タイトル未定2025/11/19 07:52
飲食店が並ぶ繁華街の中に、ちはるの大声が響いた。
「あたしらを、なめんじゃないわよ!」
「友光!もっと言ったれ!」
ちはるの罵声を追うように、馬場のどか声も響く。
午後の会議で、企画部の社員に上目線的態度で意見を言われ、ちはるのはらわたは、煮えくりかえっていた。
業務を終えると、ちはるは馬場と赤井を引き連れ、繁華街の居酒屋を数件はしごしていたのだった。
「ふたりとも、飲みすぎです。もう、帰りましょうよ」
ちはると馬場の背後から、赤井が言った。
そんな三人を、通りががかりの人々が遠慮なく笑う。
「いいぞ~姉ちゃ~ん!」
「ありがと~」
ちはるは酔っぱらいの見知らぬサラリーマンに、笑顔を振りまいた。
「友光!あんなバカは、相手にするな!」
「そうですよ!ちはるさん、行きましょう」
赤井はちはるの腕を引っ張りながら、ちはるに言い聞かせた。
「企画部の連中に、いちいち反応をしていたら、いくつ身体があっても足りませんよ」
「ごらぁ!赤井。慣れ慣れしく、友光の腕を持っているんじゃねえよ!」
馬場が引き裂くように、ちはるの腕から赤井の腕を離した。
赤井は、自分がちはるの腕を掴んでいたことにやっと気付いた。
「すっ、すみません!」
赤井は顔を赤くし、慌てて頭を下げた。
そんな赤井の姿を見たちはるは、声を上げた。
「耳まで赤くして、赤井ったら、かっわいい~!」
「友光!バカなこと言ってないで、早く歩け!」
馬場が歩き出し、その後を追うように、ちはると赤井は歩き出したのだった。
マスターとの会話に、亮は時間の経つのを忘れていた。
腕時計を見て、慌てて言った。
「遅くまで、すみません」
「かまいませんよ」
亮はようやくカウンター席から立ち上がり、会計を済ませた。
亮がドアの前に立つと、マスターは店のドアを開けた。
店の外に出た亮は振り返って、マスターを見上げた。
「あの……」
ドアを半開きにさせ、変わらないやさしい微笑みのマスターがいる。
「また来ても、良いでしょうか」
「いつでもお越し下さい。お待ちしております」
亮は、笑顔になった。
「ありがとうございます。あっ、……カレー美味しかったです」
「料理人に伝えておきます。喜びますよ」
亮とマスターは、見つめあって微笑んだ。
大声を上げて歩いていたちはるの足が、いつしか止まっていた。
「友光、どうした?」
「ちはるさん?」
馬場と赤井は、揃ってちはるに声をかけた。
ちはるは、何処かをみつめている。
「ぱっつんだ」
「ぱっつん?ああ、秘書課の北神ちゃんのことか」
ぱっつんと言う言葉に、馬場が反応した。亮の前髪は、まゆ毛の上でばっさり切られていて。社員たちは影で「ぱっつん」と呼んでいた。
「あの店、barよね?」
「そうだな」
「北神さんって、独りでbarで飲むんですね。初めて知りました!」
赤井が、驚き声を上げた。馬場が、店の看板を見あげる。
「ジェシカって言う店か」
ちはるは、亮に微笑んでいるマスターを、じっと見つめていた。
やがてマスターは、店の中に入っていった。
黙ったままマスターを見つめていたちはるが突然歩き出したので、馬場と赤井は慌ててちはるを追いかけた。




