「前進と変化2」
「澤井さんは体制を整えようとする意志はありましたね。少なくとも本気で取り組んでくれていた、と思います。」
山口総一は当時を振り返り、彼をこのように評した。
澤井さんが改善業務に加わってから、現場にいい意味で緊張感がつくようになった。
決めるべき物事がピシッと決まっていき、弛んでいた糸が程よく張り、絡まっていた職場が少しずつ解きほぐされていった。
職場の空気もだんだんと良くなっていき、活発な意見交換や積極的な仕事の進め方をする人も少しずつ増えていった。
そして体制づくりを整え、硫酸導入に向けた排水処理設備のトラブル内容の共有、実際の排水処理設備の概要の把握のための会議を実施することになった。
参加者は私、大野さん、他数人で古株社員と工場長はいなかった。そのことに少し違和感を感じたが、何より話が通じる人に初めて出会えたことが嬉しかった。噂を聞く限りでは、澤井さんは本社から工場の改善担当として兼務で任命されたらしい。
「私の経歴はこんなところです。次は皆さんのお話を聞かせてください。」
澤井さんはそう言うと、参加者全員を見回した後、排水処理のトラブルについて話を進めていった。
バルキングのことはだいぶ説明できたし、検鏡基準の導入、水質データの活用法についても話してみるか。
「少し排水処理設備の日常業務について、水質データの活用法、検鏡基準の導入等について説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
澤井さんは、
「いいですよ。」
と大きく頷いて続きを待った。
「口頭では少し難しいのでホワイトボードを使って説明させていただきます。」
と、私がホワイトボードにガシガシ数式を書いていく姿に、排水処理もシステム化できるという美しさを感じてもらえたのか。
澤井さんは息を飲んで、
「すごいですね。」
と感心してくれているようだった。
「あの時のお前は「ガリレオ」みたいだったぞ。」
と大野さんに笑いながら揶揄されたが、私としてはやっと理解者が見つかった、という気持ちが強かった。嬉しい気持ちの反面、どこまで自分が通用するか試したい、という気持ちも強かった。
「今思えば、嬉しくて少しだけ調子に乗ってしまったのだと思います。水質の見える化や検鏡基準の導入で実績を出せるようになっていきましたが、それが良くなかったんですよね。」
山口は少しうつむき加減でそう話した。
「澤井さんは信用できそうだった。ただ、本社の人間という立場が少し引っかかっていたな。」
大野宗治は当時を振り返って彼をこのように評した。
改善活動は排水処理設備だけでなく職場の体制づくりにも及んだ。澤井さんの影響力や発言力には目を見張るものがあった。
「この調子で全部変わってくれればいいんだけどな。」
俺はそう思いつつ、山口達が実力を発揮していっている事実も少し誇らしく感じていた。
ただ、古株社員達も黙ってはいない、とも思っていた。油断は禁物。しっかり最後まで気を抜かずにやっていかないとな。
「さて、また山口が何か考えて来るだろうし付き合ってやるか。」
「ま、俺は次第にあいつの成長スピードについていけなくなっていったんだよな。きっとあいつはどこへでも羽ばたいていける、って感じたな。」
大野は少し気まずそうに苦笑いし、視線を外した。




