNO2の男は、突如として目の前に現れた美女と、その隣に置かれた『ボスの変わり果てた姿』を見て、悲鳴を上げそうになった。

 だが、ガーベラの結界魔法により、この部屋の異常は外部には一切漏れない。


「な、なんだ貴様はッ!」


 男がデスクの引き出しから拳銃を抜こうとした瞬間、ガーベラはその腕を掴み、鉄の塊である拳銃をまるで粘土のように片手でクシャクシャに丸め潰してしまった。


「説明も面倒じゃな。直接教えてやろう」


 ガーベラは、恐怖に顔を引きつらせるNO2の顔面を鷲掴みにした。

 そして、何故ボスがこのような無惨な姿になったのか。プロデューサーと結託して一人の女優の夢を踏みにじり、家族を脅迫したことがどれほどの怒りを買ったのか。ボスが殺される瞬間の圧倒的な恐怖を、直接彼の脳髄へと焼き付けた。


「ひぃぃぃぃぃぃッッ!!!」


 男は失禁し、泡を吹いて床に崩れ落ちた。

 ガーベラは冷たい目で見下ろしながら、死刑宣告のように告げた。


「分かったか? お前らが使った『家族を人質に取る』などという手は、わしらからすれば赤子の遊びよりも簡単じゃぞ。お前が今脳内で理解した通りの行動を取らないなら、お前の妻のサラも、娘のデビーとやらも、親族一同すべて『消す』のじゃ。できることは、その脳が理解しておるじゃろ?」

「は、はいぃぃっ! 仰る通りに! 仰る通りにいたしますぅぅぅっ!!」

「よろしい」


 ガーベラは踵を返し、空間の歪みへと姿を消しかけたところで、肩越しに振り返った。


「もし、我がファンの『レベッカ』に一指し指でも手を出したら、三族すべてを消し炭にしてくれる。もし他人が彼女を害しようとした場合でも、お前らの組織ごと潰すからな。……一生懸命に、死ぬ気で彼女を守れよ?」


 その言葉を最後に、ガーベラは静かに姿を消した。

 あとに残されたのは、狂乱して泣き叫ぶNO2と、葉巻を咥えたボスの異形の死体だけだった。


 ♦


 翌朝。

 ペリカンホテルのスイートルームのふかふかなベッドで、レベッカは目を覚ました。


「あれ……私、どうして……?」


 不思議そうに身体を起こしてリビングへ向かうと、そこにはルームサービスの優雅な朝食セットと、コーヒーを飲んでいる俺とガーベラの姿があった。


「起きたか、レベッカ。では朝食としようかの」

「ガーベラさん……太さん……。私……」


 まだ状況が飲み込めず、昨日の絶望を思い出して浮かない顔をするレベッカ。

 その時、部屋の電話がけたたましく鳴り響いた。


「はい、もしもし。ああ、太です。……ほう、ちゃんと電話できたか。では、本人と代わるが……分かってるな? うん、では」


 俺は受話器をレベッカへと差し出した。


「レベッカ。君にだ」

「私に……?」


 おずおずと受話器を受け取り、耳に当てるレベッカ。

 数秒後、彼女の顔色が劇的に変化した。驚愕から、信じられないという戸惑い、そして、パッと花が咲いたような歓喜の色へ。


「えっ……? 本当ですか!? 家族には一切手を出さないし、契約も白紙……それに、今度の映画の主演は私に決定!? ……あ、ありがとうございます!!」


 レベッカは涙を流しながら電話を切り、満面の笑みで振り返った。


「太さん! ガーベラさん! 私――」


 だが、そこにはもう誰もいなかった。

 残されていたのは、まだ湯気の立つコーヒーカップと、テーブルの上に置かれた一枚のメモ、そして分厚い封筒だけだった。


『君の映画を楽しみにしてるよ。 ファン第1号、第2号より』


 衣装代と書かれたその封筒の中には、ポンと三万ドルの現金が入れられていた。

 レベッカはそのメモを胸に抱きしめ、誰もいない部屋で、ポロポロと嬉し涙をこぼしながら深く頭を下げたのだった。


 ♦


 その日の午後。

 俺とガーベラは、突き抜けるような青空の下、ベニスビーチの遊歩道を並んで歩いていた。

 ヤシの木が風に揺れ、波の音が心地よく響く。


「……自己満だって、分かってるんだけどな」


 海を見つめながら、俺はポツリとこぼした。


「九龍の時みたいな結末じゃなく、ただ単に、報われる結末が見たかっただけなんだ。俺のわがままに付き合わせて、悪かったな」

「何をくよくよしとるのじゃ」


 ガーベラは呆れたように笑い、俺の背中をバンと叩いた。


「確かに、わしらはレベッカという一人の人間にだけ、理不尽なまでのチャンスを与えた。だが、それがどうしたというのじゃ? 『たまたまわしらと知り合っただけなのに不公平だ』と言うなら、たまたま顔が良いこと、スタイルが良いこと、頭が良いこと……それら生まれ持った才能も、すべて否定するのかの?」


 ガーベラは、眩しそうに目を細めて太陽を見上げた。


「レベッカは、わしらと知り合った。わしらに好かれた。それがアイツの持つ『アドバンテージ』なんじゃから、それで良いのじゃ。それに、わしらは理不尽な障害を取り除いて、チャンスを作ってやっただけ。これ以降、彼女が大スターになれるかどうかは、レベッカ自身の頑張り次第じゃ」

「……うちの嫁には、敵わんなあ」

「ふふん! 最強の賢者の、愛の力じゃな!」


 得意げに胸を張るガーベラを、俺は愛おしげに見つめた。

 香港での心のつかえが、カリフォルニアの青空に少しだけ溶けていくような気がした。


 ――だが、その時である。

 俺の視界の端に、信じられないものが飛び込んできた。


「あ……あれはッ!!」


 俺の目がカッと見開き、足が勝手にフラフラとそちらへ向かって歩き出す。


「どうした、太?」

「じ、実在しただなんて……! 都市伝説じゃなかったのか……ッ!」


 俺の視線の先。

 ベニスビーチの遊歩道を、軽快なポップミュージックが漏れる『ウォークマン』を頭に装着し、ローラースケートを履いて滑走してくる一人の女性がいた。

 眩しいブロンドヘア、健康的な日焼け肌にそばかす。そして何より、弾け飛ばんばかりの爆乳を包み込んでいるのは――派手な『星条旗柄の極小ビキニ』と、ピチピチのデニムショートパンツだった。


「……USA」

「ふ、太……?」

「USA! USA!! USAァァァァァッ!!!」


 アメリカの陽気なステレオタイプを煮詰めたようなその姿に、俺の中の何かが弾け飛んだ。

 俺は両手を天高く突き上げ、謎のコールを叫びながら、ローラースケートの爆乳美女の後を猛ダッシュで追いかけていった。


「USA! イエス! USA!!」

「なっ、ま、待て太バカモノォォォォッ!!」


 すべてを美しく締めくくった最強の賢者は、アメリカの空の下、己の欲望に忠実すぎるアホな夫の背中を、呆然と見送ることしかできなかった。


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次回更新は来週の水曜予定です。

これだけの字数書くなら、分けろよとも思うんですが(笑)

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