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あほ丸!  作者: 鈴竹飛鳥
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馬鹿がつくほどの和風好き

 入学式が終わり、クラスごとに教室に移動していく。1年2組の担任は困ったように笑う黒縁眼鏡の男性、神田先生だった。数学の先生で、この学校に赴任して二年目である。教科書と数枚のプリントが配られ、神田先生が明日からの授業について色々と説明を終えると、時間が余ったらしく、

「自己紹介するか!」

 と言い出したので教室中がザワザワとした。


「じゃあ、一番の阿方からだが、阿方、いいか」

 机の上のプリントを睨んでいた阿方清丸が、チョンマゲを揺らしながら顔を上げた。

「お前はなぁ〜……入学前から学校中の噂になってるぞ〜。そのチョンマゲ、校則違反なんだよなぁ〜男子の長髪は──」

「お言葉ですが先生!」

 先生の言葉を遮るように阿方清丸は右手をビシッと上げた。「なんだ?」という先生の言葉を待って、阿方清丸は早口に述べた。

「拙者の頭髪をチョンマゲとおっしゃいましたが、こちらはチョンマゲではなく『総髪そうはつ』と呼ばれるもの。混同なさらぬよう。校則違反とおっしゃいましたが、女子の頭髪は束ねておれば許されるのに、男子は短髪しか認めぬというのは、所謂男女差別というものではござらぬか? 近年、男女平等のもとに、様々な不公平が是正されております。古の悪習は改善すべきと申し上げます」

 先生は眼光鋭く訴える阿方清丸に苦笑いを向けながら、

「はは……まぁ、それも一理あるな……」

 と答えた。


「ねぇ、あの喋り方──」「チョンマゲじゃん」「拙者って言った?」「侍気取り?」「時代劇ごっこ……」

 阿方清丸の発言後、クラス中がザワザワと阿方清丸を揶揄しはじめた。


「阿方って、変な苗字……てか、アホ丸じゃん……」


 女子生徒のその一言で、クラス中がドッと笑い声を上げた。


「えっ?」


 中野林は深刻な表情をしたまま、ゲラゲラと笑うクラス中を眺め回した。途中視界に入った久保も笑っていた。先生も笑っている。


(酷い……苗字をイジるなんて、しかもアホとか、悪口じゃないか。阿方君は見ず知らずの僕を助けてくれるくらい勇敢で優しいのに……本当の侍みたいに強いのに……)


  中野林は皆に「辞めろよ!」と言いたかったが、身体が震えるだけで動けずにいた。


(さっきは阿方君に助けてもらったのに、僕は、僕は、阿方君を、助ける勇気も強さも、持ち合わせてないんだ……なんて弱いんだろう……)


 クラス中に笑いが巻き起こる中、バンッ!と大きな音が響き渡り、教室は一瞬で静まり返った。

 窓側一番前の席で、阿方清丸が机を両手で叩き立ち上がったのだ。クラス中がただならぬ緊張した空気に包まれた。

 その後、阿方清丸は振り返り、教室中を睨みつけるように鋭い眼光を向けた。


(怒ってる……!)


 教室中の誰もがそう思った。先生がなだめるように小さく「おい……」と言ったのを振り返ると、

「先生」

 阿方清丸は表情を変えずに続けた。

「自己紹介、拙者からでよろしいか?」

 予想外のその言葉に、戸惑いながらも、先生は「おぉ……」と返事をした。教室がシンとするなか、阿方清丸は教壇に上り、クラス全体を見回したかと思うと、黒板の方へくるりと身体を返してチョークで自分の名前をサラサラと書くと、


バン!


 と黒板を力強く叩いた。


「拙者……阿方清丸、と申す者でござる。この頭髪、この口調、皆が不審に感じるのもごもっとも。然れども拙者、馬鹿がつくほどの和風好き。侍に憧れ、侍として有りたいと想っておる。この性分は変えられぬ。然れば、皆にはこの変人、和風バカを、親しみをもって『あほ丸』と読んでいただけると有り難き幸せに候。皆の者、どうかよろしく頼む!」


 快活に大声でそう話すと、あほ丸こと阿方清丸は、深々と頭を下げた。


「いいぞー! あほ丸〜!よろしくなー」

 久保がそう言うと他の男子たちも次々に

「あほ丸〜」「あほ丸カッコイイぞー!」

 と口々に声をかけた。しばらくして、下げた頭を上げたあほ丸の表情は、笑顔だった。それまでの空気をガラリと良く変えてしまったのだった。


(この人は本当にすごい人だ)


 中野林は尊敬とも感心とも賞賛ともいえる心持ちで、自分の席に戻っていくあほ丸を眺めていた。


「あほ丸君って呼んでいいの?」「ねぇチョンマゲ触っていい?」「さっきマジ怖かったよね〜」

 放課後、あほ丸はクラスメイト達に取り囲まれて質問攻めにあっていた。すっかり人気者である。

「どこに住んでるの?」「寄り道してかね?」

 あほ丸はそのままクラスメイト数人に引っ張られながら教室外へ連れていかれてしまった。


「今朝のお礼を言いたかったのに……」

 中野林は嵐のように去っていった彼のあとを虚しく見送りながらそうつぶやいた。とても声をかけられるような状況ではなかった。


「また明日も会えるんだからさ、焦ることないさ」

 久保が、中野林の背中を叩きながら、そう語りかけた。

「うん……そうだよね」


 しかし、翌日の朝の会で、担任の神田先生は驚くべきことを発表したのだった。


「え〜〜〜……。阿方君ですが、本日より2週間の出席停止処分となりました」


「えっ!? え……? えぇーーーー!!?」

 中野林は思わず大声で叫びながら立ち上がっていた。

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