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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第4章 死者の導き手編
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第1ラウンド、決着(幻)

ついに戦闘開始。翔太はジューハに高い身体能力に物を言わせた、三次元的な動きによるゴリ押し戦法で戦う。それでジューハは苦戦。しかしその中でジューハは反撃の兆しが見えていた。一方、アリスはテイルが翔太から受け取っていた指示書を見て、翔太が自己犠牲で動いていることを確信する。しかしその時、その指示書に書かれていた文字が黒炭のようなもので書かれていることに違和感を覚える。それもそのはず、その文字はシャーペンで書かれていた。

 現状、地の利を最大限に生かして戦っている翔太の方が優勢なのは明白だろう。しかし当の本人は怪訝そうな表情でジューハを見ていた。

 その理由は、ジューハが今もなお抵抗を続けているからである。


 もちろん、誰だって死にたくないと思うのは当たり前のことであり、生きているといって良いのか怪しいジューハであっても、その考えに当たらずとも遠からずといった具合で当てはまるだろう。

 しかし翔太が気になっていたのは、既にボロボロの両腕を必死に上げてまで翔太の攻撃を受けているということである。


 なぜジューハは翔太の攻撃を躱さないのか。

 躱せないからと言えばそれまでだが、仮にもしもジューハが意図的に躱さずに受けているのであれば、彼は一体何をねらっているのか。


 このような状況ならば、翔太の今後の作戦としては相手の動きに用心しながら攻めるというのが無難な手だろう。

 しかしこの時の翔太の頭の中では、「短期決戦」という文字が深層心理のように浮かんでいた。


 その結果、翔太はジューハが何をしてきても対処できる距離を取るのではなく、何かされる前に仕留めるために先ほどよりも深く間合いに踏み込んだのだ。


 そしてそれが仇となる。


 懐に一気に飛び込んだ翔太が満身創痍のジューハに‘狂襲の獣(短剣)’を振るおうとした瞬間、突然吹き荒れた強風が翔太の身体を吹き飛ばした。

 翔太はその勢いのまま木に叩きつけられ、肺の中の空気が一気に外へ押し出される感覚に襲われる。


「ガハッ……なんだ、今のは!?」


 翔太が今起こった現象について驚きの声を上げると、ジューハが今までにないくらい上機嫌な声で答える。


「今のは自分の周囲に突風を起こすという、ただの風魔法だ。そう驚く事ではないよ」


 ジューハのそんな自信ありげな表情と口調から、翔太は瞬時に彼がこの状況を狙っていたということを悟った。

 翔太は咄嗟に近くの茂みに身を潜め、ジューハからいったん距離を取るが、とはいえ彼の中でどうしても納得できないことがあった。


 それはなぜジューハの攻撃がもはや完璧と言えるほどのタイミングで当たったということである。

 その原因の一端にはもちろん、翔太が懐に深く入りすぎたこともあるのだが、それにしても絶妙なタイミングすぎたのだ。


 翔太の動きが完全に見えていたのならば、ジューハはもっと殺傷力のある魔法を使うだろう。

 翔太はその完璧なほどのタイミングで放たれたにもかかわらず、その攻撃の質が高くないという矛盾に引っ掛かりを感じていたのだ。


 しかしそれもそのはず、ジューハが見ていたのは翔太の動きそのものではなく、その規則性である。

 人は何かしらの動作を連続で行っていると、本人でさえ気づかないうちに規則性のある行動をしているものである。


 ジューハは連撃を喰らっている最中、翔太の動きにある程度の規則性があることに気が付いたのだ。

 それさえ分かれば後は単純明快。翔太がその規則性に動きを取るまで耐え続け、その動きをしたらそれに合わせて魔法を放つだけ。


 だからこそジューハは翔太の攻撃のタイミングに合わせて、どの方向からも対処できる且つ、躱しづらい範囲魔法で反撃したのだ。


