「陰りと歪み1」
「どうやら私はやり過ぎていたようです。」
山口総一はそう振り返って呟く。
「その頃から私と大野さんに距離感のようなものができ始めました。」
排水処理設備の見える化、検鏡基準の導入後、私は微生物に対して深い関心を抱くようになった。
「SVと最終沈殿池の関係、やっぱり面白いな。」
大野さんは少し苦笑いしてたけど、後でわかってくれてたし、きっと周りもいずれ理解してくれるよな。なんか最近、少し疎外感があるのだ。
ある日、ふと良いアイデアを思いついた。新しい設備は発酵製品を生産する設備だ。とすると、発酵製品の廃液が出る。要は乳酸菌である。これは微生物の餌になるし、ついでに言うと酸性だ。
「これはいい改善テーマになるんじゃないか?」
私はそう確信して実験を始めた。
職場の古株社員、瀬田は山口のことを嫌っていたが、同時にその実力を評価していた。俺にはなれない。でもこのポジションは守りたい。あいつの持っている資格は俺よりも上だし、澤井が来てからあいつは実務でも評価され始めちまった。どうやって追い込めばいい?
そんなある日、山口が変わった実験をしている、と耳にし、何をやっているのか見てみることにした。
「何だ、こりゃ?」
1Lのメスシリンダーに汚泥が入れられ、エアレーションされている。ただ、なんとなくわかったのは、彼が微生物の実験を行っていることであった。
「微生物、これは使えるかもな。」
瀬田はそう呟いてニヤリとした。
「やっぱり山口は天才で、俺はその天才を育てる役割だったんだよな。」
大野宗治はそう苦笑いした。
「すぐには理解できなくなってきていて、な。俺の周りでも「あいつは奇行に走っている。大丈夫か?」と言われるレベルだったからな。」
あいつが急に俺のやっていたラボテストを応用し始めている、と感じたのは、微生物の状態をいろんな条件で実験し、自分で試行錯誤しているところからだ。
最初は暖かく見守っていたんだが、徐々についていけなくなってきてな。やっぱりあいつは発想の天才だと思ったよ。
理解できるギリギリのラインがSVが最終沈殿池の縮図だ、と言う件だ。
「なあ山口さん、SVで最終沈殿池の微生物の沈み具合を計算し、予測できるってどういうことよ?」
「あ、すみません。SVは微生物と水が混ざった状態を30分置いて分離具合を数値化するじゃないですか。これって微生物と水の混ざった状態分ける最終沈殿池と同じ気がしていて。で、図で描いてみるとやっぱり返送汚泥と余剰汚泥の量とかわかれば、公式を使って数値化して制御できる、と思ったんですよね。」
「なるほど。言いたいことはわかったが、検証が必要だな。持ち帰ってよく考えてみるわ。」
で、持ち帰って検討した結果、どうやら正しいみたいだ、とわかったからな。
「乳酸菌の話が出たところあたりで、だいぶ理解するのがきつくはなっていたのかもな。」
大野はそう呟いて、窓を眺めた。




