第25話 謎の図書館! 世界の終わりを告げる予言!
狂ったように並ぶガラスチューブのプラントを抜け、僕たちはさらに奥へと進んだ。
突き当たりの扉は、今までで一番分厚く、重たい金属でできていた。
「……開けるよ」
「う、うん……」
僕は両手に力を込め、冷たい取っ手を思い切り押し込んだ。
ギィィィ……ッ!
重い音を立てて、金属の扉が開く。
その先から漂ってきたのは、古い紙とインクが混ざったような、独特の匂いだった。
「ここは……」
「本が、いっぱい……図書館?」
目に飛び込んできた光景に、僕たちは呆然と立ち尽くした。
見上げるほど高い天井。
その天井まで届く巨大な本棚が、まるで迷路のようにズラリと並んでいる。
さっきまでの無機質で気味の悪い機械音は、ここには一切届いていない。
耳が痛くなるほどの、ひどい静寂だった。
「なんで、こんな地下深くに……こんな場所があるの……?」
不気味な静けさに怯えたのか、エマが僕の背中に隠れるようにして、腕にぎゅっとしがみついてきた。
僕はカッと熱くなりそうな顔を激しく振って、必死に雑念を追い出した。
今は、この異常な世界の真実を探るのが先だ。
コツ、コツ……。
足音がやけに大きく響く。
本棚には、歴史書、医学書、植物の図鑑など、ありとあらゆるジャンルの本がぎっしりと詰め込まれていた。
まるで、世界の知識をすべてここに集めたみたいだ。
ふと、通路の突き当たりにある壁に、大きな額縁が飾られているのが目に留まった。
「……肖像画?」
僕は足を止め、その絵を見上げた。
描かれていたのは、立派な杖を持った美しい大人の女性だった。
自信ありげに、少しだけ勝ち気な笑みを浮かべている。
その下にはめ込まれた金属のプレートには、『大賢者エマニエル』と刻まれていた。
(……あれ?)
僕は肖像画の女性と、隣で腕を掴んでいるエマを交互に見比べた。
黒くて短い髪の毛。
少し強気な、つぶらな瞳。
笑った時の口元のライン。
(……そっくりだ。大人になったエマを見ているみたいだ)
名前も『エマニエル』。
愛称にすれば『エマ』になる。
「どうしたの、フェル? あたしの顔になんか付いてる?」
じっと見つめていたせいで、エマが不思議そうに首を傾げた。
「い、いや。なんでもない」
偶然の一致かもしれない。
僕は胸のざわめきを誤魔化すように視線を外し、部屋の中央へと歩き出した。
そこには、立派な木製の大きな机が置かれていた。
「フェル、見て。あの本……」
机の上には、一冊の分厚い本が開かれたまま置かれていた。
周りの本に比べてホコリを被っておらず、明らかに最近まで誰かが読んでいたような形跡がある。
「なにか書いてあるの?」
エマが背伸びをして、僕の肩越しに本を覗き込んでくる。
「えっと……なになに……」
僕はページに書かれた文字を、ゆっくりと声に出して読み始めた。
『――遠くない未来において、天変地異による大洪水が予言された』
「……えっ?」
エマが息を呑む。
僕の心臓も、ドクンッと大きく跳ねた。
『このままでは、世界が海に沈み、人類が完全に滅亡してしまうだろう』
(滅亡……? 大洪水……?)
指先が、カタカタと小さく震え出す。
嫌な汗が背中を伝った。
僕は唾をゴクリと飲み込み、必死にその続きに目を落とした。
『王国の混乱を防ぐため、この事実は民衆には伏せられている』
『パニックになれば、天変地異の前に国が滅んでしまうからだ』
「……そんな」
『仮に巨大な船を作ったとしても、国民のすべてを救うことは絶対に不可能である。選ばれた者しか、生き残ることはできない』
あまりにも残酷な言葉が、淡々と綴られている。
僕は震える手で、重いページをめくった。
バサッ。
『我々は、古の神話に倣うことにした』
『かつてノアという男が神からの啓示を受け、方舟を作り、動物のつがいや植物の種を保管したという伝説に』
『我々人類も、滅亡に備える必要がある』
文字を追う僕の目が、大きく見開かれた。
『そこで我々は、王国にある一番高い山に目をつけた』
『山の頂上を、巨大な船に見立てるのだ』
「……山の、頂上?」
『山頂から地下深くへと巨大な穴を掘り、そこへ動物や植物を保管する』
『魔導科学の施設、資材、ありとあらゆるものをその方舟に運び込むのだ』
ページの一番下。
ひときわ大きな文字で、こう締めくくられていた。
『人類の生き残りを賭けた一大国家計画。――プロジェクト・ノア』
「プロジェクト……ノア……」
僕の口から、掠れた声が漏れた。
頭の中で、強烈な違和感のピースが、ガッチリと一つに組み合わさってしまった。
地下に行くほど広くなっていく、ピラミッドのようなダンジョンの構造。
太陽の光を再現した地下三階の森。
動物や魔物を人工的に作っていた、地下七階のプラント。
「ねえ、フェル……それって、どういうこと……? 大きな船って……」
エマの顔から、さぁっと血の気が引いていた。
彼女も、うすうす気づき始めている。
「エマ……。この島は……島なんかじゃない」
僕は乾いた唇を舐めて、震えるエマの両肩を掴んだ。
信じたくない現実が、喉の奥から無理やり絞り出される。
「海に沈んで滅亡した世界の……一番高い山の『てっぺん』だったんだ」
「嘘……。じゃあ、あたしたち以外の人類は……」
待てど暮らせど、助けの船が通りかからなかった理由。
海に出ても、周りに何一つ陸地が見えなかった理由。
誰もいない。
助けになんて、最初から来るわけがなかったのだ。
世界はとっくの昔に、海の底に沈んでしまっていたんだから。
「そんなの……嘘だよ……っ」
エマの目から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちる。
エマはその場にへたり込み、両手で顔を覆った。
静まり返った巨大な図書館に、彼女の小さなすすり泣きだけが、いつまでも悲しく響いていた。
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