「陰りと歪み2」
「乳酸菌の実験を始めてから、私は浮いているな、とハッキリ自覚し始めました。」
山口総一はそう苦笑いする。
「まあ今はそれが強みだと自覚し、制御できているのですがね。」
「やっぱり難しいな。」
私はそう呟いた。単純に乳酸菌を加えるだけではダメだったようだ。一時的に微生物は増えるが、酸性に大きく傾くし、それではあまり良くない。何か条件が要る。何だろうな。
生物の教科書を買って、乳酸菌の項目を読んでみた。通性嫌気性菌、何だこれ?
しばらくネットで調べていたところ、どうやら乳酸菌は本来、酸素のないところの方が増えやすく、発酵して酸性に偏るのもその条件でなるらしい。
とすると、一時的にエアレーションを止める時間を作れば良いのではないか?
「やっと掴めてきたぞ。」
私は笑った。
瀬田はある業者について調べていた。微生物減溶化を謳っている技術コンサルの業者だ。何よりあいつの実績を利用しつつ、上へのアピール力も強い。これを導入すれば俺の手柄になるし、山口を追い出すきっかけにもなる。まずは工場長に根回しして、と。
「へへへ、面白くなってきたぞ。」
瀬田は笑った。
「もっと山口のフォローに回るべきだったんだよな。」
大野宗治は重苦しげに呟いた。
「あいつの理解者はもう俺しか残って無かったみたいだからな。」
澤井さんも山口から距離を取り始め、もう俺しか頼りになれる奴はいなかったんだと思う。それでもあいつは実験を続けていた。本当の技術者はあいつのようなやつなんだろうな。
山口が乳酸菌の実験をしようと思ったのも、たぶん俺の影響だ。バルキングの際、例え話で改善の案として触れていたからな。今思えば、俺のアイデアを使える形にしてくれていたのだろう。
ただ、今の俺はそれを受け容れる余裕がなかったんだよな。正直、ちょっと距離を取ってしまっていた。あいつと関わると何だか自分を見透かされているように感じてな。
「今思うと、あいつに酷いことをしていたんだよな。」
大野は自嘲気味に笑った。
そう、この辺りから俺と山口の関係は崩れ始めていたんだ。俺が向き合えなかったことにあいつが向き合い始めてから、な。




