登校初日に出席停止
「何があったんですか!?」
中野林は、その場で先生に問わずにはいられなかった。
「暴力事件を起こした。つまり喧嘩だ」
クラス中がしんとなる。
「阿方は喧嘩を吹っかけられた側なんだが、やりすぎた」
「えっ……」
中野林は胸騒ぎがした。
「上級生を三人、病院送りにしてしまった。同情する点も多いが、なんせ全治2週間の怪我を負わせてるものでな」
クラス中がザワザワと話し出した。
「全治2週間ってヤバくね?」「登校初日に出席停止とか……」「やっぱりヤバい奴なんじゃないのか」「あほ丸なだけある」「アホだろ……」
隣や前後の生徒同士のそんな会話が聞こえてきたが、黙って手を挙げた女子がいた。それを見た神田先生は声をかけた。
「山中、どうした」
「あの、阿方君のことで……昨日放課後、私たち一緒にいたんです。そしたら、怖そうな上級生三人組が、阿方君に面貸せって言ってきて……」
中野林はドキッとして、話を続ける山中さんの方を振り返った。
「私たちのことは先に帰して、一人で行ってしまって……私、先生を呼びに走ったんだけど、間に合わなくて……」
山中さんは泣きだしてしまった。
「とにかく! 阿方はしばらく休みだ。暴力はよくない。皆も気をつけるように」
先生の呼びかけに、久保が大声で反論した。
「でも先に手を出したのは上級生なんすよね!? 殴るなっていうならどうやって自分の身を守ればいいんすか?」
「逃げてくれ」
「一対三じゃ無理っすよ。先生喧嘩した事ないんすか? 現に助けを求めに走っても間に合わなかったんだから、やってなきゃ阿方君が病院送りだったかもしれないじゃないすか! それを出席停止だなんて──」
「言いたいことはわかる、先生も散々説得を試みたんだ。どうしようもなかった……」
悔しそうにうつむく先生の姿を見て、久保は黙った。
「そういう訳だから、皆、阿方が戻ってきたら温かく迎えてやって欲しい。初日から休みだと、わからない事だらけだろうからな。サポートしてやってくれ」
休み時間、久保の席までやってきて中野林が言った。
「阿方君の喧嘩の件だけどさ……病院送りにされたのって、僕をカツアゲしようとした先輩達だったんじゃないかと思うんだけど……」
「それな」
「僕を助けたばっかりに目をつけられて、出席停止になってしまったんじゃ……」
「そうだとしても、お前が気に病むことはないさ」
「でもさ! 僕を助けなければこんな事には……」
「気にするなって」
久保にそう言われても、中野林は責任を感じていた。
中野林は放課後に職員室を訪ねて、先生に打ち明けた。
「そうか……そんな事があったんだな」
「阿方君に会って謝りたいのですが」
「中野林、お前は悪くない」
「だけど! やっぱり僕、申し訳なくて……」
先生は困ったように笑いながら、中野林の肩をたたいて言った。
「心配するな。阿方は身体の方は元気だから、2週間後にまた会える。その時に話せばいい。今は、そっとしておいてやってくれ」
先生にそう言われて、中野林は諦めて帰るしかなかった。
「阿方君が戻ってきたら、カツアゲの件、喧嘩の件、しっかり謝ろう。学校の事とか、勉強だって、僕がしっかり教えてあげるんだ。阿方君が困らないように……」
中野林はいつにも増して勉学に励んだ。
──そして2週間後──
キーンコーンカーンコーン
朝礼開始のチャイムと共に、教室へ駆け込んできた阿方清丸を見て、クラスメイト一同息を呑んだ。
その頭には、例のチョンマゲがなかったのであった。




