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第26話 突きつけられる真実! 暴かれた僕たちの正体

 絶望的な真実が記された図書館を後にし、僕たちはさらに下へと続く階段を降りていた。

 足取りは、鉛を巻きつけたように重い。


 コツ……コツ……。

 薄暗い階段に、僕たちの足音だけが虚しく響いている。


「……フェル」

 後ろを歩くエマが、僕の服の裾を弱々しく引っ張った。


「どうしたの?」


「……なんか、足がガクガク震えて、うまく歩けないよぉ……」


 エマが僕の背中にすがりついてくる。


 むにゅん。

 背中に、女の子らしい柔らかいふくらみが押し当てられた。


(……っ! こんな時なのに、やっぱりドキッとしちゃう自分が嫌になるな……!)


 僕は赤くなりそうな顔を誤魔化すように、エマの手をぎゅっと強く握りしめた。


「大丈夫。僕がついているから」


「……うん」


 やがて、同じような、無機質な金属のドアに辿り着いた。


 プシュゥゥゥッ……。

 扉が開くと、再びあの冷たい機械の駆動音が耳に飛び込んできた。


 ウィィィン……ガシャン。


(また、工場なのか……?)


 でも、地下七階で見たプラントとは、少し様子が違った。

 並んでいるガラスチューブの数が、圧倒的に少ないのだ。

 部屋の中央に、ひときわ巨大な『ふたつのチューブ』だけが、特別な機械に繋がれていた。


「あれって……」


 僕たちは引き寄せられるように、その巨大なチューブに近づいた。

 チューブの中には、見慣れた緑色の液体が満たされている。

 ブクブクと泡立つその奥に、何かが浮かんでいた。

 僕は冷たいガラスに手を当てて、中を覗き込んだ。


「……え?」


 息が止まった。

 心臓が、ドクンッ!と嫌な音を立てて大きく跳ねる。

 緑の液体の中に浮かんでいたのは。

 目を閉じて眠る、『僕』だった。


(なんだこれ……? 僕が、もう一人いる……?)


 水面に映る鏡を見ているんじゃない。

 確かにガラスの向こう側に、もう一人の僕の肉体がプカプカと浮かんでいるのだ。


「フェル……! これ、どういうこと……っ!?」


 隣のチューブを見ていたエマが、悲鳴のような声を上げた。

 僕は慌ててエマの横に駆け寄る。

 そこには、エマと全く同じ顔をした女の子が、液体の中で静かに眠っていた。


「なんで……? なんで、あたし達が、この中にいるの……?」


 エマがガクガクと激しく震え出し、その場にへたり込んだ。


(……考えろ。図書館で読んだ本の内容を)


 『プロジェクト・ノア』

 『滅亡した世界』

 『魔物や動物を作るプラント』


 そして、僕自身の記憶の欠落。

 浜辺で目が覚めた時のことだ。


 いくら記憶喪失でも、自分の声の出し方を忘れるなんてありえない。

 あの時の僕は、まるで初めて声帯を使ったみたいに、うまく声が出なかったんだ。


「……エマ」


 僕はカラカラに乾いた喉から、やっとの思いで声を絞り出した。


「僕たちは、漂流して記憶喪失になったんじゃない」


「え……?」


 震えるエマが、涙目で僕を見上げる。

 僕は、突きつけられた残酷な真実を口にした。


「僕たちも……作られたんだ。この工場で」


「嘘……」


 エマの顔から、完全に血の気が引いた。


「あたしたちも……スライムや、ウサギたちと一緒ってこと……? 人間じゃ、ないの……?」


 エマの目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。


「やだ……! こんなの嘘だ! あたしは、エマなのに……っ!」


 エマが両手で顔を覆い、わあわあと子供のように泣き出した。


(そうか……。だから、あんなに都合が良かったんだ)


 ぴったりすぎる服や装備にお風呂。

 地下三階の小屋に置かれていた、ふたつのコップ。

 エマの悲鳴を知っていたオウム。


 僕たちは、ここで何度も何度も作られては、死んで、また作られてを繰り返していたんだ。

 この巨大な箱庭の、モルモットみたいに。


 僕は、泣き崩れるエマの体を、力強く抱きしめた。


「フェル……っ、あたし、人間じゃないの? ……こんなのって……」


「違う! エマはエマだ!」


 僕は、エマの背中に腕を回して、ぎゅっと強く抱きしめ返した。

 温かい体温。

 女の子らしい甘い匂い。


(偽物なんかじゃない。こんなに温かいんだ)


「一緒に笑って、美味しいお肉を食べて……! エマが作ってくれた服を着て、僕はここまで来たんだ!」


「フェル……」


「作られた存在でも構わない! 人間じゃなくたって、エマがいれば、僕はそれでいいんだ!」


 僕の言葉に、エマは僕の胸に顔を埋め、さらに声を上げて泣いた。

 僕はただ黙って、彼女の震える背中を優しく撫で続けた。


 どれくらいそうしていただろう。

 やがてエマの泣き声が小さくなり、ゆっくりと顔を上げた。


「……ごめんね、フェル。服、涙で濡らしちゃった」


「気にしないで。……落ち着いた?」


「うん……」


 エマは赤く腫れた目で、真っ直ぐに僕を見つめた。


「あたし、人間じゃないかもしれないけど……フェルのことは、大好きだよ」


「っ……!」


 予想外の言葉に、顔が一気にカッと熱くなる。


「ぼ、僕だって……好きだ」


 照れ隠しで目をそらしながら答えると、エマはふふっと少しだけ笑った。


「行こう、エマ。このふざけた箱庭を作った奴のところへ」


 プラントの最奥。

 そこには、今までで一番大きく、重厚な金属の扉がそびえ立っていた。


 僕たちは、知らなければいけない。

 この島の、世界の、僕たちの真実を。

 きっと、これが最後だ。


 僕はエマとしっかりと手を繋ぎ、その冷たい扉の取っ手に手をかけた。

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作られたなんて! そんなことをしたやつは誰だ? 酷い!
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