 余裕の態度を見せ始めるジューハに対して、翔太は苦虫を潰したような表情を見せる。

 しかしそれも無理はない。何しろ、たった一発の魔法で戦況をひっくり返してしまったのだから。


 カウンターを放たれたのなら、攻撃のタイミングをずらせばいいだけであるが、事はそんな単純なことではない。

 翔太は先ほどの全方位への攻撃が可能という事実により、迂闊にジューハの懐に飛び込みづらくなっている。当然、攻撃の手数も減少する。


 だからと言ってカウンターを警戒して遠距離から攻撃するのは、魔法を用いた撃ち合いになるのは明白である。

 そうなってしまえば、どちらが優勢になるかは言うまでもないだろう。


 そこで当然ながら、翔太はジューハの気を逸らす何かが必要だと考えるだろう。


 ただし、この戦況を狙っていたジューハがそれを許すはずがない。

 ジューハは即座に周囲の茂みに向かって魔法を連射した。もちろん、ジューハは今もなお気配を消しているかのように身を潜めている翔太の位置を把握しているわけではない。

 単純に、翔太をあぶり出そうとしているのだ。


 そしてジューハのその選択は、翔太にとってまさしく最悪の手だった。

 それもそのはず、今の翔太に必要なのはこの状況を逆転できるような策を考える時間である。

 ジューハが無駄に魔力を消費しているという点においては喜ばしいことだが、ジューハはそんなことよりも今の状況を利用して勝負を決めに来ていることはもはや明白。


「……くそっ!」


 翔太は誰にも聞こえないような小さな声で悪態をつくと、我慢の限界と言わんばかりに茂みから飛び出し、そのままジューハに向かって行く。

 それに対して、ジューハもまた狙い通りと言わんばかりに先ほどと同じ風魔法を放とうとしていた。


 両者の距離が一気に縮まるなか、ジューハが風魔法を放とうとする直前に翔太は自身に急ブレーキをかけて、先ほど反撃を受けた時よりも距離を取っていた。


 先ほどと同じ範囲魔法が来ると想定していた翔太は、どうせ躱せないのならば如何にダメージを抑えるのかを重視したのだ。

 そこで翔太は、如何に魔法と言えど放たれた直後とその数秒後では多少なりともその威力に変化が生じているだろうと考えていた。


 そして狙い通り、ジューハの放った強烈な風が翔太を襲うが、彼の予想通りにその威力は先ほどと比べてなんとか耐えられる程度のものになっていた。


 しかしジューハは翔太の即興の対応に対して、笑みを浮かべていた。しかもそれは愉悦というよりは侮蔑に近い、嘲笑だった。


「甘いなぁ……なぜ私が風魔法を使っているのかを理解していないようだな?」

「なにっ!?」


 そんなジューハの言葉と共に翔太に向かって行ったのは、彼らの足元に転がっていた小石や枝だった。

 それらは何の変哲もない、本来ならば武器にもなりえない物体である。


 しかしそれも吹き荒れる風により、強力な投擲と変わらない結果となって翔太に襲いかかっていた。

 翔太も咄嗟に急所を防御するが、それでも小石が打撃のように彼の骨に鈍い痛みを与え、小枝が槍のように彼の肌を傷つけていく。


 そしてその勢いに負けた翔太は再び、ジューハから離れていく。それに対して、ジューハはその隙を見逃さず、畳み掛けるように風魔法を放ち続けた。

 その攻撃を紙一重の所で躱す翔太だが、その手数の多さに完全には躱しきることができず、少しずつとはいえ確実にダメージを受け続けていた。


 その状況に耐えきれず、翔太はジューハが魔法を放つわずかなタイムラグを狙って、短剣を投げ放つ。

 ジューハは翔太の思わぬ反撃に身をよじって躱した。当たっていれば良かったと思う翔太だったが、それでもジューハの攻撃の手を止めるという当初の目的を達成できたため、彼は全速力で三度身を隠すために茂みに向かって行った。


 それを見たジューハはチャンスだと感じた。

 なぜなら、ジューハは翔太の厄介な点の一つとして、異常なまでの切れ味を誇る‘狂襲の獣(短剣)’を挙げていたのだ。翔太がそれを手離したということは、彼の脅威が半減したといって良いだろう。


