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EP 3

次の出張現場は『ポポロ村』

モギュ……モギュモギュ……ゴキュッ。

「ぷはぁーっ! 太陽芋のポタージュ、五臓六腑に染み渡りますぅ!」

帝都の外縁を抜ける舗装路。

社用車(動く要塞)の助手席では、紫の芋ジャージを着た見習い女神が、両手で抱え込んだ『肉椎茸とサンライス(米麦草)の特大爆弾おにぎり』を豪快に頬張りながら、紙パックのポタージュをストローで一気飲みしていた。

俺はフロントガラスから目を離さず、短くため息をついた。

「……おい、リリス。お前、さっきリアンの隠し部屋で山盛りのフライドポテトとコーラを平らげたばかりだろうが。そのおにぎりはどこから湧いて出た」

「えっ? タローソンに寄った時に買っておいたんですぅ。ポテトはあくまで商談のお茶菓子(前菜)ですから! 移動中はちゃんとお弁当メインを食べないと、労働のエネルギーが持ちません!」

頭上の初心者マークを揺らしながら、口の周りに米粒をつけて熱弁するリリス。

神様というのは霞を食って生きているのかと思っていたが、コイツの胃袋は完全にブラックホールだ。

「安心してください尊しゃちょう! これは私のポケットマネー(先日のスライム清掃で尊が情けで渡したお小遣い)で買いましたから! 経費の横領じゃないですぅ!」

「そうか。お前が栄養失調で倒れないならそれでいい。シートに飯粒をこぼしたらローンにクリーニング代を上乗せするがな」

「ひぎぃっ! 慎重に食べますぅ!」

リリスが慌てて膝の上にハンカチ(お手製の人参柄刺繍入り)を広げるのを確認し、俺はダッシュボードの魔導通信石を開いた。

「さて、次の現場のブリーフィングだ」

「もぎゅ……はひぃ。次はどこなんですかぁ?」

「帝都から西へ数十キロ。ルナミス帝国、アバロン魔皇国、レオンハート獣人王国の三カ国の国境が接する緩衝地帯――『ポポロ村』だ」

俺の言葉に、リリスがピタッとおにぎりを食べる手を止めた。

「ポポロ村……! 本で読んだことがあります! 『月見大根』や『ハニーかぼちゃ』、それに甘くて美味しい『サンライス』の一大産地ですよね! 村中が美味しいもので溢れてるパラダイスですぅ!」

「お前の脳内マップは農産物カロリーで構成されてるのか。まあいい」

俺は魔導端末に表示された、リアンからの追加依頼文を読み上げた。

「依頼主は、先ほどのリアン・クラインだ。公爵家は、ポポロ村の特産品や嗜好品ポポロシガーを裏ルートで大量に買い付けているらしいんだが……数日前から、その納品が完全にストップしているらしい」

「ええっ!? 美味しいお野菜がストップ!? それは大事件ですぅ!」

「ああ。リアンの私兵マグナギアの偵察報告によれば、ポポロ村の農業の要である『聖なる泉』に異常汚染が発生し、村全体が水不足とパニックに陥っているそうだ。リアンとしては、武力による介入で村の自治を刺激したくない。だから、ただの『清掃業者』である俺たちに白羽の矢が立った」

俺は運転席の背後――後部スペースのケミカルラックに目をやった。

今回の依頼を受けるにあたり、リアンから前借りした金で、強力な凝集剤と特殊フィルター、そして中和用のケミカルを大量に積み込んである。

「どんな汚れか行ってみないと分からないが、水源の汚染(水質異常)は環境衛生の最重要課題だ。気合を入れろよ、リリス」

「はいぃ! 美味しい月見大根を守るためなら、私、トイレ掃除でもなんでもやりますぅ!」

不純な動機だが、やる気があるのは良いことだ。

俺はアクセルをさらに踏み込んだ。

マットグレーの社用車が、V8ハイブリッドエンジンの重低音を響かせながら、未舗装の荒野オフロードへと突入していく。ドワーフ製のカンガルーバーが、街道を塞ぐ邪魔な倒木を容赦なく弾き飛ばした。

 * * *

数時間後。

道なき道を走り抜け、周囲の植生が豊かな森へと変わってきた頃。

魔導ナビゲーションの目的地周辺――ポポロ村の入り口を示す木製のアーチが見えてきた。

「尊しゃちょう! 着きましたぁ! ポポロ村ですぅ!」

「ああ。だが……どうやら、歓迎ムードとはいかないらしいな」

俺は静かにブレーキを踏み、社用車を停止させた。

村の入り口のゲート前。

そこには、重厚なバリケードが築かれ、いかにも物騒な武器を構えた数人の村人……いや、自警団が立ち塞がっていた。

中でも一際目を引くのは、バリケードのド真ん中に仁王立ちしている、筋骨隆々の男だった。

頭には竜の角、背中には翼。手には、身の丈ほどもある巨大な両手斧バトルアックスを軽々と担いでいる。

「おいコラァ! そこで止まれや!」

竜人族の男が、ヤンキー丸出しの凶悪なツラ構えでこちらをギロリと睨みつけてきた。

「ひぎぃっ……! な、なんかすごく柄の悪い人がいますぅ……!」

「落ち着け、リリス。アポは取ってあるはずだ」

俺はエンジンを切らずにサイドブレーキを引き、ドアを開けて車から降りた。

俺の姿を見るなり、竜人族の男が鼻を鳴らす。

「あァ? なんだテメェ。見ねぇ顔だな。ルナミスの役人か? それともゴルド商会の回し者か?」

「『ヤマト・サニタリー』だ。村の泉の清掃依頼を受けてきた。通してもらおうか」

「……やまと・さにたりー? 清掃屋ァ?」

男は両手斧をドンッ!と地面に突き立て、腹の底から響くような声で大爆笑した。

「ギャハハハハッ! 清掃屋だと!? ふざけんな、今のこの村の状況分かってんのか! 泉からは猛毒のヘドロが湧いてんだぞ! モップとバケツ持った素人がウロチョロしていい場所じゃねぇんだよ!」

男の背後で、自警団の面々も「そうだそうだ」「帰れ!」と野次を飛ばす。

どうやら、リアンからの根回し(連絡)が末端の警備にまで伝わっていないらしい。田舎特有の情報の遅れ(デジタル・ディバイド)というやつか。

俺は懐からセブンスターを取り出し、マッチを擦った。

「あんた、ここの責任者か」

「俺様か!? 俺様はポポロ村自警団・突撃隊長、イグニス・ドラグーン様だ! テメェらみたいな怪しい業者を追い返すのが仕事でなァ!」

イグニスと名乗った竜人族のヤンキーが、肩をグルグルと回しながら両手斧を構え直した。

「どうしても通りてぇって言うなら……この俺様を力尽くでどかしてみやがれ!」

轟ッ! と、イグニスの口の端から紅蓮の炎が漏れ出す。

圧倒的な闘気と熱量が、周囲の空気をビリビリと震わせた。

俺は紫煙を細く吐き出し、携帯灰皿にタバコを捨てた。

そして、腰袋から漆黒の筒――特注の伸縮棍『掃討』を静かに抜き放つ。

「……仕方ない。現場への搬入経路を塞ぐ障害物は、撤去(お片付け)するに限る」

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