「正しさと正しさ1」
「乳酸菌の実験の成功は私に大きな自信をつけてくれました。」
山口総一は力強く言った。
「同時にこの実験を機に私の人生も大きく変わりましたが、ね。」
と苦笑いした。
予想通りだ。
やはりエアレーションを止める時間を設けることで、微生物の増加、バルキングの抑制に効果があることがわかった。
あとはどう現場に落とし込むか、だな。
大野さんに相談してみよう。
「実現してみたいが、今の状況じゃダメだ。」
大野さんにこう断言され、私は大きな衝撃を受け、一瞬頭が真っ白になった。努めて冷静さを保ちこう聞いた。
「なぜですか?試す価値は十分あるはずです。」
大野さんははあ、とため息を吐き一呼吸置いてからこう言った。
「技術的には試す価値はある。ただ、君は突っ走り過ぎた。もう誰もお前のことは理解できない。いくらいい提案したってそれだと意味がないんだよ。」
「、、、わかりました。相談乗ってくださりありがとうございました。」
私は黙って部屋を後にした。やっぱり私じゃダメなのか。いくらいい提案をしたって人として正しくなければダメなのか。
瀬田は着実に業者導入に向けて話を進めていた。近々大きな会議を開く、山口を落とす筋書きもバッチリだ。これでまた俺の天下だ。あいつの実績を利用してもっと楽もできる。
「よしよし、いい感じだ。」
瀬田は夜中、1人事務所にて満足気に笑っていた。
「俺も俺で余裕がなかった。あいつを助けたくない、と言ったら嘘になる。ただあの時から、あいつのことが少し怖くなってきていたんだ。」
山口から乳酸菌の話を聞いたとき、俺は動こうと思えば動けた。ただ、なぜ動けなかったのか?俺も怖かったんだ。この組織の闇が。あいつが引っ込みさえすればこの件はうやむやになるし、結果的にあいつを守ることにつながる。そう思ってついあんなことを言ってしまった。
「ほんと、情けないやつだったよ。俺は。」
大野宗治はそう言った。彼の言葉は山口にはもう届かなかった。重苦しい沈黙だけがただ残っていた。