 それが意味するところは、勝利への前進である。

 とはいえ、ジューハは油断しない。既に彼の中で翔太は何をするのか予測がつかない存在だからこそ、最後まで気を緩めず、何が起こっても対応できるように周囲に気を向けた。


 しかしその時、翔太の投げたはずの短剣は地面に落ちることなく、翔太が逃げ込んだ先の茂みに向かって行ったのだ。

 その時、ジューハは何の根拠もなかったが、それが翔太の手元に戻っているのだと確信していた。

 とはいえ、状況は未だにジューハが優勢なのは事実である。だからこそ、ジューハは冷静に茂みに狙いを定めた。


 一方、翔太は“物体引力(フックショット)”で手元に戻した短剣を手にすると、今度は身を潜めるのではなく、茂みに姿を隠しながらも、その場を高速で移動した。

 隠れていてもあぶり出されるのならば、せめて攻めの手を維持しつつ、且つ一秒でも長く打開策を考える時間を稼ぐためには動き続けた方が良いと判断したのだ。


 しかしそれでも自身が劣勢に立たされていることには変わりない。

 何かないかと翔太は頭を必死に回転させた。しかし思いつく策はジューハに通じないものばかりで、逆転できるとは到底思えなかった。


 どうにかしてジューハの気を一瞬でも逸らすことができればと、翔太が考えた時、懐にあるものの存在を思い出し、その時、賭けとも言える策を思いついた。


 それは翔太だからこそできるものであり、今思いつくなかで最高の策である。

 翔太の中で不安に思うところもあったが、翔太はその策に賭け、その下準備に取り掛かるのだった。


    ◇◆◇


 翔太が茂みに身を隠して数十秒が経過した頃、何の前触れもなくその膠着が崩れる。

 なぜなら、翔太が序盤で見せた気を足場にした三次元的な動きで茂みから飛び出してきたからである。


 とはいえ、未だに翔太が攻勢に出る気配はなく、それを見たジューハは翔太が何かを狙っているのだと推測した。


 そして、だからこそ心を落ち着かせながら、静かに翔太の攻撃に備えた。

 彼の動きと今までの攻防から、彼の体力は残り僅かなのは明白であり、その事実からこれが翔太の最後の攻撃だと推測していた。


 とはいえ、翔太が未だに奥の手を隠していたり、彼自身を囮として死角から何かを使って攻撃するという可能性もあるため、全方位を警戒を緩めることはない。


 そして、互いに隙を窺うなか、遂に決着の時が訪れる。


 翔太は幾度のフェイントを重ねながら、遂に翔太から攻撃を仕掛けたのだ。

 その動きは今までと変わらず、素早く、そして直線的。


 ジューハはここまでだなと悟りつつ、そのタイミングを見切っていたかのようにとどめの魔法を放とうとした。

 しかしその時、静かな森に、とある者の声が響く。


 それは、この戦いのきっかけとなった人物であり、ここにいるはずのない人物のもの。


「翔太さん!」


 その声に対して即座に反応したジューハは驚きの声を上げる。


「メイサ!? なぜここに……」


 それはジューハが心から欲し、何を犠牲にしても手に入れたがっているメイサの声だった。

 しかしジューハがその声のする方向を見た時、そこには誰の姿もなかった。あったのは木に立てかけられた、四角形の黒いガラスでできているかのような道具だけ。

 ジューハはその道具が何か分からず、反応できずにいた。


 ただし、その道具を知っているものはこう呼ぶ――


 ――スマートフォンと。


 翔太はこの世界にやって来てから、この世界に来た時にシャーペンやスマートフォンなどの所持品を捨てずに今まで持っていたのだ。

 正しくは、捨てて良いのか分からなかった、もしくは捨てられなかったのだが。


 とにかく、翔太はスマートフォンの録音機能を使い、“声質変化(ボイス)”でメイサの声に変化させたものを録音し、その声がジューハに届くタイミングに合わせて攻撃したのだ。

 ただし、この策には一つの問題があった。


 それはメイサの声を聞いたジューハならば、当然この場に彼女がいると思い、戦闘から離脱し、彼女を捜索することは十分に考えられる。そして、メイサの声でジューハの気を引くというこの策はジューハの意識が翔太に最大限集中している時こそ、その真価を発揮するものである。

 つまり、翔太の攻撃のタイミングが分からない限り、その最大の効果を発揮することはできないのだ。


 しかし今までの攻防でジューハは翔太の攻めるタイミングを理解していた。それこそが翔太がこの策を最高の策だと考えた理由である。

 最大の問題を、敵であるジューハ自身が解決してくれたのだ。


 ジューハが翔太の攻撃を完璧なタイミングで迎撃しようとしたことで翔太の策はその効果を発揮し、メイサの幻影がジューハの集中力を削いだ。

 それにより、ほんの一瞬だけ、彼の頭の中から今が戦闘の最中だということが抜け落ちた。


 そして、その一瞬の隙を見逃す翔太ではない。


「……はっ! しまっ……」


 意識を取り戻したジューハが再び翔太を目視した時、既に翔太は彼の間合いに入っていた。

翔太は一気に間合いに踏み込むと、地を這う狼のように低い位置から螺旋の回転を伴った跳躍と共に、斬撃と蹴撃を放つ――


「――螺旋狼」


 その言葉と共に放った翔太の全力の技は、ジューハの身体を輪切りにし、脆くなった骨は蹴撃によって砕かれた。


 そうしてバラバラになったジューハを見て、翔太は勝利の笑みを浮かべる。

 しかしジューハもまた心の中では笑みを浮かべていた。


 確かに、この戦いは翔太の勝利で幕を閉じたと言っていいだろう。

 しかしジューハにとって、この戦いは第一ラウンドといえるものだった。


 そして、最後に勝利すれば何も問題はないと考えていたのだった。


まさか二か月近く更新していなかったとは、作者自身驚きの声を上げました。もう完全に不定期更新になっていて、すみません!

毎日更新とか、決まった時間に更新している人とか、本当に尊敬しますね。

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